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ゆうき あきや
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厚揚げ衣
20
なんたろ
1
いちご@ホロオタ×ぴちりす
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第67話:アイドルの動き、おっさんの関節〜最新技術が暴く『老い』と、完璧な不審者〜
『さあさあ、始まりました! 星乃宮アリスの3D生配信! 皆さん、こんばんわー!』
港区の超高層ビル、その一室にある広大なモーションキャプチャースタジオ。
防音ガラスの向こう側から、星乃宮アリスの完璧な『トップアイドルボイス』が響き渡った。
目の前の巨大モニターには、キラキラと輝く豪華なバーチャルステージと、そこでピョンピョンと元気に飛び跳ねる、可愛いアリスの3Dアバターが映し出されている。
『今日のスペシャルゲストは、なんと! 今一番勢いのある個人VTuber! アイドルの駆け込み寺こと、ルシフェル和尚です!!』
『うおおおおおお!!』
『和尚キターーー!!!』
『ついに3D化!!』
『スタプロのステージに個人勢が立つ歴史的瞬間!!』
アリスのチャンネルの同接は、開始わずか一分で『十五万人』を突破していた。
俺の枠では見たこともない、とんでもない人数の視線が、今、この瞬間に集中している。
俺は、ピチピチの黒い全身タイツ(モカピ)に包まれた四十歳の腹にグッと力を入れ、スタジオの中央へと足を踏み出した。
『どうぞー! ルシフェルさん!』
「……ちーっす。ルシフェルだ。おいお前ら、消費税、払ってるか?」
俺が低く枯れた声で挨拶をしながら、右手を軽く上げる。
すると、モニターの中央にパッと現れたのは、黄金に輝く長髪と、吸い込まれるような碧眼を持った、身長百八十センチ超えの超絶美青年だった。
『顔がいいwwww』
『3Dモデルのクオリティ高すぎだろスタプロ!!』
『見た目イケメンなのに第一声が消費税で草』
『声とガワのギャップで脳がバグるww』
『ジェミニ先生! おっさんがついに受肉しました!』
チャット欄が、凄まじい速度で滝のように流れ始める。
すげえ。
俺が腕を動かせば、イケメンが腕を動かす。俺が首を傾げれば、イケメンも首を傾げる。
数億円の最新技術が、俺の動きを遅延なく三次元の空間にトレースしているのだ。
『いやー、ついにルシフェルさんも3Dですね! どうですか、バーチャルの体の住み心地は?』
アリス(の3Dアバター)が、俺の隣に寄ってきて、キラキラした瞳で見上げてくる。
「ああ。最高だぜ。二百五十万の自己負担金と、インボイスという名の悪魔の契約書にサインした甲斐があったってもんだ」
俺が恨み節を吐き捨てると、アリスは「あははっ」と笑い、そして、とんでもない無茶振りをかましてきた。
『せっかくの初3Dコラボですから! ルシフェルさんも、アイドルらしいことやってみましょうよ!』
「……は? アイドルらしいこと?」
『はい! 私と一緒に、可愛いアイドルのポーズをして、スクショタイムにしましょう!』
俺の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
可愛いアイドルのポーズ。
四十歳の元ニートが、全身黒タイツを着て、港区のスタジオのど真ん中で。
「お、おいアリス。それはちょっと……俺のキャラじゃねえっていうか、関節が……」
『えー? できないんですかー? ルシフェルさんのリスナーさんも、可愛い和尚の姿、見たいですよねー?』
『見たい!!』
『おっさんやれ!!』
『二百五十万のアイドルポーズ見せろ!!』
『スパチャ:10,000円(可愛いポーズの代金です!)』
チャット欄とアリスの完璧な連携プレイ。
こうなったら、逃げる道はない。俺はプロのインフルエンサーだ。リスナーが金を投げるなら、ピエロにだってなってやる。
「……わ、わかったよ! やりゃあいいんだろ! どんなポーズだ!」
『じゃあ、定番の『キュンポーズ』でいきましょう! 右足をピョンって後ろに上げて、両手でハートマークを作って、最後にバチッとウインクです! いきますよ、せーのっ!』
アリスのアバターが、見事な滑らかさで右足を跳ね上げ、頭の上で綺麗なハートマークを作り、完璧なウインクをキメた。
まさに、アイドルの王道。百点満点の可愛さだ。
「よし……右足を上げて、手でハート……ッ!」
俺は、ピチピチのモカピの拘束感に抗いながら、四十歳の硬まりきった右足を後ろに跳ね上げようとした。
その、瞬間である。
『パキキィッ!! ゴリッ!!』
「い、いっでぇぇぇッ!?」
マイクが、俺の腰と膝から鳴った、乾いた破裂音を完璧に拾い上げた。
痛い。筋が、筋が攣った!
先日リングのフィットネスゲームで破壊された筋肉痛が、まだ完全に治りきっていなかったのだ。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
俺は激痛に顔を歪めながら、無理やり右足を不自然な角度で引き上げ、両手を頭の上に持ってこようとした。
しかし、四十肩の気配が忍び寄る俺の肩関節は、両手を綺麗なハートマークの形に結ぶことを許さなかった。
結果として。
モニターの中に映し出された超絶イケメン(ルシフェル)の姿は、この世のものとは思えないほど恐ろしい状態になっていた。
首は痛みに耐えるために不自然に前に突き出され。
両手はハートマークにならず、まるでゾンビのように獲物を掴みかかるような『カマキリの鎌』の形に歪み。
右足は、ガニ股のままプルプルと痙攣している。
最新鋭のモーションキャプチャー技術が、俺の『老い』と『関節の悲鳴』を、ミリ単位の精度で正確にトラッキングしてしまったのだ。
『…………』
『…………え?』
『ヒィィィィィッ!?』
『怖い怖い怖い!!』
『不審者だ!! 通報しろ!!』
『イケメンが完全にバグってるwwwww』
『関節のパキッって音マイクに入ってたぞwwww』
『バイオハザードの敵かよww』
十五万人のリスナーが、画面に突如現れた『完璧なガワを持ったクリーチャー』にパニックを起こし、草(ww)と悲鳴を乱れ打った。
ガラスの向こうのオペレータールームでは、神崎プロデューサーたち技術スタッフが「モデルがバグったのか!? いや、演者の動きのままだ!」と大慌てで機材をチェックしている。
そして、隣にいたアリスは。
『あ、あはははははっ! ひぃっ、むり、お腹痛いっ!! 和尚、やばい、動きが完全に変質者!! あはははははっ!!』
3Dアバターが腹を抱えてしゃがみ込むほど、呼吸困難に陥りながら大爆笑していた。
裏でアイコスをふかしていた時のヤサグレた彼女ではなく、心の底から『四十歳のおっさんの無様な姿』を面白がっている、素の爆笑だ。
「わ、笑うなァァァ! こっちはガチで腰の筋が攣って動けねえんだよ!!」
俺はカマキリのようなポーズのまま、ピキピキと痛む腰を押さえて絶叫した。
「数億円の機材使って、なんで俺の関節の硬さまでリアルに再現してんだよスタプロの技術力は!! もっとこう、自動で可愛く補正する機能とかねえのかよ!!」
『な、ないですよそんなのぉ! はぁ、はぁっ、和尚、そのポーズのまま固まらないで! 放送事故になるからっ!』
「動けねえんだよ!! 誰か……誰か湿布持ってきてくれぇぇぇ!!」
港区の最新鋭スタジオのど真ん中で。
黒タイツ姿の四十歳が、変なポーズで固まったまま湿布を要求して喚き散らす。
その圧倒的にシュールな光景と、イケメンアバターの無駄遣いに、同接はあっという間に『二十万人』という未知の領域へと跳ね上がっていた。
『スパチャ:50,000円(やばい、今年一番笑ったwww)』
『スパチャ:10,000円(労災下りるだろこれww)』
『スパチャ:50,000円(整体代だ! 早く治してこい!)』
『スパチャ:5,000円(インボイスのストレスが腰にきたな)』
『伝説の放送事故ww』
極彩色のスーパーチャットが、雨あられと降り注ぐ。
金額のカウンターが、恐ろしい速度で跳ね上がっていく。
「だーかーらー! スパチャ投げるなって!! お前らが投げれば投げるほど、俺の来年の消費税が増えるんだよォォォ!! 痛てぇぇぇ!! 腰がぁぁ!!」
バーチャル空間という『神の領域』に足を踏み入れてもなお。
俺の肉体は四十歳の限界を露呈し、そして俺の魂は『税金』という資本主義の鎖から逃れることはできなかった。
「アリスゥゥ! お前絶対に後で治療費と消費税分おごれよォォォ!!」
俺の情けない絶叫が、三十万の歓声と共に、バーチャルの夜空へと響き渡る。
泥臭く、金にまみれ、関節を軋ませながら。
底辺おっさんとトップアイドルの伝説の3Dコラボは、史上最高の熱狂と爆笑を巻き起こしながら、さらなるカオスへと突き進んでいくのだった。
コメント
1件
うわああ笑ったww 第67話、めっちゃ面白かったです!「関節のパキッ」って音がマイクに入るところからもうダメでした。最新鋭の機材がおっさんの老いを完璧にトレースしちゃう皮肉、ゆうきさんのそういう描写が本当に好きです。イケメンアバターなのに動きが完全に不審者になってるギャップがたまらなくて、笑いすぎて涙出ました。スパチャ乱れ打ちの流れも最高でした。お疲れさまです!