私が一花ちゃんと仲良くなったのは、高校一年生の時、私が家族の写真を落としちゃったことがきっかけだった。
「ない、ない! どこ、どこに行ったの?」
私は心当たりのあるところを一人で探し続けていた。
「ねぇ、蓼原さん?」
「――っ!?」
背後から声をかけられて振り返ると、そこにはクラスメイトの女の子がいた。
声が綺麗で、いかにもお嬢様という感じの女の子だ。
「どうしたの、そんなところで」
「あ、あの、えっと……」
私がどきまぎしていると、その子はニコっと笑った。
「あ、私? 私は東雲一花。自己紹介したけどまだ覚えてないよね?」
「そ、そんなことないよ。ちゃんと覚えてる……」
「ふーん、それでどうしたの?」
「あの、写真が……」
「写真?」
「私の家族の写真、落としちゃって」
「あ、そうなんだ。じゃあ私も探すね」
「え!? い、いいよ、そんなことまで」
「いいのいいの。二人で探した方が早いでしょ? ね、二人で探しましょ」
「あ、ありがと……」
一花ちゃんと一緒に探して、日が暮れる前に何とか見つけられた。
「ねぇ、これじゃない?」
そう言われて、フォトケースを渡される。
「あ、うん。これ!」
「見つかってよかったね、蓼原さん」
「あ、ありがとうね」
「うん、どういたしまして」
それ以来、私は一花ちゃんの事が気になっていた。
お嬢様らしい立ち振る舞いで、気さくで親切な女の子。
一花ちゃんはクラスの子たちから人気があった。
あの日助けてくれたのは、ただ単にクラスメイトの私が困っていたからで、たぶん他意なんかないのだ。
「ねぇ、蓼原さんさぁ」
「え?」
後ろから急に声をかけられる。綾瀬七緒(あやせ ななお)というクラスメイトだ。
「アンタさぁ、どうして先生に言われた通り課題のプリントの回収をしなかったの? 昨日先生から頼まれたよねぇ? 先生怒ってたよ?」
「え? 私そんなの知らないよ?」
「嘘つかないでくれる? 遥が先生からの伝言、ちゃーんとアンタに伝えたんだからさぁ。ね、遥ちゃん? 伝えたよね?」
「うん、私、ちゃんと仁美ちゃんに先生からの伝言したもん」
「ほらね? まさかアンタ、遥が嘘ついてるなんて言わないわよねぇ?」
「……………………」
ああまたか、と思った。
理由は知らないが、この七緒はなにかと私を困らせてくることを言ってくるのだ。
「蓼原さんさぁ、ふだんからぼんやりしてるから大事な話を忘れるんでしょ?」
「ていうかぁ、アンタって貧乏くさいよねぇ。スマホもなんかショボいし」
「この前の進路相談、親じゃなくておばあちゃんが来てたよねぇ? もしかしてぇ、アンタ親がいないとかぁ? よくこの学校入れたよねぇ」
「ねぇ、黙ってないでさぁ、なーんかいう事あるんじゃないの? アンタがぼーっとしてたせいで遥ちゃんが先生に怒られたんですけどぉ?」
「ご、ごめ――」
「ちょっと、あなたたち」
「一花」
七緒が小さく舌打ちした。
「ねぇ、なんで蓼原さんに嫌がらせするの? そうやって蓼原さんを困らせたくて三人で嘘ついてるんでしょ? 私、そういうの嫌い」
「………………………………」
七緒が黙って一花を睨んでいる。
すると、一花ちゃんが私の手をつかんできた。
「行こう、蓼原さん」
「あっ――」
もう私は、いやがらせされていることなんかすっかり頭から抜け落ちた。
一花ちゃんの手の柔らかさと、私を守ってくれる凛々しい声。
私の心は、一花ちゃんでいっぱいになっていた。
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