私と仁美は隣に座り合って、二人で作った声のお芝居をイヤホン越しで聞いていた。
こうして動画サイトに投稿した自分のお芝居を、自分で聞くことへの抵抗感もなくなっていた。
最初のうちは、正直顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、
私が演技をするたびに仁美が私の事を褒めてくれるから、気づけば自分の声をイヤホンで聞くのも抵抗感がなくなっていた。
動画が終わって、仁美がほーっとため息を漏らす。
「一花ちゃんの声の演技、素敵だなぁ」
「仁美だって上手だよ。もしかしたら私の方がいつか抜かれちゃうかも」
「そんなことないよ。私、一花ちゃんの声のお芝居、大好きだもん」
仁美は私に付き合って、私の声優のまねごとに付き合ってくれていた。
ある時私は学校の裏手にある誰もいない教会で、一人でこっそり声のお芝居をしていた。
それをたまたま仁美に目撃されたのだ。
よりにもよってクラスメイトにバレてしまって、顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、
仁美は私の演技をものすごく褒めてくれた。
恥ずかしかったけどとても嬉しくなって、それ以来仁美の前で演技をしたりしているうちに、仁美も見様見真似で私の演技に付き合ってくれるようになった。
そして今では二人で録音した声のお芝居を動画サイトに投稿する活動まで始めてしまった。
そこそこ再生数が回ってて、ちょっと嬉しかった。
「私たち二人で作ってるから仕方ないけど、なんかヤンデレな女の子たちの百合系のボイスドラマばっかり作っちゃってるね」
最初に私がやっていたのは有名な芸能人とかの声真似とか、アニメやドラマのキャラのセリフのモノマネとかをしていた。
でも仁美からのアイデアで、ヤンデレな女の子をテーマにしたボイスドラマのお芝居をしてみた。
仁美も私に付き合って一緒に声のお芝居をするようになってからは、ヤンデレな女の子たち同士の恋愛を描いたフリー台本を使ってお芝居をするようになっていた。
「でも一花ちゃんのヤンデレな女の子の演技、凄く人気だよね。ほら、一花ちゃんの演技、こんなにたくさんの人たちから褒められてるし」
仁美は楽しそうに私が誉められてるコメントを眺めてる。
「私は全然ダメだなぁ。一花ちゃんにはかなわないや」
「そんなことないよ。仁美の声だってとってもかわいいもん」
「えへへ、ありがとう。でも私、やっぱり一花ちゃんの声が一番好きだよ」
面と向かってそんな風に褒められて、私の顔はついほころんでしまう。
「私ね、夢があるの」
「夢?」
「うん、一花ちゃんと私の二人で、舞台演劇がしたいの」
「舞台演劇?」
「うん。私ね、一花ちゃんの声のお芝居、すっごく好きだよ。イヤホン越しに聞く声も好きだけど、やっぱり生の声の迫力って大違いだし。だからね、いつか二人で舞台に立って、二人で演劇がしてみたい。朗読劇でもいいし、なんでもいいけど、とにかく一花ちゃんのお芝居を、もっと生の舞台で聞きたいなって。そんな一花ちゃんの隣に、私も一緒にいたいの」
仁美は将来の夢を語る時、本当に口数が多くなる。
そんな仁美を見ていると、こちらまで嬉しくなってきた。
「いいね、その夢。とても素敵。私もいつか、仁美と二人で舞台に立ちたい」
「じゃあなんで裏切ったの?」
「え?」
仁美の顔が、目と口がくりぬかれた真っ白なマスクで覆われ、顔にはサソリを模した黒いあざが浮かんでいた。
その顔が私の視界を覆っている。
「私は頑張ったのにどうして一花ちゃんは頑張ってくれなかったの? 私はただ一花ちゃんに認めてもらいたくて頑張ったのに」
「どうして私だけがこんな目に合わないといけないの?」
「どうして頑張り屋さんな私が死んじゃって、一花ちゃんだけ今もパパとママと暮らしているの?」
「ねぇ?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」
「一花ちゃんも死んじゃえばいいんだ!」