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カンナは驚いて晶子の肩越しに身を乗り出した。
「これがアキバ? ううん、言われてみれば。へえ、もうカラー写真があったのか」
「これ、元々は白黒写真だったんだって。コンピューター処理で色を再現した写真集なんだよ。ほら、あたし、学校で日本史研究会に入ってるじゃない。その資料写真コピーさせてもらったの」
「て事は50年ぐらい前か? 全然違う街に見えるな」
「でね、これが新宿」
晶子がマウスを操作すると次の写真が映る。カンナが驚愕の声を上げた。
「うわ。昔の新宿ってこんなにダサかったのか? 高層ビルなんてどこにもねえじゃん」
「それよりカンナ、映っている人たちを見て」
「ん? ああ、確かに大昔のファッションだな」
「他に何か気づかない?」
「何かって?」
「映ってる人たちの年齢」
そう言われてカンナが改めて画面に目を凝らす。カンナが自信なさそうに言う。
「若者って事か? 言われて見りゃみんな若そうだな。その隅に映ってるのは、その頃の女子高生かな?」
「で、次が銀座」
「ありゃ? 若いやつだらけだな。これが昔の銀座なのか? いつ頃だ?」
「昭和だね。1960年代の終わり頃だから。で次が……」
晶子が次々に画面に映し出す昭和の時代の東京の繁華街の写真を見る。段々カンナも興味を持って見つめるようになっていた。カンナが好奇心あふれる口調で言う。
「新橋まで若いやつで溢れてるじゃねえか。今は秋葉原だっておじさんの方が多いのにな。なかなか面白いけど、なんで晶子がこんなのに興味持ったんだ」
晶子は机に両肘をついて、ゆっくり息を吐きながら答える。
「あたしは、この時代に生まれたかった」
「はあ?」
カンナが呆れ顔で言う。
「昭和の時代に生まれたかった? あたい、団地のじいちゃん、ばあちゃんたちから聞いた事あるけど、そんなにいい時代じゃなかったみたいだぞ。コンビニもインターネットもスマホもなかったし、電車も不便だし、公害なんて物もあったらしいし。そんな時代の何がいいんだよ?」
「うん、今ほど便利な時代じゃなかったのは知ってる。でもね、この時代は若者が社会の多数派だったんだよ」
「社会の多数派? ああ、そう言えば、さっき見た写真じゃ、どこの繁華街も若いやつらがうようよしてたな」
「そう。若者が多数派だったから、若者のためにいろんな商品を会社が考えたし、若者のために社会の仕組みが変わった事もあったんだよ。今だとそんな事考えられないでしょ?」
晶子が次の写真を写し出す。ヘルメットを被った若者たちが大勢路上にひしめいている。晶子はカンナに説明する。
「これは1970年のデモだって。あたしも何の事だかよく分からいけど、アンポトウソウとか言うんだ。若者が社会の中心だったから、こんな風に大人や社会に反抗する事だって出来た」
「大人や社会に反抗? そんな事、あたいは物心ついた時からずっとやってるぜ」
「あはは。カンナは特別だよ。あたしみたいな取柄のない子は大人が決めたルールとか常識に必死で従うしかない。今はそういう時代なの。若者がもっと自由で、誰もがカンナみたいに自分に素直に生きていられた、それが昭和なんだと思う。だからあたしは、この時代に生まれたかった」
コメント
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あ、この話、すごく沁みました……。 晶子が「若者が社会の多数派だった時代に生まれたかった」って言うシーン、なんか胸がぎゅってなった。今の時代って、確かに便利だけど「若者だから」って理由で許されること、減った気がするもん。カンナが「あたいはずっと反抗してる」って言い返すのも、二人の価値観の違いが浮き彋みになってて好きだな。 昭和の写真をきっかけに、晶子の内面の孤独とか憧れみたいなものがじわっと見えてくるところ、すごく丁寧に書かれてて、読んでて自分も一緒に考え込んじゃいました。続きも気になります……!
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菊池川詠人
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