テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
かんな
1,175
#溺愛
桜咲かな
346
#溺愛
桜咲かな
271
#オフィスラブ
ひより
6,200
その日の夕刻。
リリアンナは、ゆっくりと瞼を開いた。
中庭から部屋へ戻って間もなく、急に気分が悪くなったのだ。
昼間はあんなに身体が軽かったのに、屋敷内へ入った途端、まるでその反動が一気に押し寄せてきたかのように強い吐き気と眠気に襲われた。
結局、昼食もほとんど喉を通らなかった。
口に出来たのは、ジャンが収穫してくれたばかりの林檎を、ほんのひとかけらだけ。
そのあとは起きていることさえ辛くなり、ナディエルに促されるまま寝台へ潜り込んで――気付けば、窓から差し込む陽射しはすっかり夕暮れの色に変わっていた。
(……少し、楽になったかも)
身体を起こしてみても、昼過ぎのような吐き気は込み上げてこない。
ほっと息を吐いたところで、傍らから声がした。
「目が覚めたかい?」
「ランディ……!」
顔を向けると、長椅子へ腰掛けたランディリックが、数通の書簡を手にしていた。
どうやらリリアンナが眠っている間も、執務をこなしながらずっとそばにいてくれたらしい。
「気分は?」
「少し楽になったみたい」
「それは良かった」
ランディリックは安堵したように目元を和らげると、小さく吐息を落とした。
「リリー。起き抜けに申し訳ないが、キミに伝えておかなければならないことがある」
「私に?」
「ああ」
ランディリックは手にしていた書簡を卓上へ置くと、リリアンナのいる寝台脇に軽く腰かけた。
「セレノ殿下が、ヴァン・エルダール城への来訪を希望しているそうだ」
「セレノ殿下が……?」
思いがけない名前に、リリアンナは目を瞬かせた。
セレノ・アルヴェイン・ノルディール。――かつて王都で〝セレン・アルディス・ノアール〟と名乗っていた、マーロケリー国の皇太子。
「アレクト殿下から、その旨を知らせる書簡が届いた。すでにマーロケリー側とも話が進んでいて、正式にこちらへ迎えることになりそうだ」
「いつ?」
「おそらく、そう遠くないうちに」
「そう……」
セレノ殿下とは、王都からの道行中に決着のつかなかったカードゲームの続きをする約束をしていた。
リリアンナが彼の正体を知らず、侯爵家の三男坊だと信じていたころの話だったから、時効かもしれないが、もし有効だったとして、今のリリアンナの体調では到底お相手をして差し上げることは出来そうにない。
そんなことを考えながら、リリアンナはランディリックが読んでいた書簡の山へ視線を向けた。
そういえばこの夏、ランディリックはヴァン・エルダール城とヴァルム要塞を何度も行き来している。
例年にも増して慌ただしい様子に、国境で何か問題でも起きているのではないかと、リリアンナは心配していた。
城へ戻ってからも執務室へ籠もり、執事のセドリックと遅くまで話し込んでいるのもその思いに拍車をかけた。
書簡を携えて戻ってくることも、いつにもまして多かった。
ここ最近、城へ飛来する雪鷹の姿を頻繁に見掛けるようになっていたことも、リリアンナの不安をさらに募らせていた。
(もしかして……)
それらがすべて、セレノ殿下の訪問という一言で、一本の線で繋がったような気がした。
「ランディ」
「ん?」
「最近ずっと忙しそうにしていたのって……セレノ殿下絡み?」
ランディリックが、わずかに目を細める。
コメント
2件
リリアンナちゃん、無理するから(^^;;
おお、リリアンナの体調急変、めっちゃ気になる……! 中庭ではあんなに元気だったのに、屋敷に入った途端に反動が来る感じ、なんだか体の中で何かが変わってる予感がするな。セレノ殿下(セレン!)が来訪するって話も、ランディリックの忙しさの理由が全部繋がった感じがしてスッキリ。でもあの「わずかに目を細める」ラスト、何かまだ隠してるんじゃないかとドキドキしたわ。続きが待ち遠しい🔥