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ふう、と息苦しさから逃れるように深呼吸すると同時。一課の人間が喫煙ルームに入ってきた。
坪井は軽く会釈をして、入れ替わるようにその場を離れた。
ほとんど吸っていないタバコの臭いが染みついていて、思っていたよりもあの場に長居していた自分に気がつく。
腕時計に目をやると、21時半を指していた。
(あーあ、もうこんな時間。 明日の段取りだけ確認して帰るかな)
やけに冷えた手を温めるようにポケットに手を突っ込んで歩く。
今頃真衣香は何をしているだろうか。泣いているかもしれない、彼女にしてみれば理解できない言動と行動の数々に。傷ついて困惑しているかもしれない。
もしかしたら遅れて会社を出た八木と会っているかもしれない。
(……あ、これ想像したら死ねるわ)
寄り添う八木と真衣香を想像すると、それだけで何となく呼吸が早くなり苦しく感じる。
嫉妬する権利さえないというのに。
でも、どうか。想うことだけ許されていて欲しいと願う。
(できること、ひとつずつ潰してくしかできないし、今は)
潰したところで許されるとも思わないけれど。それでも、一歩ずつでも真衣香に近付いていきたい。
そんな小さな決意を胸にデスクに戻ると、チラホラまだ帰っていない営業の姿が見えた。
(あー、仕事もちゃんとしないとな)
八木と会う前に、こっ酷く叱られた高柳の声がよみがえって肩が重くなる。
仕事納めに向けて、本格的に忙しくなってきている毎日。
こんな時にこそ見たくなる笑顔を、手離した自分を嘲笑った。