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#茜
💎星乃葵@ペア画中.ᐟ💎
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りおりんご🍎
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今中希美
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「年明けの第三週に、評価版を現場に出します」
舜太は、会議室のスクリーンに日程の表を映した。
十二月の頭。窓の外は、昼でも空の色が低い。
四人が揃うのは、二週間ぶりだった。
柔太朗は、ジャケット姿でいつもの席に座っている。
仁人は、窓側。ブラインドは、半分下りていた。
「そこから逆算すると、仕様の凍結は年内です。残りの時間は二十日ほど」
画面が、切り替わる。縦に、機能が並ぶ。
横に、二つの列。『今回必須』と『次の段階』。
「機能を、この二つに仕分けました。今回の評価で、確かめたいことは二つです。続けて入力できるか。診察で使えるか。それに必要なものだけを、今回に残します」
柔太朗が、一覧に目を走らせる。ある行で視線が止まった。
「診察側の、睡眠と服薬の重ね表示が、『次の段階』に入っていますね」
「はい」
「それは、評価に必要です」
柔太朗の声は、穏やかだった。
「診察で、睡眠の変化を、お薬の変更と結びつけて見られなければ、『診察で使える』かどうかを確かめたことになりません」
「自動で重ねる設計は、年内には収まりません」
仁人が、口を挟んだ。画面に、自分の試算を映す。
「検証まで含めると、三週間はかかります。年明けのリリースには間に合いません」
「間に合わせる方法は」
「削るか、遅らせるか、です」
舜太は、二人のやり取りを聞きながら、頭の中で線を引いていた。
柔太朗の言っていることは、正しい。
睡眠と服薬の相関性を視覚的に見せることが、診察の現場で効くことも分かっている。
仁人の試算も、正しい。
そして、日程は動かせない。
この三つが、同時に成り立つ場所に線を引く。それが、自分の仕事だった。
「先生」
舜太は、言った。
「必要なのは、分かります。ただ、今回の評価で、確かめたいのは、続けて入力できるか、診察で使えるかの二つです。重ね表示が本当に効くのは、診察で使えることが確かめられた、その次の段階です。……今回はここまでにさせてください」
声は、平らだった。感情を挟まないと決めて、言った。
柔太朗は、表情を変えなかった。
ただ、机の下で、指先がゆっくりと握られるのが見えた。
白い手の甲に、細い筋が浮いている。
引き下がらない人だ、と舜太は思った。静かな顔の下で、何かが燃えている。
「……分かりました」
柔太朗は、一拍置いて続けた。
「では、一つ、確認させてください。自動で重ねなくても、医師が、PCで、二つのグラフを並べて開けるならどうでしょうか。見比べることは、できます」
仁人が、画面を見る。数秒、考える。
視線が、空中で、何かを計算するように浮く。
「……並べて開くだけなら、画面の分割で済みます。一日あれば足ります」
「それで、診察で使えるかどうかは、確かめられます」
柔太朗が、静かに言った。
「今回は、見比べで。自動で重ねるのは、次の段階。それなら、僕も納得できます」
舜太は、表の『次の段階』の列に、「自動重ね表示」と書き直した。
『今回必須』の列に、「並置表示」と一行足す。
「これで、行きましょう」
「わかりました」
仁人が言った。
「よろしくお願いします」
柔太朗が言った。
勇斗は、その間、腕を組んだまま一言も口を挟まなかった。
舜太の仕事だと、分かっているのだ。
それが、背中に、重さと一緒に伝わってきた。
会議のあと、柔太朗は、廊下の窓際で、資料を鞄にしまっていた。
悔しい、と思った。
声には出さない。顔にも出さない。出さないことには、慣れている。
けれど、「今回は、ここまで」と言われたとき、胸の奥で何かが熱を持った。
正しいと分かっている。分かっているのに、引き下がれなかった。
だから、代替案を探した。探しながら、自分が、思っていたより、負けず嫌いなことに気づいた。
「先生」
呼ばれて、顔を上げた。
舜太が、少し離れたところから歩いてくる。
「さっきは、すみません。きつい言い方でした」
「いえ」
柔太朗は、首を振った。
「あのとおり、言ってもらえたから、代替案が出ました。何もなかったら、僕は重ね表示に、固執していたと思います」
「そう言ってもらえると、助かります」
舜太は、頭を掻いた。それから、少し迷ってから続けた。
「先生の医局の、年内の手続きの期限も知ってたんで。だから、今回は、日程をどうしても守りたかったです」
柔太朗は、一瞬目を見開いた。
いつだったか、資料を片づけながら、ほんの一言口にしただけだった。
年内に、医局の研究の手続きを、一度通さなければならない、と。聞き流されて当然の、独り言のようなものだった。
「あ、そうなんだ。……覚えててくれたんだ」
言ってから、柔太朗は、自分の口調が崩れていたことに気づいた。
舜太は、気づかないふりをした。
その気遣いも、柔太朗には分かった。分かって何も言わなかった。
「当たり前です。先生のプロジェクトは、俺のプロジェクトでもあるので」
舜太は、さらりと言った。軽い言い方だった。
けれど、その言葉が、柔太朗の胸に静かに落ちた。
悔しさが、ゆっくり、別のものに変わっていく。
この人は、冷たいのではない。
全体を見て、誰も取り残さない線を引く。
その線の中に、自分の期限も入っていた。
引き下がらなくて、よかったと柔太朗は思った。
引き下がっていたら、この線の内側に入れなかった気がした。
夕方の事業部の休憩スペースは、人が少なかった。
自販機の前で、勇斗は、缶のお茶を二本買った。
一本を、後ろに立っていた舜太に差し出す。
「今日のファシリ、よかった。柔太朗先生に押されて折れなかった」
「ありがとうございます。そう教わったので」
舜太は、缶を受け取りながら続けた。
「それと、先週、法務の担当と、お昼に行ってきました」
「どうだった」
「データの同意の取り方を聞きました。ざっくりですけど、論点は整理してます。……宿題、まだ、最初の一つ目ですけど」
勇斗は、口の端を上げた。
この後輩は、言われたことを、言われた順番でやってくる。しかも、半歩先まで。
「いいな」
「でしょう」
「調子に乗るなよ」
「乗ってないです」
缶を開ける音が、並んで二つ鳴った。
勇斗は、お茶を一口、飲んで何気なく言った。
「この前の診療所の帰りに、電車が止まって。仁人と、蕎麦、食った」
舜太の手が、一瞬、止まった。
「……仁人さんとですか」
「ああ」
舜太は、缶を見たまま、少し間を置いた。
勇斗は、その横顔を見た。この後輩は、何かに気づいている。
口には出さない。けれど、全部見ている。
「……聞かんほうが、ええですか」
静かな声だった。責める色も、探る色もなかった。
ただ、自分が聞いていいことなのか、確かめている声だった。
勇斗は、お茶をもう一口、飲んだ。
「……助かる」
舜太は、それ以上聞かなかった。
缶を持ち直して、「ほな、戻ります」といつもの声で言った。
勇斗は、その背中を見送って、もう一口、お茶を飲んだ。
ぬるくなっていた。
コメント
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読み終わりました……第9話、すごく体温のある回でしたね。 舜太が日程と機能の間で線を引く場面、あの「声は平らだった」の一文に全部が詰まっている気がしました。自分の仕事を淡々とやる人だからこそ、あとで「覚えてました」と言うときの柔らかさが沁みましたね……。柔太朗先生も、悔しさをバネに代替案を出せたのが本当に美しい。 勇斗さんが「聞かんほうが、ええですか」と聞くところ、あの距離感が好きです。仁人さんの話、まだ何も語られていないのに気になる……。線引きの向こうにある信頼関係が、じんわり描かれていて、とても好きな回でした🍀