テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
若井は廊下で綾華に声をかけられる。
「若井さん、大森さんって、なんか変だよね」
綾華の無邪気な笑顔とは裏腹に、その目は鋭く大森を捉えていた。
「鏡に映る大森さん、時々おかしくない?」
若井は綾華の言葉にハッとする。
彼女の観察力は、若井が気付かなかった何かを捉えているようだった。
「何を見た?」
若井は冷静に返答する。
「さあ、ただの勘かな?」
綾華は笑ってごまかしたが、その言葉は若井の心に引っかかった。彼女はゲームの「被害者」として隠れる準備をしていたが、彼女の視線には、何か知っているかのような確言があった。
若井は綾華の言葉を思い出し、鏡に映る大森の姿を観察する。
すると一瞬だけ、大森の顔が「別人」のように歪んで見えた。若井は息を呑む。
「どうした?」
大森が近づき、若井の肩に触れた。
その温もりに、若井は一瞬心が揺れたが、すぐに綾華の言葉を思い出す。
「なんでもない」
そう誤魔化した。だが、大森の微笑みにはどこか知っている気配を感じた。
夜、ゲームが始まった。
綾華が「最初の被害者」に選ばれ、館のどこかに隠れる設定だったはず。
若井は取材メモを取りながら、館の不気味さに耐えていた。鏡だらけの廊下、薄暗いシャンデリア、時折聞こえる雨以外の奇妙な物音。
まるで館自体が生きているようだ。大森がそばに立ち、若井に囁く。
「怖いなら、俺が守ってあげるから。」
若井は大森の言葉に心臓が跳ねる。大森の声には、まるで心の奥に触れるような響きがあった。
だが、その優しさに裏があるのではないかと疑う自分もいた。藤澤が近くで若井を観察しているのが、鋭く肌に刺さる。
「大森を信じるなよ、若井」
藤澤が低く呟き、若井の肩に手を置いた。その手に触れた瞬間、若井は3年前の裏切りを思い出し、身を引いた。
「触るな」
若井は冷たく言い放った。
藤澤は笑ったが、その目は笑っていなかった。
「まだ俺のこと、恨んでる?」
藤澤の声には、かっての親密さとは裏腹な執着が滲んでいた。若井は藤澤の傷痕を再び見る。
なぜか、その傷が10年前の事件と繋がっている気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!