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グルッペンがオーナーとして営業しているジャズ・クラブ・trigger
大人の危うい魅力がリズムに乗せられ無意識に聞き入ってしまう空間は、誰にも壊せない夜の雰囲気があった。
その雰囲気を作り出しているのは、ステージに立ってジャズを奏でるバンドだ。
「コネシマさん風に言うと、ちゃうなぁ…やな。」
「そうなんよ。なんかちゃうねんな。」
BARエリアでカクテルを作るエーミールと傍でつまみを作っているゾム。2人はステージのライトに照らされ眩しく光る金髪に目を細めて、静かに聞いていた。
コネシマのペットは最初に練習した時よりも格段によくなっているし彼はスウィングが上手い。
スウィングとはリズムが独特の揺れを持ち、譜面に起こせないリズムで8分音符を3連符で弾く。
彼はメンバーの中では色々な曲を聞く方である為、それが出来る。
「だけどなぁ。完全に乗り切れてない感があるな。」
少しのズレが喉に突っかかって飲み込めず少し不快感が残る。
エーミールとゾムが唸っている間にも1曲目が終わってしまった。
「大先生。お前飛び入りして来い。」
「僕ですか!?ロボロだけでええやん!?」
ずっと自分、ロボロが考えていたこと。
コネシマは自分の言う通りドラムに合わせようとした。だが完全に乗り切れてない。
ジャズは4ビートでスウィング感を出す為にドラムが頼りになる。なによりジャズには指揮者が居なければ楽譜も無く即興演奏が特徴だ。
だからドラムにみんな合わせるのだが。
以前、コネシマと鬱先生が演奏していたのを見た。
2人は相棒と言われるだけあって互いの掛け合いがとても上手く、思わず聞き入ってしまったのは脳に鮮明に焼き付いている。
コネシマはドラムよりも大先生のサックスとの方が乗れる。
そう確信したから、すぐに大先生に裏で音出しをさせて準備させる。
「んで、僕らは何を演奏するん?」
「そうやなぁ。ここは敢えて、ルパン三世のテーマで行こうや。」
「「はぁ!?」」
ニヤリと悪戯げに笑ってやれば、目の前の2人も聞いていたバンドも驚きで声を上げた。
「音は分かるやろ?」
「いや分かるけど……あれ完全なジャズ版無いやんけどうするつもりや。いきなりアレンジなんて……」
「アレンジするのが、即興演奏するのが、ジャズや。俺たちでジャズを作ったるねん。主役は俺たちや。」
ルパン三世のテーマはピアノのジャズ版やサックスのジャズ版はあるがバンドとしての完全なジャズはあまり無い。
だから普通の曲からリズムや音、強弱を即興で考えてやらなければならない。
間違えたら店内は一瞬にして冷えるだろう。
だけど、だからこそ燃えてしまう。それが俺たちだ。
「しゃーないなぁ、シッマ頼んだで。あんま走んなよ?」
「ソロは分かるな?頼んだで相棒。」
「任せろよ。」
休憩時間が終わり、位置に着く。チーノがまた軽くトークを初めて、終わればライトが俺たちだけを眩しく照らした。
皆で目配せして頷き合う。
ドラムが合図をしたら、俺たちによるジャズが始まる。
「すごいな。」
「えぇ、ほんとに。」
ピアノのイントロから始まりコネシマのペットがそこに乗る。
彼のペットの入り方は店内に居た全ての人間の視線を奪った。
ロボロが奏でるピアノのリズムはスウィングに乗っていて生粋のジャズになっている。
ペットが預けている背中は鬱先生によるテナーサックスが低く耳に通りやすい色気のある音でより深く皆を曲に陥れた。
「即興演奏のはずなのに、コネシマさんと大先生はお互いのソロを分かってるみたいに弾きますね。」
「お互いに主役として目立てるところを分かってるんやな。引き立て方も上手いわ。」
コネシマが暴走したら鬱先生がそれを上手く宥め、その流れを利用し周りを楽しませる材料としてしまう。
それは演奏にも現れていてコネシマが走りそうになったらサックスが少し前に出てそのまま誘導しまた落ち着かせていた。
彼は立ち回りが本当に上手い。詐欺師と言われるだけあって空気を読むのが人一倍上手くその場を楽しませる。誰も不快にさせない。
ライトが眩しく主役を照らしている。
終わりはトランペット、サックス、ピアノが音を合わせ派手にフィナーレを飾った。
顔には笑みが浮かんでおり、誰よりも楽しんでいるのが分かる。
「ジャズの主役は俺たちや!」
誰もが目を奪われる曲は、このメンバーだからこそ出来る。
何故なら自分らが1番楽しんでリズムに乗って、その楽しさも心躍るリズムもそれら全てを曲に乗せてしまうから。
それが出来るのは本当にこのメンバーで作るジャズが好きだから。
グルッペンがオーナーとして営業しているジャズ・クラブ・trigger
大人の危うい魅力がリズムに乗せられ無意識に聞き入ってしまう空間は、誰にも壊せない夜の雰囲気があった。
今夜もまた、主役たちが貴方に素敵なスウィングを聞かせてくれます。