秋風が吹き抜ける大学のキャンパス。
紗季は最近、同じゼミの先輩・藤堂さんと話す機会が増えていた。物腰が柔らかくて、話を聞くのが上手な人。エッセイを書いていることを話したら、真剣にアドバイスをくれて、それがうれしかった。
ある日、藤堂さんが言った。
「今度、文学サークルのイベントがあるんだけど、紗季さんも出してみない? 君の文章、もっと多くの人に読んでほしい」
その言葉が、胸の奥で甘く響いた。
***
「最近さ、その藤堂って人と仲いいんだね」
夕方のカフェ、紙コップを両手で包みながら、葵がぽつりと言った。
「うん。ゼミの関係もあるし……相談に乗ってくれるし、すごく励ましてくれる人だよ」
「ふーん。……なんか、そういうの、ちょっと嫉妬するかも」
「え?」
「だって、前は一番に私に話してくれてたじゃん。何かあったら、最初に紗季が頼ってくれるのがうれしかったのに」
「……ごめん、そんなつもりじゃ」
「分かってる。でも、ね。時々思っちゃう。私の居場所って、ちゃんとあるのかなって」
葵の目は笑っていたけれど、声は少し震えていた。
紗季は、言葉を返せなかった。
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