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「何で? 何で理仁さんまでいるの?」
少し離れたところに呆然と立っているもみじちゃん。その表情は、まるで生気を失ったようだった。
「君はなぜこんなことを?」
理仁さんの口調はかなり厳しかった。
「理仁さんが私を怒らせるからよ! 双葉の方がいいなんて言うから。さあ、結仁、まだメリーゴーランド乗ってないでしょ? もみじちゃんと乗ろう」
「嫌だ! ママと乗る」
「どうして? 今日は一緒に遊ぼうって約束したでしょ?」
「もみじたんが、いい子にしてたらママが来るって言ったよ。だからいい子にしてた。結仁は、ママと乗りたい」
「ダメよ、まだいい子にしてないじゃない。結仁、こっちに来なさい」
「嫌だ、行きたくない! もみじたん、怖い」
「もう、やめて! 結仁を巻き込まないで。もみじちゃんが憎いのは私でしょ? だったら直接私に言って」
「双葉ちゃんに言っても、理仁さんに言っても、私の気持ちわかってくれないでしょ? だから2人をいっぺんに困らせてやりたかったの」
「君は間違ってる! 結仁には何の罪もない。それに、どんなにつらいことがあっても誰かのせいにしてはいけない」
「あなた達には私の気持ちなんてわからない!」
もみじちゃんは、そう叫んで、頭を抱えた。
「悪いが警察に連絡する」
「け、警察!?」
もみじちゃんの顔色が一瞬にして変わった。
「今回君がしたことは許されるべきではない」
「そんな……だって……だって……」
「もみじちゃん。私も、自分の命より大切な結仁を勝手に連れ出したことは絶対許せない。でも……結仁が無事に戻ってきたから……警察には言わない」
「えっ?」
「だけど、もしも結仁に何かあったら……私はもみじちゃんをどうしてたかわからない」
「双葉……ちゃん……」
「双葉、本当にそれでいいのか?」
理仁さんの問いかけに、私は決意を持ってうなづいた。
「……うん。もみじちゃんを警察に突き出すのは嫌だから。どんなにひどいこと言われても、やっぱり……子どもの頃からずっと私を支えてくれた人だから。その恩は、忘れられない……」
確かに、心ではどう思ってたのかわからない。
だけど、そんなことよりも、もみじちゃんはずっと私に笑ってくれてた。いつもすぐ近くにいて私に優しい言葉をかけてくれてた。それがどれだけ私の救いになっていたか。そのことは、決して忘れてはいけないと思った。
「……どうしてよ。私、こんなひどいことしたのに」
「結仁に何かしようとか、怪我させる気は無かったんでしょ? 結仁の好きな場所に連れてきてくれて、遊んでくれてただけでしょ?」
「……」
その時、もみじちゃんの大きな瞳から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「その代わり、この先、二度と結仁には近づかないで。私も、もみじちゃんから離れる。ちゃんと前に進みたいから」
「本当なら、俺も許せない。心から君のしたことを憎む。でも……双葉が考えて、決めたことなら、それに従う」
「理仁さん……。もう私、こんなことして一生幸せになんかなれない」
「誰にだって幸せになる権利はある。もみじさんにはもみじさんの幸せがあるんだ。でも、それは自分で掴まなくてはならない。双葉を恨むなんて、大間違いだ」
「……でも私には何もない。幸せになんてなれない」
「君には君の生き方、そして、相応しい相手が必ずいるはずだ。今は心穏やかに好きな小説を書きながら、ゆっくり考えてほしい。もみじさんにはたくさん応援してくれる人がいるんだろ? だったらその人達のためにどんどん物語を生み出してほしい」
泣き崩れるもみじちゃんの背中に手を差し伸べると、少し震えてた。
私にもわかる。
自分なんか幸せになれない――
幸せになる権利さえないんだと、自分を戒め、小さな暗い世界に全てを押し込めた。
だけど、そうじゃない。
必ず、誰だって幸せになれるんだ。
幸せになっていいんだ。
ほんの少しだけ心を解放して、前向きになれれば、きっと見たこともない新しい世界が待っている。
すごく時間がかかったけど、今、ようやくそれがわかった気がした。
理仁さん、結仁。
そして、もみじちゃんのおかげで――