テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
644
211
215
18
【 第7話 】 政裕 視点 .
「 会わない時間の方が、長いはずなのに 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉と別れたあと。
俺 はしばらく駐車場から動けなかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
静かな夜だった。
エンジンは切ったまま。
車内には何の音もない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
なのに頭の中だけがうるさかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 だから、ちゃんと考えたいです 」
自分で言った言葉なのに。
今さらになって胸の奥に返ってくる 。
やまびこのように 、何回も 。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕は深く息を吐く。
ハンドル片手にコーヒーを持ちながら
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
正直。
本当はあんなことを言うつもりじゃなかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
もっと上手く距離を取るつもりだった。
もっとちゃんと大人でいるつもりだった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
なのに。
秀哉の前に立つと全部狂う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
最初は本当に仕事だった。
ただの仕事相手。
モデル。
と
メイク担当する人。
それだけだった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも。
いつからだろう。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉の顔色を探すようになった。
ちゃんと寝ているか。
ちゃんと食べているか。
無理をしていないか。
気になるようになっていた _ 。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そんなこと。
本当は仕事の範囲じゃない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
それなのに気づけば見ていた。
気づけば気になっていた。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
思い出す。
あの日。
秀哉が困っていたあの日の顔を 。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
無理して笑っていた顔。
あの時の言い張った声。
ちゃんと仕事というものを理解していなかったこととか … 。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
あの時。
放っておけなかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
… それが始まりだったのかもしれない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
俺は後部座席に投げていたバッグを見る。
その中には仕事道具が入っている。
ブラシ。
スポンジ。
コスメ。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
毎日使うもの。
何も変わらないはずのもの。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
なのに。
最近は違う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉に触れるたび。
心拍数が上がる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
プロとして最低だと思う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも … 、
どうしても慣れなかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
前髪を整える時。
目元に触れる時。
顔を上げてもらう時 … 。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
近い。近 すぎる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
だから距離を取った。
意識して。
何度も。
・
・
・
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
けれど。
秀哉は気づいてしまった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
『 戻ってないのに、戻そうとしてるのが嫌なんです 』
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
あの言葉が。
ずっと残っている。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕は苦笑した。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 ……あの人には敵わないな 」
小さく呟く。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
本当は。
考えないようにしていたのは。
秀哉じゃない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
好きだなんて。
そんな言葉で片付けてしまうには。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
それから 、三日後。
秀哉は朝から落ち着かなかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
鏡を見る。
前髪を直す。
スマホを見る。
時間を見る。
そして。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 何やってんだろ…… 」
自分で行動して 、自分で言って。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
今日の現場。
政裕さんがいる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
それだけで。
朝からずっと心臓がおかしい。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
好きだと認めてから初めて会う … 。
たったそれだけなのに。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
スタジオに着く。
深呼吸。
一回。 二回。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そして。
・
・
・
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 おはようございます 」
先に聞こえた声に。
秀哉の
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
いつもの政裕さんだった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
たった三日。
たった三日なのに。
妙に久しぶりな気がした。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 ……おはようございます ッ 」
返事をする。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
その瞬間。
目が合う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも …先に逸らしたのは。
政裕だった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉は少しだけ驚く。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
今までなら … ッ
政裕の方が落ち着いていた。
いつだって余裕があった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも。
今日は違う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
ほんの少しだけ。
本当にほんの少しだけ。
政裕さんの方も緊張しているように見えた。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
……まさか 、 なんて 、ね …
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
胸の奥がざわつく。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
期待したら駄目だ。
まだ何も言われていない。
まだ何も決まっていない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
なのに。
・
・
・
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そして 、いつも通りメイクが始まる。
・
・
・
「 少し失礼しますね 」
政裕が前髪に触れる。
近い。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
今までだって何度もあった距離。
なのに。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
理由を知ってしまったから。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
好きだから。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
その瞬間。
政裕の指先が止まる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 …… 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
一秒。 二秒。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
不自然な沈黙。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そして。
政裕が小さく息を吐いた。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 ……会わないと平気だと思ってたんです 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉の心臓が止まる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕は視線を落としたまま続ける。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 この今日の撮影までの三日くらいなら普通に過ごせると思ってました 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
静かな声。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも。
今までで一番。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 ……無理でした 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉は息を飲む。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕さんはそこで初めて顔を上げた。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
目が合う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
逃げない。
逸らさない。 そして 、逸らさせない から …
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
その視線だけで。
秀哉は何も言えなくなった。
・
・
・
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕さんと目が合ったまま。
秀哉は何も言えなくなる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
胸が苦しい。
嬉しい。
信じられない。
怖い。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
だから。
思わず逃げる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 ……撮影、始まっちゃいますよ 」
それだけ言って。
視線を逸らしてしまう。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕さん自身もそれ以上は言わない。
言わないけど。
気づく。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
ああ。
秀哉も同じなんだって。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
・
・
・
その日はあっという間だった 。
撮影もすぐ終わっちゃって ッ …
スタッフは帰る。
機材も片付く。
スタジオの灯りも少しずつ落ちる。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉は足早に出口へ向かう。
逃げたいから。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
追いつかれたら。
何か言われたら。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
だから。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
…… なのに。
後ろから声がする。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 … 秀哉 ッ ! 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
止まってしまう。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
でも。
足も動かない。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そのまま数秒。
無言の沈黙。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そして政裕さんが言う。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 逃げないでくださいよ … 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉はそこで初めて振り返る。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
政裕は困った顔をしてる。
でも。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
「 俺も怖いです 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
秀哉の呼吸が止まる。
・
・
「 だから逃げないでくださいよ ッ … 」
・
・
・
NEXT …
「 また会いたいと言うためのお出かけ 」
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
コメント
1件
いやあ、もう…この第7話、すごかったです。政裕視点で「会わない時間の方が長いはずなのに」ってタイトルが効いてますね。実際、会わないで平気だと思ってたのに「無理でした」って認めるシーン、胸が締め付けられました。プロとしての自覚と、それでも抑えきれない気持ちのせめぎ合いが痛いほど伝わってきます。秀哉も同じで、お互い逃げたいけど足が動かない…あの空気感、もうたまらないです。次回「また会いたいと言うためのお出かけ」、めちゃくちゃ楽しみにしてます!