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奏とは交際してから3年が経つ。
2人ともインドア派だったからデートはほとんどが家だった。同棲はしていなかったからお互いの家に遊びに行っては恋人らしいこともした。だから私と奏にとってはお互いの家は思い出で溢れている。今日も朝からずっと一緒に過ごした私の部屋には奏の優しい香りが広がっている。そんな奏の香りに包まれていると、1人で居てもまるで奏がいるみたいで寂しさがなくなっていく。
幸せだった。何もかもが、奏といる一分一秒が楽しくてこれから先もずっと一緒だと思っていた。
けれど、3年も経つと少しずつお互いの不満が溜まっていたらしい。最初は些細なことから始まって段々と昔に比べて喧嘩が増えていった。最初は喧嘩してもすぐに仲直り出来ていたけど、最近は喧嘩して仲直りしてもまた数日経つと喧嘩する繰り返しで正直疲れていた。だからある日の喧嘩している時にどうしようもなく感情が溢れ出してつい口にしてしまった。
「ねぇ、奏私たちもう別れよう」
「…え、なんでそうなるの?」
「もう嫌なの喧嘩ばかりの毎日は」
「そんなことで別れるのかよ。結衣はほんとに極端だな」
「なにそれ、どんな理由だろうと関係ないでしょ」
「…じゃあ結衣はもう俺のことが嫌いになったの?」
その質問は流石に即答出来なかった。
だけど、喧嘩して感情が熱くなった勢いでまだ好きだって気持ちに気づいていないフリをしてしまった。
「うん、もう好きじゃない」
今思えばこんな言葉言うべきではなかったのに。この一言のせいで私と奏の赤い糸は解けてしまった。
「…そっか、なら別れるよ」
この時、奏がどう思っていたかは分からなかったけど優しい奏はきっと私の気持ちを尊重してくれたのだと思う。
「……俺のこと好きになってくれてありがとう。」
その一言を残して奏は出ていってしまった。
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今日、私は3年付き合っていた彼氏と別れた。
君が出ていってから私の部屋に残ったのは君の香りだけだった。
香水とか匂いに興味のない君だったから、君からする香りはいつも爽やかな洗剤の香りがした。香水の強い香りが苦手だった私からしたらその優しい香りは大好きだった。
それが『君の香り』で、いい匂いとかそんな感情よりも先に君からする香りは私の心を落ち着かせる。君に抱きつけばいつもフワッと『君の香り』がする。大好きだった。ずっと包まれていたかった。
だけど、洗剤の匂いって香水とかと違って思ってるより弱いもので、『君の香り』はどんどん薄くなる。
君と離れてしまってからもう『君の香り』を嗅ぐこともなくなった。
だって、君の隣にいれないから。君と手を繋げないから。君の物に触れられないから。君に抱きつけないから。だからいつの間にか、『君の香り』が分からなくなった。
『君の香り』ってどんなだったっけ。
どんな匂いがしたっけ。
なんの洗剤だったんだっけ。
時間が経てば経つほど、『君の香り』が思い出せなくなる。忘れてしまった。
あんなに大好きだったはずの匂いも、こんなに呆気なく忘れてくんだなって。明日起きたらまた『君の香り』が忘れていくのかなって思うと怖くて悲しかった。
けれど女は失恋をしても上書き保存が出来るみたいで、
もう家の中に少しだけ残っていた『君の香り』も、君が好きだった感情も全て新しい香水の香りでかき消されていってしまった。
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【奏said】
「ねぇ、奏もう私たち別れよう」
いつものように口論になっている中、結衣は俺にそう言い放った。
正直頭の中が追いつかなくて混乱している。
けど、男のプライドなのかそんな姿は見せたくなくて必死にポーカーフェイスを繕う。
「もう嫌なの。喧嘩ばかりの毎日は」
今にも泣きそうに震えた声で言う結衣に俺はムカついた。
なんで結衣が泣きそうになるんだよ、だったら別れようなんて最初から言うなよ。そんなことを思ったけれど、俺にだって分かる。別れようという言葉を言うのにどれほど勇気がいるのかってことも。泣きたくもなるほど結衣が追い詰められていたってことも。だけど俺はまだ結衣が好きだから別れたくない、そんなことも言えなくて結衣を試すかのように聞いた。
「…結衣は俺のことが嫌いになったの?」
少し間をあけてから「うん、もう好きじゃない」と結衣は言った。
その言葉を聞いて俺が必死に作り上げたポーカーフェイスが一瞬で壊れそうになった。好きな人に好きじゃないと言われることがこんなにも苦しいものなのなら最初から聞かなければ良かった。
いつもみたいに仲直りしとけば良かった。
次から次へと後悔が募る。だったら必死に結衣のことを繋ぎ止めろってそう思うかもしれないが、もう結衣は俺のことが好きではないわけであって好きでもないのに無理に付き合わせるなんてこともしたくない。
「…そっか、なら別れるよ」
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今日俺は3年付き合っていた彼女と別れた。
あれから自分の部屋に帰るとほのかに君の香りがした。その香りが流れるように俺の頭の中の思い出を甦らせる。君とここで過ごした日々が思い出したくないのに思い出してしまう。
その時初めて瞳から涙がこぼれ落ちた。
香水の強い匂いが苦手だと言っていた君は、フローラルな甘いボディミストをつけていた。
それが『君の香り』だった。抱きしめる度にふんわりと香る優しい匂いは、香水とか匂いに興味が無い俺でも大好きな匂いだったから、君が使っていたボディミストは知っていた。
「これすごいいい匂いするの」って楽しそうに俺に話していたから。
誕生日にプレゼントした時は、「覚えていてくれてたの!」って嬉しそうに目を輝かせて喜んでいた笑顔は忘れられなかった。
大好きだった。君も『君の香り』も全部。
君とはもう離れてしまったのに、まだ俺の家の中は『君の香り』でいっぱいでまだ君がいるみたいだった。
香水の匂いはたしかに強いと思う。だけど、洗剤しか使ったことの無い俺からしたら『君の香り』もよっぽど強いと思う。
いっそのこと、『君の香り』なんて忘れられたらいいのに。
早く匂いが無くなればいいのに。
君が使っていたボディミストなんか消えてしまえばいいのに。
だけど俺はいつになっても『君の香り』を覚えている。匂いを嗅ぐ度に君との思い出も全て思い出す。ベッドには沢山君との思い出があって、だからか1番『君の香り』がして寝ようと目を閉じるとすぐに君の可愛らしい笑顔が浮かんでくる。
まだ『君の香り』に包まれていたい。まだ『君の香り』を忘れたくないし、忘れられない。
家の中に沢山の『君の香り』が残っているように、君が好きっていう感情も同じくらい俺の中にまだ残っている。
end