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#溺愛
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数日後の朝、会社は地獄絵図と化していた。鳴り止まない電話。社内外から押し寄せるクレームの嵐。原因は、涼香が「試験導入」と称して一部の現場に強引にねじ込んだ新システムだった。
繊細な高級チョコレートの製造は、気温や湿度に応じたベテラン職人の「勘」が命だ。原材料の微調整や、弾かれた製品をB級品(アウトレット)へ回すといった「不規則な現場判断」こそが、品質と利益を支えていた。
しかし、涼香のシステムは「職人の勘はコストの敵」と断じ、一切の例外(イレギュラー)を拒絶する代物だった。
記録的な猛暑により工場の温度管理が狂い、大量のチョコレートに異常が発生。「想定外」を拒絶するシステムは、全ラインを緊急停止させた。
「責任は判断の遅い現場とシステム部にある!」
常務は工場長を電話で罵倒した挙句、「プロジェクトに関わった奴は全員クビだ」と喚き散らしているという。現場をめちゃくちゃにしておいて、最後はデリート(削除)で解決というわけだ。
緊急会議の席。真っ青な部長の横で、涼香は相変わらず「常務の命令ですから」と高圧的だった。
「……万が一のために用意していた『緊急手動入力モード』の起動を提案します」
僕の意見に、涼香が即座に噛み付く。
「ふざけないで! そんなレガシー(遺物)、最新のロジックを汚すだけだわ!」
「汚れるのはロジックじゃありません。うちの会社の信頼ですよ」
言い返すと同時に、僕はPCを開いた。
「全責任は俺が持つ!春川、やれ!」
部長の悲鳴のような決断を背に、僕はプログラムの隙間に――密かに仕込んでいた「裏口プログラム」を開放した。
現場からの手入力が激流のように反映され始める。破棄寸前の製品が、次々と「アウトレット(B級品)」として救済され、出荷ルートへと流れ出した。
「なっ……何をしたの!?」
「システムを『現実(リアル)』に合わせただけです」
その時、会議室の扉が壊れんばかりの勢いで開いた。
「……お前たちは今日限りでクビだ。新システムを使いこなせない無能な奴など、この会社にはいらない!」
常務の、勝利を確信した傲慢な宣告だった。だが、そこに凛とした、しかし氷のように冷たい声が響いた。