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「少し前に、青木さんが怪我していることに気づいて、それがDVなんだとわかった。それから、なんとかご主人に暴力をやめてもらうことはできないか?とあれこれ考えた。でも、無理だったらしくて…」
そこで一旦、言葉をきる。
佳苗はまだ下を向いている。
「それで、これはもう証拠を残して警察に訴えるしかないと思って、病院に行って診断書を書いてもらって怪我の写真も撮ってもらおうと思って、昨日、それをするつもりで青木さんと会った。でも、病院はどうしてもイヤだと言って。ならば証拠写真だけでもと、その、写真のホテルに…」
もごもごと声が小さくなる。
「は?これ、昨日の写真なの?」
「そう…そんなふうに加工されててびっくりしたけど」
「てかよ!裸になってるじゃん、お前!やることやったんだろ?それも昨日が初めてじゃないんだろ?」
「してない、裸になったのは、その…」
また声が小さくなる。
仕方ない、私も話に入るか。
「無理矢理脱がされたんでしょ?そして、抱いてくださいとかなんとか言われて。そうしないと写真をみんなに見せますよとか脅されて…」
いきなり話に入った私をみんなが見る。
かまわず続ける。
「でも、できなかった、でしょ?」
そこで佳苗が顔を上げた。
「き、昨日はできなかったけど、そのまえはちゃんとできて、だから、私妊娠して…」
声を張り上げる。
「それで、それをネタに店長を奥さんと別れさせようと思ったの?下調べもして」
聡美が言う。
「えっ!」
「少し前にさ、うちを見張ってたよね?」
「あ、あの…」
「私のことを確認してたんでしょ?青木さんよりずっと年上だし、子どももいないから、店長を横取りできると思った?でもあれはストーカーみたいでいただけないわ」
「私、そんなことしてません!本当に店長のことが好きで店長も私のことを好きだと言ってくれてだから、奥様に会って話そうと決めてたんです。お願いです、奥様、店長と別れてください」
佳苗は頭を下げる、聡美に向かって。
「…だってよ、冬美さん、どうする?店長と別れるの?」
聡美が、やれやれと私を見た。
佳苗は意味がわからず、私と聡美を見比べていた。
「別れないわよ、浮気も妊娠も嘘なんでしょ?そのご主人から逃げたくてうちの夫を利用しただけだよね?」
「え?うちの?え?」
私は免許証を出して見せた。
[坂下冬美]
聡美も免許証を出して見せた。
[東野聡美]
「わかった?青木さん。あなたが見張っていたのは、私のフリをしてくれていた私の友人なの。入れ替わってたのはあの日だけ。だから、あなたが聡美ちゃんを店長の奥さんだと思い込んでいたの。張り込みまでして、相当な準備ね」
「そんな…」
「そこまでしないと、ご主人とは別れられないの?」
バン!とテーブルを叩く佳苗の夫、正和。
「別れてやるって言ってるだろ?俺は精神的苦痛を受けた慰謝料さえもらえば、さっさと別れてやるよ」
タバコに火をつける。
「ここは禁煙です、外で…」
「うるせぇな、今それどころじゃねーだろ?店長さんよ。奥さんを間違えていたってうちのが妊娠させられたって事実は変わらないんだぞ」
ふんぞりかえる正和。
「あー、なるほど。店長の子どもができたことにして、慰謝料でもとろうと思ったの?それとも両方?」
私の問いかけに、佳苗は黙り込む。
「正直に話したら?妊娠も嘘ですって」
「え?…」
そこで初めて顔を上げた。
「うち、子どもいないわよ。そういうことよ。だからそれは決定的な嘘、それもひどく残酷な嘘ね、うちの夫にとっては…」
「そんな…」
「それとね…うちの夫は優しいから、そこにつけこもうとしたんだろうけど、それも嘘よね?」
私は、佳苗の左腕を持ち上げ、クルクルと包帯をほどいた。
何もない。
「やっぱり…。その体のアザはDVでしょうけど、手首は切ったフリをしただけね、うちの夫に気にかけて欲しかったからでしょ?」
佳苗は、右手で左手首を隠した。
カツカツと足音がして、事務室のドアが開いた。
「失礼します!通報があったので駆けつけました。暴力事件が起こったとか?」
「被害者の方は?」
警察官2人が入ってきた。
「こちらの女性が、そちらの男性からDV被害を受けています。警察の方で対処をお願いします」
私は佳苗と、正和を警察に引き渡した。
警察が介入すれば、すんなりと離婚できるだろう。
2人はそれぞれ、警察署へ連れて行かれた。
「あれ?警察って呼んだフリじゃなかったの?」
「すみません、お客さんが通報しちゃったみたいです。それにしても、こちらの方が奥様だったんですね!先ほどは失礼しました」
チーフは、私に頭を下げてきた。
「ごめんなさいね、騙しちゃって。ちょっと気になることがあったから友達に手伝ってもらったの」
「そうでしたか。でも、やっぱり店長は不倫はしてなかったし、優しい人だとわかりました。青木さんのことは、私も少し気になってたんですけど…」
「これでまたアルバイト、減っちゃったね、ごめんなさいね」
「あ、そうだ、本気で募集かけないと。こんなことしてられない、売り場に戻ります!失礼します」
チーフは急ぎ足で売り場へ戻って行った。
「俺も売り場に戻って片付けてくるよ」
夫もチーフのあとを追った。
「ありがとう、聡美ちゃん、なんかうまくいったみたい。さすがだね、嵌められそうだったうちの夫を助けてくれてホント、ありがと」
「ちょっとだけ不安はあったのよ、もしもホントに浮気してたらどうしようかなって」
「それはね、多分ない」
「あら、信頼し合ってるのね?それとも愛し合ってるのかしら?フフッ」
「夫婦のことって、夫婦にしかわからないものよ。さぁ、買い物に戻りましょ!」
その日は聡美と一緒に、たくさんの食材を買い込んだ。