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碧波琉奏は、夕闇の教室にいた。
風の音がひどくなって、明るいオレンジ色の空は、闇色に閉ざされた。
「魅麗、待ってろよ」
教室から笑い声が聞こえる。僕は、憎悪の炎に薪を焚べてやった。
いたぶられている少女、それも憎かった。いたぶっている少年少女、それも憎かった。
風が強く吹き荒れているのを感じた。それがいつのまにか憎悪に浸かる快感と混じり合って、自分が祖父の碧波奏のように風になったような気にすらなる。
扉が無造作に開かれた。暗い教室に、乳白色の皮膚をした美しい少年が映し出される……と誰もが思ったはずだ。
「貴様、桃畑の仲間か」
僕と同じクラスの少年……”三島ヒカル”の問いに頷いた。お前が、やったのか。あの時もだ。
元凶……!
「かかれ!」
六人の生徒が襲いかかってくる。
「お前もだぞ、やれ!」
いじめられていた少女も立ち上がって向かってきた。
「なんだよ、劣等がうつるからこないでくれよ」
微笑を浮かべながら、三つ編みにして強度を増させたビニール紐で彼らを縛り付けていく。
授業中、内職で作ったものだ。
さあ、ここからどうしようか。
僕は微笑を浮かべた。ほとんど嘲笑である。
「なんだよ、風紀委員会なんかが。」
窓をガタガタと風が揺らす。蛍光灯が不気味にチカチカと点滅しだした。
三島に対して再び僕は怒りの衝動を覚えた。
息を切らしながら悪夢に立ち向かう僕に普段の余裕そうな表情はもうなかった。
殺戮の愉しみと苦痛の中で、憎しみが、ドロドロとした血液の中のような快楽に溶けてゆく。
彼らは、首を絞められて苦しそうにしている。
「お願いしますっ、助けてください。なんでも、します、から」
何でも、か。君らのような無能にさせたいことなどない。どうせ何もできない役立たずの奴隷にしかならぬだろう。
「せめて、殺してください」
三島は弱かった。
「ああ、殺ってやるよ!」
ナイフを突き立てて僕は嘲笑した。
「碧波先輩!」
「ルカ!」
声が聞こえた。目撃されるのはまずいのに。
僕は目を閉じた。腕とナイフとは、すでにものすごい早さで振り下ろされていた。
二人は、敵ではないのに。
止まらない。時が止まったように世界は静かになり、スローモーションでしか腕は動かないのに、制御できなかった。
螺鈿先輩が自分の腕に差し掛かりそうなそれを身をよじらせて避けたのが見えた。
……まずい。
断末魔のような悲鳴が聞こえて、床に魅麗が倒れ込んだ。
血でびっしょりと濡れている。
魅麗のほおに禍々しい赤い斬撃が走っていた。