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創のことを指しているのだろう。涼は視線を下に向け、慎重に尋ねた。
「もし、そうなったとして……准さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫でもそうじゃなくても、ここに引っ越すって決めたんだ。サラリーマンを辞めても、持ってるもん全て売っぱらってもここにいるよ。ここで、お前と生きてく」
准は成哉の頬に触れた。その目は夕焼けに染められ、どこか懐かしくも思えた。
「……ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。俺がまた一から稼いで、准さんを養いますから!」
「そいつは頼もしいなぁ。あっ」
「どうしました?」
「やばい、大事なこと忘れてた。まだ時間大丈夫かな……? 成哉、急いで車に戻るぞ」
来た道を戻っていく准を、成哉は慌てて追い掛ける。そしてどこへ行くつもりなのか尋ねた。
「それは、俺は分かんないな。お前に案内してもらわないと」
……。
寂しそうな表情。だけど、いつもと同じ優しい声。
懐かしい匂いはどんどん濃くなっていく。
時が移り、場所が移り、人が移っていく。
降り立った駐車場で、成哉は寂しそうに帰っていく人達の後ろ姿を見送った。
手に持った菊の花を愛でる傍ら、綺麗に咲き誇る水仙の花を眺める。高い夕焼け空に目を細めると、目の前の彼の姿までぼやけて見えた。
長い長い階段を上り、息を切らす。
体力が落ちたかもしれない、と内心ぞっとした。もう一年以上前になるが、最後にここに来た時はここまで疲れなかったはずだ。
「准さんすごいですね、ガンガン先に行って……俺、どうも老体みたいです、もう足が上がらない」
「アホ、二十歳だろ。そんな情けないこと言ってたら、きっと悲しむぞ」
「うぅ……いや、適度に休めって言ってくれます。俺の、父さんと母さんなら……」
最後の階段を上り、成哉は俯いていた顔を上げた。そこには多くの墓石が連なり、参拝者を迎えていた。
一年ぶりに訪れた、成哉の両親が眠る霊園。
二人はそこに来ていた。
「准さん、ありがとうございます。一緒に来てくれて」
「当前。むしろ、俺がお願いする方だよ。どうしてもお前のご両親に挨拶したかったから」
それを聞き届け、成哉は微笑む。
両親の墓参りはずっと行きたいと思っていた。だが今日ここに来るつもりはなかった。
─────彼まで暗い気持ちにさせてしまうと畏れたからだ。