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汚染
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あめ猫@サボり魔
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ありきたりな雑炊
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サバイバーロビーの中央。
静かに揺れる焚き火を囲み、生存者たちが思い思いに休息を取っていた。
何度命を落としても、またここへ戻ってくる。
そんな終わりの見えない日常の中で、その日だけは妙に視線が一か所へ集まっていた。
「……で?」
焚き火の向こう側から、妙に冷静な声が飛ぶ。
テレビ型の頭部にメモ画面を表示したヴェロニカが、入力カーソルを点滅させながらシェドレツキーをじっと見つめていた。
「アンタさ」
「この前の試合で出てきた、あの全身緑色で骨がスケスケの見るからに危険そうなキラー」
「どういう関係なの? (?_?)」
その一言で、周囲にいたサバイバーたちまで耳をそばだてる。
誰もが気になっていた質問だった。
「あ、あはは……」
シェドレツキーは額に冷や汗を浮かべた。
白い「BLAME JOHN」のシャツの襟元をいじりながら、不自然なくらい爽やかな笑顔を作る。
「べ、別に大した関係じゃないって!」
「昔ちょっと関わったことがあるだけというか……俺が昔作ったゲームのボスキャラみたいなものでさ!」
「だから気にしなくて大丈夫!」
乾いた笑い声だけがロビーに響いた。
「ふーん」
ヴェロニカは全く納得していなかった。
メモ帳に何かを書き込みながら首を傾げる。
「でもさぁ」
「あのキラー、アンタ見つけた瞬間に『また俺を捨てる気か』って叫んでたよね?」
「しかも物凄い執着してたし」
「どう見てもボスキャラ以上の感情があったけど? ( ᐛ )」
「言葉の切り取り方がおかしいんだよ!」
シェドレツキーは思わず立ち上がる。
「あれは……その……そう!」
「敵が主人公を精神攻撃するための煽り文句!」
「演出!」
「サービス精神!」
「全部違うと思う」
ヴェロニカは即答だった。
周囲のサバイバーたちも「うんうん」と頷いている。
「……よしなさい、ヴェロニカ」
穏やかな声が二人の間へ入った。
デュセッカーだった。
背中に背負ったイルミナへ静かに手を添えながら、シェドレツキーの前へ歩み出る。
「彼には彼なりの事情がある」
「今それを暴いたところで、我々の生存率が上がるわけではない」
「今は目の前の試練に集中すべきだ」
「ふーん……」
ヴェロニカは少しだけ唇を尖らせる。
そして入力画面を閉じると、シェドレツキーへ指を突きつけた。
「でもさ」
「あんまり『僕が全部背負います!』みたいな主人公ムーブはやめてね?」
「自己犠牲って見てる側もしんどいから」
「……善処します」
小さく肩を落とすシェドレツキー。
その様子を見届けると、生存者たちはそれぞれの休憩場所へ戻っていった。
焚き火の周囲に残ったのは、シェドレツキーとデュセッカーだけだった。
炎が静かに爆ぜる。
その音だけが二人の間を満たしている。
「……ありがとう」
シェドレツキーはぽつりと呟いた。
「助かったよ」
「礼は要らない」
デュセッカーは穏やかに笑う。
「だが、ヴェロニカの言葉にも真実はある」
「君はFORSAKENへ来てから、自分を犠牲にすることばかり考えている」
「まるで……1x1x1x1を生み出した罪を、自分の命で払い続けようとしているようだ」
その一言に、シェドレツキーの肩が小さく震えた。
リンクソードの柄を握る手へ力が入る。
「……俺のせいなんだ」
「俺が傲慢になった」
「俺があいつを拒絶した」
「だから……全部俺が悪い」
「それをみんなに知られたら」
「俺はきっと……」
そこまで言って、言葉が止まる。
デュセッカーは静かに肩へ手を置いた。
「私は知っている」
「君の過去も」
「君の過ちも」
「だからこそ共にイルミナを鍛えた」
「変わろうと誓ったではないか」
「人は過ちを消すことはできない」
「だが、その先をどう歩くかは選べる」
「君はもう、一人ではない」
その言葉に、シェドレツキーはゆっくり目を閉じた。
少しだけ胸の重さが軽くなる。
焚き火の温もりが、久しぶりに心へ届いた気がした。
その瞬間だった。
ジィィィィィ……
背筋を這うような、強烈な視線。
シェドレツキーは反射的に振り返る。
ロビーの端。
誰もいないはずの暗闇。
その物陰から、二つの真っ赤な瞳だけがギラリと光っていた。
「……え?」
よく見ると。
ドミノクラウン。
赤いケープ。
そして壁からはみ出している緑色の炎。
「……1x?」
思わず名前を呼ぶ。
その瞬間。
「ッ!!」
物陰の向こうで慌てる気配。
サッと隠れた。
……つもりらしい。
しかし赤いケープが丸見えだった。
ドミノクラウンも全部見えていた。
隠密としては壊滅的だった。
「……おい」
「見えてるぞ」
シェドレツキーが近付く。
すると。
「うるさい!!」
勢いよく飛び出した1xがヴェノムシャンクをシャキンと構えた。
全身から黒緑の炎が轟々と燃え上がる。
「勘違いするなバカ!!」
「監視だ監視!!」
「お前がまた余計なことしてないか見に来ただけだ!!」
「いや」
「キラーってロビー入っていいの?」
「スペクターが『見学くらいならいいよ〜』って言ったんだよ!!」
「ほんっとあの赤帽子余計なことしかしねぇ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ1x。
炎まで赤く染まり始めている。
「あと!!」
「お前!!」
「さっきからそのカボチャ頭と距離近すぎるんだよ!!」
「肩なんか叩かれやがって!!」
「お前の半身は俺だろ!!」
「俺以外の奴なんか頼るな!!」
「気持ち悪い!!」
「言いたい放題だな!?」
シェドレツキーは思わず吹き出した。
本当に変わらない。
神殿で頬を触られただけで真っ赤になっていた頃も。
封印される前も。
そして今も。
世界最悪のキラーになってなお。
この緑色の半身は、自分が誰かへ笑いかけるだけで焼きもちを焼く。
最高に面倒くさくて。
最高に不器用だった。
「何笑ってんだ!!」
「殺すぞ!!」
「……ありがとう」
「え?」
シェドレツキーは優しく笑った。
「見に来てくれたんだろ?」
「なんだかんだ、お前が近くにいると安心するよ」
その一言だった。
「……は?」
1xの思考が止まる。
赤い瞳が点滅する。
胸の奥。
黒い肋骨の中心にある核が狂ったように鼓動を打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
「な……」
「ななな……」
「何言ってんだバカァァァ!!」
炎が一気に爆発した。
「次の試合で最初に吊るす!!」
「絶対だからな!!」
「覚えてろぉ!!」
叫びながら緑色の炎へ飛び込み、そのまま逃げるように姿を消してしまう。
静寂が戻る。
その背中を見送りながら、デュセッカーは小さく息を吐いた。
「……なるほど」
「何?」
「彼はキラーではあるが」
「一番必死にシェドレツキーを追い掛けているという意味では」
「誰よりもサバイバーらしいのかもしれんな」
「……否定できないな」
シェドレツキーは苦笑しながら、炎の消えた暗闇を見つめた。
終わることのない鬼ごっこ。
許されない過去。
埋まらない傷。
それでも。
少しずつ、本当に少しずつだけ。
何百年も絡まり続けた二人の心は、再び同じ方向を向き始めていた。