テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第62話 〚帰り道の余韻〛(澪視点)
玄関のドアが閉まった瞬間、
さっきまでの賑やかさが、嘘みたいに静かになった。
「じゃあ、また月曜ね」
「楽しかった!」
えま、しおり、みさと、りあ、玲央がそれぞれ手を振って、
夜道へと散っていく。
澪は、最後に残って靴を履き直した。
「……ありがとう」
小さく言うと、
「こちらこそ」
海翔は、少し照れたように笑った。
外に出ると、空気は冷たくて、
昼間の楽しさが、ゆっくり現実に戻っていく感じがした。
並んで歩く帰り道。
街灯の下、影が二つ並ぶ。
「楽しかったね」
澪が言う。
「うん」
海翔は短く答えてから、少し間を置いた。
「……来てくれてよかった」
その一言が、胸にすっと落ちる。
澪は歩きながら、
自分の心臓にそっと意識を向けた。
——痛くない。
静かで、穏やか。
(今日は、予知も来なかった)
それが、こんなにも安心できるなんて、
少し前の自分は知らなかった。
「澪」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「今日さ……」
海翔は言いかけて、少し迷ったように視線を逸らす。
「……笑ってたよ」
「え?」
「前より、ずっと」
澪は一瞬、言葉に詰まってから、
「……そうだったら、いいな」
と答えた。
少し沈黙。
でも、気まずさはなかった。
ただ、楽しかった時間が、
余韻として残っているだけ。
角を曲がるところで、立ち止まる。
「ここから別だね」
海翔が言う。
「うん」
一瞬、何か言いかけて、
澪は結局、こう言った。
「……また、こういうの、したい」
海翔は驚いた顔をしてから、
はっきり頷いた。
「するに決まってる」
その答えに、澪は小さく笑った。
手を振って、別々の道へ。
歩き出してから、
澪はふと振り返る。
もう、海翔の姿は見えなかった。
それでも——
胸の奥には、確かに残っていた。
楽しかった記憶。
守られていた安心感。
そして、明日へ続く、静かな希望。
夜風に、仮装の余韻が溶けていく。
——ハロウィンは、まだ終わらない。
物語も、まだ続いていく。