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恋愛経験値0の僕に恋人が出来た。
「おめでとう藤原君!赤飯でも炊く?」
「いえ、結構です……」
長谷先輩と付き合い始めて1ヶ月、久方振りに行きつけのバー【Holiday】へ行った。
「藤原君最近全然来ないな~って思ってたけどなるほどね。恋人とラブラブな時間を過ごしてるからか」
マスターの谷口さんは嬉しそうにニヤニヤと僕の顔を見つめた。
「ラブラブ……なんでしょうか?」
「え、何?もう倦怠期?」
先輩と付き合う時にいくつかルールを決めた。
2人の時はため口。
週末は一緒に過ごす。
抱き合うのは次の日が休みの時だけ。
僕には恋愛経験が無い。恋人になったら“なに”をするかなんて微塵も考えていなかった。
先輩と付き合って初めての週末。仕事終わりにレストランでご飯を食べた。
「ごちそうさまでした。それじゃあ」
家に帰ろうとしたら先輩に腕を掴まれて止められた。
「帰っちゃダメだよ。夜はこれからなんだから」
そのまま腕を引っ張られて家とは逆方向に先輩は歩いた。
「あの、どこへ?」
「俺の家。今日は家に泊まって」
先輩の家に着くとすぐに唇を奪われ、あれよあれよという間に服を脱がされベッドに運ばれた。
恥ずかしい事をいっぱいされて、痛い事も気持ちい事もいっぱいされて、身体はクタクタ。
翌日は足腰が立たなくてベッドとお友達状態。動けない。
付き合い始めてから、週末は毎回これの繰り返し。
精魂尽きるまで抱かれて身体はぐったり。
先輩と抱き合って、激痛を味わう度に思う。
何でオッケーしちゃったんだろう……って。
痛くて痛くてたまらない。
でも、先輩の巧みなキスに、身体に触れる手に、僕はいつも感じてしまう。
終わった後にはクタクタで動けない僕を優しく介抱してくれて、甘くてとろけるようなキスが降って来る。
「――俺は今、のろけを聞かされてる?ラブラブじゃないか」
「のろけじゃないです。僕、この前職場で聞いちゃったんです」
社員食堂でランチを食べている時、後ろの席に座っていた女性達が話していた。
「どう思う!?私彼氏とデートらしいデートした事ないんだけど。やっぱり遊ばれてるだけ!?」
「あ~そうかも。だって毎回会う度、ご飯食べてそのままホテル?それってただのセフレじゃない?恋人だったら普通、映画とか遊園地とか、ご飯とセックス以外の事もするよね」
「でもでも!甘いセリフとか優しい言葉もかけてくれるのよ?」
「ヤりたいからその気にさせるためにとりあえず言っとくか。って感じ?」
「ひどい!サイテーだわ!」
彼女達の会話を後ろで聞いていた僕はドキッとした。
僕と先輩の事言ってるのかな?ってくらい当てはまっている。いつもご飯食べてヤッてるだけ。
先輩とデートをした事がない。
――あれ?もしかして僕、先輩に遊ばれてる!?
「先輩は経験値が無くて何も知らない僕を騙して遊んでるんだっ」
「そんな事無いって藤原君!……多分だけど」
わーんっと嘆く僕のグラスに谷口さんはラム酒を注いでくれた。
「ほらほら、飲みな。藤原君の大好きなラムだよ。でも、今日は週末なのに何でうちに来れたの?」
「先輩は福岡に出張中でいないんです」
「なるほど。つかの間の休息か。あんまり悪い方に考えちゃダメだよ」
愚痴ならいつでも聞いてあげるから。と谷口さんは優しく微笑んだ。
◆
休み明け、部長から「今週の金曜日に松本、長谷、藤原の3人で金沢工場の生産ラインを視察してこい」と指示が出された。
金沢に日帰り出張。せっかくだからそのまま泊まって観光でもしようかな?
あ、でも週末は先輩と過ごすって決まりだった……残念。
しょんぼりしながらデスクに戻ると、隣の席から長谷先輩に声をかけられた。
「金曜日、よろしくね」
「はい。お二人の足を引っ張らないよう気を付けます」
先輩に向かってペコっと頭を下げると、頭上からふふっと笑い声がした。
「……先輩?」
頭を上げると、僕の方に顔を近づけてきた先輩が声を潜めて言った。
「ねぇ、今週末は金沢に泊まって観光でもしようか?」
「えっ?いいんですか!?」
「もちろん」
先輩と金沢旅行……付き合ってから初めてのデート!
嬉しくて思わず顔が綻んだ。そんな僕を見て、先輩はまたふふっと笑う。
「楽しみだね。今回はいつもみたいに抱き潰したりしないから安心して。観光に行けなくなっちゃうもんね」
エッチなことは我慢するよ。と先輩は耳打ちした。
「~~っっ!」
羞恥で顔面が一気にカッと熱くなった。
先輩、会社では甘い声で囁かないで。
◆
仕事帰り、僕はウキウキなテンションで【Holiday】へと足を運んだ。
「ご機嫌だね藤原君。何かいい事あった?」
「谷口さん、僕は今週末先輩と金沢でデートなんです!」
しかも先輩はエッチなことを自重すると言ってくれた。
「良かったじゃないか!初デートだね」
「これって先輩は僕の事遊びじゃないって事ですよね?」
「あんなに毎週ヤッてたのに性欲を我慢するなんて相当だよ。藤原君はちゃんと先輩に想われてるよ」
祝杯を挙げよう!と谷口さんは僕の大好きなラム酒をグラスに注いだ。
先輩は真面目に僕の事が好き。嬉しい。
お土産買ってきます!と谷口さんに告げて乾杯した僕は、上機嫌でグラスのお酒を飲み干した。