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二月十四日。
世間が浮かれるバレンタインデー当日。
付き合って、もうすぐ三ヶ月目になる。
この重大イベントに向けて、ひよりのテンションはすでに成層圏を突破していた。
「よし。今日こそ……♡」
姿見に映る自分を見て、私はニヤリと笑う。
勝負下着は、繊細な白いレースのブラとTバック。
その上に纏うのは、胸元が空き、太ももまで深いスリットの入ったブルーのニットワンピース。
テーマは——清楚系サキュバス。
“陽一さんを美味しく頂いちゃおう計画”、本日決行である。
「待っててね、陽一さん。今夜、あなたの理性を秒で灰にしてみせるから……♡」
私は意気揚々とキッチンへ向かった。
カウンターの上には、手作りチョコレート。そして、その横には——小指ほどの大きさの小瓶。
『南米の秘境原産!どんな男も一滴であなたの虜に♡』
……どう見ても怪しい。
でも「絶対落ちる!」という文言に、ついネットでポチってしまった。
「これを一滴……入れれば……」
脳内で、普段は温厚な陽一が、シャツを破り捨てて「もう我慢できない……!」と襲いかかってくる妄想が再生される。
(……ギャップ、やば。最高)
「……いやいやいや!!」
私はぶんぶんと首を振った。
薬で落ちる陽一さんなんて、私の好きな陽一さんじゃない。私は、シラフの彼に「好きだ」って言わせたい。ちゃんと気持ちが通じ合ってから美味しくいただきたいのだ。
そのために——
牡蠣も、鶏むね肉も、ブロッコリーも、
「健康のため♡」って言って、せっせと食べさせてきたんじゃない。
「こんな怪しいものに頼るなんて……乙女の恥!」
(※乙女というより肉食獣)
私は勢いよく小瓶の中身を流し台に捨てた。漂ってきた匂いは……完全に麺つゆだった。
「……危な。普通に詐欺じゃん」