「おはよう」という声がした。
騒々しいほどのその声は、僕にとっての天敵である。
怖い、逃げたい、そんな一心で僕は足を早めた。
急いで足を動かしていると、そのうちに足がもつれて僕は階段から落ちた。
痛みはそんなにないけど、目頭は熱かった。
ああ、死にたいな。
僕は死にたがり屋だ。
だって、今僕の生きている存在価値を示してくれる人なんていないのだ。
そうやって、いつだって心の隅で思っていた僕の前に君は現れた。
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春風がふく。
桜の花びらが舞っていて綺麗だった。
そんな風景を僕は屋上で見ながら、僕は今、身を投げようとしていた。
今は卒業式の後である。
みんなは綺麗な服を纏い、写真を撮ったりして笑い合っている。
一方僕は、すこし汚れたスーツ、血相の悪い顔。
こんな僕を、この世に繋ぎ止めてくれる人なんかいない。
なのに、そんな僕の前に君は現れた。
まるで、天使のようだった。
今にも消えてしまいそうな、真っ白な肌。
腰で揺れている綺麗で黒色な髪。
折れそうなほど細い足。
白いレースの半袖から伸びた手は綺麗で、でもやっぱり細くて白い。
脂肪がなく、無駄ひとつない、整った顔立ち。
広い大空をそのままうつしたような、青くて澄んだ目。
うっすらピンク色の、綺麗な形をした唇。
君は、そんな唇を開いてこう言った。
「死にたいの?」
その言葉は、綺麗すぎる君には似合わない言葉だった。
彼女の声は、やっぱり綺麗で、澄んだ声だった。
「…………うん」
こうして僕たちは出会ったのだ。
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新学期。
僕は新しい高校でも馴染めず、やっぱり屋上に来ていた。
あの日、卒業式の日。
君は僕にこう言った。
「じゃあ、一緒に死んであげる。」
僕は、なんで、と言わんばかりにきょとんとすると、君はからから、鈴が鳴るような声で笑った。
そして、彼女は名乗り始めた。
「私は、青空 華菜。
中3だよ。あ、4月からは高1だけどね。
君と同い年。よろしくね。」
僕が何を返せばいいのかわからないのがわかったのか、彼女はまた笑う。
そして、首を少し傾けて、君は?と聞いてきた。
僕は少し戸惑いながら名乗る。
「蓮堂 春。
年は、知ってるなら言わなくていいか。
……………よろしく。」
気まずいからさっさとよろしくと言って会話を切ると、君はまたしも笑う。
僕は君に問う。
「なんで、君はここにいるの?」
彼女は眉を少し下げて、ふふっと笑って言った。
「君と一緒に死ぬためって言ったじゃん」。
僕は苦笑いをしながら「変な人だね」と言った。
そして、真剣な顔をして僕ははっきりと告げる。
「僕なんかと一緒に死ぬ必要なんかない。
僕は好かれていい人間じゃない。
僕は無価値なんだから。
君の人生は君のものなんだ。
僕に使うな。意味なんてない。」
彼女は目尻を少しだけあげて、声色が変えた。
「意味があるかどうかは私が決める。
決めつけないで。それに春は無価値なんかじゃない。」
怒った彼女は、凛としていて、天使というよりヒーローだった。
彼女はまた目尻を下げて、ごめん、気まずくなっちゃって、と苦笑した。
僕はちょっと慌てて、あっと小さく呟いた。
彼女は不思議そうに顔を横に傾ける。
「ぼ、僕のこと、春って、………」
彼女はそれを聞いてさっきの僕よりも慌てていた。
「え、えと、ち、ちがうの!
別に名前で呼びたかったからとかじゃなくって、、、
あの、あのね、でも、名前、素敵だなって思ったから、
……………だめ?」
彼女の上目遣いはものすごい破壊力で、正直かわいかった。
「いい、けど。」
僕はやっとのことで言うと、彼女は小さくガッツポーズをした。
「やった!
あ、じゃあさ、私のことも華菜って呼んでよ。」
僕は少し迷って首を振った。
でも、彼女がすごく悲しそうな顔になったから慌てて言葉を補足する。
「あ、えと、違うんだ。
呼びたくないんじゃなくて、その、、、
華菜じゃなくて、空って呼んでも、いい?」
彼女はまた不思議そうな顔をして、へ?と言った。
「その、目が、空色で、綺麗だなって、最初に思ったんだ。
だから、青空って苗字聞いて、空って呼びたいなって、、、、」
僕のその言葉は相当彼女のお気に召したらしく、彼女は今まで見た笑顔の中で一番輝いて見えた。
「もちろん!
でも、一個お願い。
空って、呼んで?」
僕は恥ずかしながらも、「そ、空。」と彼女の名を呼ぶ。
彼女は嬉しそうに、うん!と笑った。
僕の方は、熱かった。
今生きていると感じさせるその頬の熱さは、なぜだか愛おしかった。
自分がついさっき捨てようとしていた自分の心だと思ないくらいに。
彼女が、空が僕の生きる理由になっているのだ。
不思議だ。
さっきまでは初めましてだったのに、こんな感情を抱いたのは、初めてだった。
コメント
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2作目! 死にたいって思ってた「僕」を救う君の心境に、あなたは温かい涙するーーー ぜひ、読んでくれると嬉しいです!