テラーノベル
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『その子が遺した手紙……?』
【ええ。光さんが最後にこの町に来たとき、置いていかれたんです。捨てられずに、いまだに店の奥に大事にしまってあって……】
カフェの女性がそう言って、奥から小さな箱を持ってきた。
中には、少し黄ばんだ封筒が一通。
『To:瑛士へ』
そう、丁寧な字で書かれていた。
「瑛士……?」
その名前を見た瞬間、誠也が固まった。
「どうしたの?」
『この名前、夢で何度も聞いたことがある……。誰かに呼ばれてた。“瑛士”って……俺のことを、そう呼んでた声があった。』
私の息が止まりそうになった。
それは偶然?
それとも……
カフェの女性は封筒をそっと開いた。
中には、シンプルな便箋が1枚。
彼女が目を通し、声に出して読み上げてくれた。
“もしも、また会える日が来たら……今度こそ、最後まで隣にいてください”
“あなたの名前を忘れても、きっと心が覚えてる。私は、あなたを愛したことを、消さずに持っていく”
“光より”
その言葉は、まるで今の私たちに向けられているようだった。
誠也くんが、私の手をそっと握る。
『なあ……俺ら、多分ホンマに、前に……』
言いかけて、彼は言葉を飲み込んだ。
でも、その瞳の奥には、確かな“記憶の欠片”が揺れていた。
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