コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ここは本当に日本か、と真希は思う。
どこかの南国にいるみたいに暑い。
確かクーラーはつけたはず。そう、最初は涼しくて真希も快適だったのだ。
リモコンを重たい瞼で探し出し、冷房のボタンを押す。
「動かねぇ‥」
真希は仕方なくベッドに座り込むが、暑すぎる。窓を開ければ少しはましになるかと思ったが、生ぬるい風が入ってくるだけだった。
眠れそうにない。現在の時刻は午前1時。どうやら真希は高専の古さを甘く見積もっていたようだ。
「眠い‥‥」
流石に真希でも眠気には抗えないのだ。充電の完了したスマートフォンを手に取る。
電話のアプリを開き、五条悟のボタンをタップする。
真希にとって五条は軽薄な元担任でしかないがそれなりに信用はしているし、大人であるとも感じている。
<何、真希>
いつもより低いような枯れたような声が聞こえてきた。
「クーラーがつかなくなった」
<うん>
「お前、冷房ついてるか」
<普通についてるけど>
「じゃあ悟の部屋行く」
<その役割僕じゃないでしょ>
やんわりと断られたのは真希にもわかる。
<野薔薇とか硝子とか、いるじゃん>
「申し訳なくなるだろ、こんな夜中に」
<その申し訳なさは僕には感じてくれないんだね‥>
「当たり前だろ。つーか眠いんだよ。部屋、行っていいか?」
<良いわけないじゃん、僕も眠いの。切るよ>
「じゃあ部屋行くからな」
<え、ちょっと真希>
付き合ってない男女がどうとか、そんなこと考えたくないほど、真希は眠かった。そして、暑苦しかった。
さっきまでの眠気はどこへ行ったのかと疑いたくなるほど、意識がクリアになった。
良からぬことを考えてしまい、ベッドから下りた僕は水を一気に口に含んだ。
水分を取り、さらに目が覚めたことで僕は尿意を感じ、トイレへ行く。
そこまで終えて、僕はベッドへ戻ろうとした。ふと、ベッドが乱れているように感じ、しわを手で伸ばして整えた。
なんか僕、焦ってない?
ただ何でもない女子生徒が来て涼んでいくだけ。そう、そうだ。何も起こらない。
息を整え、冷たい床へ座る。
こんこんこん、と戸を叩く音が聞こえた。
「はーい」
余裕を取り繕う。
「悟、入っていいか」
「‥どうぞ」
不機嫌そうな声音になってしまったのは許してほしい。いくら寝るときとはいえ男の部屋に来るとは思えない肌の露出だからだ。すらりとした長い脚はぎりぎりまで見えている。
「ベッドそっちね。僕ソファで寝るから。おやすみ」
「なんでだよ、悟もベッドで寝ればいいだろ」
広いし、と言う真希。
「だめ。一人で寝なさい」
僕にしてはめずらしい、強めの口調。
「なんか悪いだろ。一人で勝手に使ってるみたいで」
そっぽを向きながら言う真希。
君がベッドを独り占めするより僕と一緒に寝る方が良くないんだよ、と言いたくなった。
「はぁ‥‥」
「な、なんだよ」
「いい?いくら僕でも付き合ってもない男女が一緒に寝るとか絶対駄目だから。しかも捕まるの僕だから。君未成年でしょ」
僕が仕方なく説明してやると、真希はぽかんとしたあと、こう言ったのだ。
「お前と私が?あるわけねーだろ。そんな度胸、お前にあるかよ」
そういって笑った真希。この生意気で何も知らない子供は、悪い大人につかまりそうだ。
その点で言うと僕が悪い大人になりそうだけど。
「あるよ」
「っ‥‥」
ベッドへ移動し、真希を押し倒す。
「んん‥っ」
真希の唇を塞ぎ、舌を入れ込む。しばらく真希を堪能してから口を離した。真希は肩で息をしている。
「ほら、できるよ。この先だって、それ以上だって」
「‥‥っむかつく」
「寝るんでしょ、ほら」
ベッドに寝転がって手を広げて口角を上げる。
「ん‥‥」
意外にも真希はベッドに入ってきた。僕は柄にもなく焦ってしまった。そっぽを向いた真希のきれいな髪の毛を眺めながら寝られるかわからない不安に駆られていると、
「入ってこないと思っただろ」
真希がそういってにやりと笑ってきた。
「うん」
素直にうなずく僕。
「なんで?」
と理由を聞こうとした僕と、理由は聞くなよ、といった真希の声が重なった。
真希は驚いた顔をしている。僕がさらに聞くと、真希はあからさまに嫌そうな顔をして、そのあと頬を赤く染めた。
「別に、お前ならいいとか、そういうわけじゃねえ、から」
自惚れんな。
最後の真希の言葉はぎりぎり聞こえるくらい小さかった。
「‥‥」
「‥‥」
お互い何も言えない時間が続いた。
騒がしい心臓を抑えるために吸い込んだ空気は、真希の女性らしい香りまで運んできて、さらに心臓はうるさくなる。
もぞもぞと布団が動く音が聞こえたので、横を見てみると、心地よさそうに眠る真希。
「はぁ‥‥」
本日何度目かもわからないため息だ。
この状況で眠れる真希が本当にうらやましい。というか明日朝起きたときにもこの無防備な顔を見なければならないと思うと、またため息が漏れそうになる。
徐々に押し寄せてくる眠気の波に乗って、僕も眠りにつくことにした。