――1年数ヵ月後
荻野さんが亡くなり、間もなくしてマナは俺の家に戻って来た。でも、マナはあれから家に籠もるようになり、殆んど家から出ようとはしなかった。仕事もしなかった。だから俺がマナを養っているような生活をしていた。決して裕福な生活を送れていた訳ではなかったけど幸せだった。
そして俺は、あの事故があって半年を経過した頃から仕事から帰って来てはマナを外に連れ出した。ドライブに行ったり、カラオケに行ったり、映画にも行った。マナがしたいことは何でもさせてあげた。マナが笑顔になって元の生活に戻れるなら何でもしてあげたかった。俺自身がマナの笑顔を見たかった。
そして今日はマナの希望で東京ドイツ村に来ていた。ここは関東三大イルミネーションに選ばれており、300万個という物凄い数の電球を使った景色は幻想的で言葉では表現出来ないくらいキレイだった。
「圭ちゃん、ドイツ村のイルミネーション、ホントに感動した。連れて来てくれてありがとう」
「別に礼なんて言われるようなことはしてないから」
ドイツ村の園内を歩いて来て、そろそろ終盤に差し掛かろうとしていた時だった。
「そんなことないよ。荻野さんが死んじゃって、私が死にたくなるくらい苦しんでいた時、いつも一緒にいてくれたもん」
「当然だろ。ともっ――」
「友達だからでしょ? でも何で友達だからってそこまでしてくれるわけ?」
「それは――その――」
「もしかして私のこと好きなの? な~んてね」
俺はいつしか自分の気持ちに気付いていた。ずっと気付いていたのかもしれない。気付かないフリをしていた。自分が傷つくのを恐れて自分の気持ちに嘘をついていたのかもしれない。
「そうだよ」
「えっ!? 何が?」
「マナの言うとおりだよ」
「何のこと?」
「お前を好きだってことだよ。悪かったな、友達だってずっと言ってたのに――」
「圭ちゃん――いつから?」
「ずっとだよ。思い返してみたら、初めて会ったあの時に俺はマナを好きになっていたんだと思う。あの時からずっと好きだったんだ」
「圭ちゃん――どうして言ってくれなかったの?」
「言ってたらどうかなってたか? マナはいつも誰かを好きで、いつも誰かが傍にいた。いつもマナの傍で支えていた俺を友達としか思っていなかったマナに何て言ったらいいんだ? フラれるのがオチだろう――」
「そんな風に想ってもらえてたなんて夢にも思わなかったよ。私――」
マナは目に涙を溜めて、今までに見たこともないような困惑した表情をしていた。
「何も言わなくていい。俺はこれからもマナを守っていく。友達としてマナをずっと変わらず支えていくから」
「それでいいの?」
「あぁ――」
「私がまた誰かを好きになって誰かのものになってもいいの?」
「仕方ないだろ――」
「抱き締められて、キスされて、裸にされて、エッチをされてもいいの?」
「マナがそれで幸せなら別にいいよ」「わかった、もういい!」
マナは声を荒らげてそう言うと、足早に歩き始めてしまった。俺は慌ててマナのあとを追った。
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