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話終わった後、サーナルガは泣いていた。
でも、なんだか少し安心したような表情を浮かべており、リトナも微笑んでいた。
「…死んじゃった…ごめんね。強かったね…君に任せなければよかったね。」
レニーがサーナルガを撫でようと手を伸ばした瞬間、幼い男の子の声がした。
リトナがすぐさま振り返ると、魔物の死体に触れ、何かを回収しその場を離れようとしている一人の少年がいた。
「待てや!あんた黒薔薇の連中やろ!それも幹部!」
「あ…ご、ごめんなさい!」
振り返って謝る少年のは青がメインの狐の面を被っていた。
泣いているような狐の面。右の目に薔薇の模様が彫ってある。
「…逃がして…、ください…!」
顔を伏せながら少年がそう叫び、大量のトランプが彼の周りに浮いて回る。
なんだか、声が泣き声に聞こえた。
それを気にする間も無く多くのカードが飛んでくる。
触れると簡単に切れてしまうぐらいに鋭く、早い。
カードの模様を見てもスペード、ダイヤ、クラブの3つしか飛んでいない
ハートは、少年の周りに飛んでいた。
私達が苦戦するのを見て、少年はダッと森の中に走り抜けていく。
彼の姿が見えなくなると共にカードはパッと消えて、傷だらけのリトナ達が残った。
3人だけを狙ったみたいで、他に落ちている人には被害はなく、サーナルガが抱いていた少女にも怪我はなかった。
「いったた…身体中チクチクする…」
「んで?どうゆう奴だったんだよ?その黒薔薇の幹部っぽい奴。」
次の日の朝、リビングのソファーに沈むリトナの隣に座るファイアールが昨日のことについて聞こうとしていた。
リトナはゆっくり鮮明に昨晩の事を説明した。
「トランプの魔法を使う子だったよ。ハートは自分の周りに固定して、他のマークのカードを飛ばして体を切る。今回はこれぐらいの切り傷で済んだけど、多分本気出せば一瞬で切り刻まれるんじゃないかな。」
包帯に巻かれた自分の腕を見ながら、あの少年を思い出す。
涙声の少年、泣いている狐の仮面を被った少年。
何故子供が向こうに居るのだろう。不思議でたまらなかった。
「それで、見た目に特徴はありましたか?」
「うわリュートル!?いつの間に!」
ソファーの背もたれに手を置いてリュートルはいつからかしっかり聞いていた。
リトナは驚きながら、少年の特徴を思い出す。
「青の狐の泣いているお面を被ってて顔はわからなかった。あと、薔薇の模様が彫ってた。声は涙声だったよ。」
「…黒薔薇の幹部には渡しているのでしょうか?それならわかりやすいですが。」
「待て、その泣き虫野郎が幹部だともわかんねぇぞ。今は警戒とかでいいんじゃねぇか?」
3人で擬似会議を開き、こうだろうと思った事を共有の掲示板に貼っておこうとなりリトナが立ち上がり後ろを見ると、ヴィーナスが静かに立っていた。
リトナはつい驚いて声を上げてしまった。
「うわっ!?」
「貴方達、そんな大切な話は会議を開いて共有してくれません?」
「今から掲示板に詳細貼ろうとしてたしいいんじゃねぇかなって。てゆうかどっちにしろサーナルガから聞いてるだろ?」
「だからって…いや、もういいや。」
呆れたように息を吐き、踵を返すヴィーナスの右腕に、リトナは少しだけ違和感を感じた。
沢山の薔薇のタトゥーが彫ってある腕を見て、少しだけ嫌な予感がよぎった。
だか、その予想はすぐに裏切られた。
数日後の夕暮れだった。彼女はその日だけ長袖を着て、腕を隠していた。
少し気になってリトナは後をつける。
ヴィーナスは自分の腕を握りしめながら彼女の部屋に歩んでゆく。
その途中、彼女の袖から手にかけて血が垂れているのが見えた。
自分の部屋に入り、しばらくした後にリトナは覚悟してヴィーナスの部屋の扉を開ける。
血が溢れる右腕を押さえているヴィーナスが驚いた表情をしてリトナを見ている。
傷をよく見ると、タトゥーの所を中心に切り傷があった。
「…他人の部屋にいきなり入らないでください。」
「いや腕大怪我してる状態でそんなん言わないでよ!どうしたの?」
彼女は言いづらそうに顔を背ける。
リトナは部屋の扉を閉じ、彼女の隣に腰掛ける。
よしよしとヴィーナスの頭を撫で、自分の肩に落とした。
「何も言わなくていいよ、取り繕わなくてもいい。」
「…別に、学生時代にふざけて彫ったものです。今嫌になったからと言って消せるものではないので、気にしないでください。」
大人しく撫でられながら彼女はそう呟く。
リトナは彼女が何をしたのかわかっていた。
だから、何も聞かなかった。言わせようとしなかった。
前世の自分やべぇなとリトナは今更ながら思う。
トラウマ持ち、多重人格みたいな情緒不安定で、自傷行為を繰り返し、いじめられ、親の心配する声に対して無視を続け、自殺。
だからこそ今、彼らの気持ちがわかるのだろうなと思う。
前世の自分よ、今現在の私に役立っているぞ、ありがとう。
「じゃ、お邪魔しちゃったしそろそろ戻るね!何かあったら呼んで!」
「…よろしいのですか?」
不安そうにそう聞く彼女にリトナは微笑んだ。
そして、ゆっくり頷いた。
「もちろん。いつでも呼んで欲しい。」
自分ができる限りの優しい声色で、できる限りの事をしたと信じながらリトナはヴィーナスの部屋を出た。
リトナは思う。もし今世が自殺した罪なのだとしたら、自分の使命は前世の自分に似た傷を負う仲間を助ける事なのかもしれないなと。
それならば、できる限りの事はしよう。
ここが地獄なのだとしたら、彼らにそれ以上の地獄を再び見せないように。
ここが天国なのだとしたら、彼らが苦しい地獄に堕ちないように手を差し伸べよう。
グッと体を伸ばし、廊下を歩む。
さて、明日に備えて今日もゆっくり眠ろう。
美味しいもの食べて運動して寝たら人なんて大体幸せに生きていられるのだから。
目を開くと真っ暗だった。
なんとなく雰囲気で夢だなと感じたが別にいいかと思い一歩足を踏み出すと後ろから声がした。
夢でよく見る茶髪のサイドテールの少女が、無表情で立っていた。
紅い目が瞬きせずにこちらをジッと見つめ続けるから不気味さすら感じる。
「…どうしたの?」
「…罪は、消えないよ。」
そう言って、少し微笑んだ後に少女は リトナの頬に触れる。
「全部終わらせた後にまた会おう?その時は貴方の罪を全て消してあげる。」
真っ紅な瞳が不気味に感じてしまい、自分の頬に触る手に触れようとした時、リトナはベットの上で目覚めた。
外にはまだ月と星々が浮いていた。触れられた片側の頬が異様に冷たい。
「縺サ縺ェ縺ソ縺。繧?s?」
何かを呟いた自分の口に手を当て、同じ言葉を言い直そうと何度も口を開く。
嗚咽しか出てこない自分の喉に違和感を持って、ゆっくりと息を吐く。
「今…私、なんて言った…?」
夜が、ゆっくりと深く沈んでゆく。
「行ける?ルド。」
「もちろん、ロタ君。」
小さな二人の少年少女が夜の平原の中で視線を交わす。
目の前には複数の魔物。
ルドベキアの手に握られる彼女の身長より大きなハンマー。
ロタネの手に握られる大きな弓。
ニッとお互いに笑って、口を開く。
「「任務開始!」」
同時に彼らがそう言った瞬間に、二人が持つ武器にツルが巻き付いてゆく。
翡翠色と、梔子色の瞳が暗い中光っている。
不気味なほどに。