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でも、体は正直だったとわかる。昔から身体だけは光貴への愛が別のものだと訴えていたのだ。
せめて光貴以外にも男性経験があれば、もっと違ったかもしれない。抱き合う行為そのものの理解も乏しかった。
私は光貴としか経験はなかったし、これが普通だと思っていたから。
改めて気が付いた。博人と肌を重ねる時の私と、光貴と肌を重ねる時の私は、天と地ほどの差があることに。
気が付くと涙で濡れていた。自分のものではなかった。ぽた、ぽた、と私を見下ろす光貴の目から溢れた涙だった。涙の雨が私の頬を濡らしていた。
「っ…光貴、どうしたの。なんで…」
「ごめんな。ずっと辛い思いをさせてたんやな、って気が付いたから」
「ううん。そんなことない。悪いのは私だから…」
謝らないで。大事な光貴を悲しませているのは、まぎれもなくこの私。
私の方が「ごめん」って言わなきゃいけないのに。
「いいや。僕が…今まで悪かったんや……」
彼の目から溢れる涙が、私の頬に筋を作っていく。
「律」
突然名前を呼ばれ、涙で濡れた頬を寄せられた。
「愛してる」
私の名を呼び、愛を囁いてくれた。
それはプロポーズの時でさえ言ってくれなかった、初めての光貴からの言葉だった。
「光貴…どうして……?」
あの光貴が
「愛してるって言ったらあかんかった?」
泣きながら私に
「あ、だって…今まで一度も…言ってくれたこと……なかったから…びっくりして……」
愛を囁いたりするなんて――
「だったらこれからいっぱい言うから。律、愛してる」
強く抱きしめられた。
神様は残酷だ。
今から私は光貴を捨てて行こうとしているのに、このタイミングで光貴と関係を持たせるなんて。心に罪の意識を植え付け、根付かせようとしているのかもしれない。
こんな私を大切に、不器用でもせいいっぱい愛してくれる彼を捨てて、他の男と添い遂げようとしている私の大罪を、より浮き彫りにしようとしている気がした。
博人への愛に気が付く前に欲しかった。
もっと早く聴きたかった。
でももう戻れない。私は、博人への愛に気が付いてしまったから。
「どうしたらいい? 律が気持ちいいって思うところを僕に教えて」
「光貴の気持ちだけでじゅうぶんだよ。嬉しい…ありがとう」
初めて言葉にして貰った光貴の愛は、ゆっくり私の心に浸透していった。
光貴からは言葉なんかなくても愛されていたし、大事にされていたけれど、それでも私はその言葉が欲しかった。
たったひとつでよかった。
不器用な光貴の愛の言葉が欲しかった――
「痛かったら言って。今日はいっぱい、律を愛したい」
光貴と繋がったまま、優しく触れてもらった。
乱暴にしてごめん、と私を縛っていたタオルを解いてくれて、愛しいという気持ちをたっぷり込めたキスで、指で、私に触れてくれた。
「ぁ、こう、き…ぁあ……」
初めてほんの少し体が潤った。
今まで痛くて、苦しくて、辛いだけの交わりだったのに…。
どうして今なの。どうして…。
光貴の笑顔が心で弾け、想い出が走馬灯のように駆け巡って行った。気が付くと私の目から涙がとめどなく溢れていた。