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「俺はずっとシャンを見ていたから、シャンが誰を好きなのかはよくわかっていますよ。だからクリス殿下、恐ろしいほどまでの嫉妬心を俺に向けてくるのはやめてください」
ラスティが苦笑いをしている。
俺はさっき、そんなに恐ろしい表情をしていたのだろうか。
顔に手を当てて考え込んでしまう。
「本当に自覚ないんですか?」
ラスティが力なく笑った。
「本当にクリス殿下もシャンディもいつまで拗らせているんですか?俺にとってはこのまま拗らせておいたほうが都合がよかったんですよ」
ラスティが呆れたように言う。
そして、俺を真剣な眼差しで見据えた。
「でもね、昨夜のあのシャンの言葉の意味を知っていると知っていないではフェアじゃないから、いまクリス殿下にお伝えしました。あとはシャンから真意を聞いてください。シャンがちゃんと言葉の意味まで貴方に伝える意思があるのかどうなのかは本人しかわかりませんから」
もう、驚き過ぎて言葉が出ない。
そして、ラスティに「ありがとう」しか、胸が熱くなり言葉が出なかった。
♢
この人達は、人の頭の上でなんという話をしているんだ。
人の話し声が頭の上で聞こえるなと、目が覚めた。
まだ寝ぼけているのか、食堂の壁際の床で寝たはずなのに、どうして寝台で寝ているのか、ここの部屋は誰の部屋なのか理解ができない。
人の話し声はどうやらクリス殿下とラスティのようだ。
聞き耳を立てれば、クリス殿下とラスティはわたしのことでとんでもない話をしていた。
おかげで微動だに出来ないし、目を開けることもできない。
ふたりの話している内容がわたしがクリス殿下に一世一代の決心で伝えた「わたしの死体をよろしく」なので、恥ずかし過ぎるので絶対に起きていることはバレたくない。
いま、どんな顔をして、ふたりと顔を合わせたら良いのかわからないのだ。
とりあえず、聞かなかったことにしよう。
よくわからないけど、左腕がひどく熱くて痛い。
平和っていい。
こんなに心穏やかにゆっくり眠るのは久しぶりかも知れない。
もう隣国が攻めてくることはない。
そんなことをゆっくり考えていたら、寝台の心地良さに再び眠気が襲ってきて意識が遠のいた。
♢
翌朝、わたしが目を覚ますと部屋がすごい状態だった。
床の上で散乱した食べ物と酒と一緒にクリス殿下とラスティとそして師匠のシャムロックが折り重なるようにして寝ている。
これはなにが起こったのだ。
とりあえず、からだが重くて起き上がれないのでじっとしていたら、クリス殿下がむくりと起き出して、ふたりを揺すって起こし出した。
ようやく起きたラスティとシャムロックはふたりでフラフラしながら、扉に向かい出ていった。
ちょっと、わたしがまだ残っているんですけど。ラスティも師匠もわたしを連れて帰ってくれないの?
慌てて起きあがり、ふたりに連れて帰ってもらおうとするが、からだに力が入らない。
クリス殿下とふたりきりになってしまった。
とりあえず、起きると気まずくなるので寝ているフリを続ける。
クリス殿下がツカツカと寝台に近づいてきた。
「シャンディ、寝たふりはもういいよ。起き上がれる?」
バレてましたか?
仕方なく、ソロリと目を開ける。
目に飛び込んできたのは、あの綺麗な青い瞳だった。
クリス殿下が寝台に腰を下ろし、寝ているわたしの頭を優しく撫でてくれる。
そして、額で手を止めた。
「まだ、熱はあるね」
そう言うと、わたしをゆっくり起こしてくれた。
そして、寝台の横のナイトテーブルに置いてあった水差しからグラスに水を注ぎ、薬らしいものも持ってきた。
「シャンディに言いたいことがたくさんあるけど、いまは痛み止めの薬を飲もう」
なぜか、クリス殿下が薬をポイってご自分の口に入れて、グラスの水を口に含む。
えっ?わたしの薬じゃなかったけ?
呆気に取られ、ぼっーとクリス殿下を見ていたら、わたしの両頬をクリス殿下の手が包み込む。
そして、クリス殿下の顔が近づいたと思ったら、柔らかい唇の感触がして、水が流し込まれた。
ゴクンッ
わたしは大きく目を見開いたままで口移しで薬を飲まされた。
突然のことに耳まで熱く真っ赤にしながら、クリス殿下を見つめた。