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「佐野先生」
ぴとっと冷たい何かが頬を触り佐野は振り返ると、そこにはアイスを持った太智の姿があった。
「昨日は駅までありがとうございました^^」
話す口の動きまで可愛いと思ってしまう自分は何か魔法にでもかけられたのか。
『ありがと。また行こうね』
「はい!あっ、これ2連に連なってるやつで半分こ出来るんすよ。
朝礼まで時間あるので良かったら一緒食べたいな~なんて思ってるんですけど・・・」
じっと見つめてくる瞳に少し突き出す唇
あれ?ワザとやってる?これ?
これが世にいうあざと可愛いというやつか?と頭をよぎる。
『・・・・・』
ジト―ーーーと睨み付けてくる人物と目が合う。
ははーんと勘づき一気に面白くなる。
にやっと笑みを返しながらその人物に見せつけるように『塩﨑センセ早く行きましょ!』と
太智の背中を押しながらルンルンで職員室を出た。
「溶けてないといいんですけどね~」
『溶けてたら飲めばいいのよ』
扉を閉めてもなお、キャッキャッと廊下から楽しそうな二人の声が聞こえてくる。
睨み付けていた人物とは教育係の吉田であり、彼はなぜ自分より佐野に懐いているのか疑問に感じていた。
『えっ、怖かった?俺。気に障ることした?』
などぶつぶつ独り言を言っていたという・・・
昼休み太智のスマホに1件の通知が入る。
≪急遽欠員出て・・・忙しいと思うんだけど、今夜バイト出れない?≫という内容だった。
前もって実習期間は土日だけの勤務と伝えていたが、今日出勤予定の子が体調不良で人数が足りないというのだ。
今日は華の金曜日、確かにこの人数では上手くお店を回せないだろう。
世話になっている店長のことも考えつい≪実習終わり次第、向かいますね≫と送信していた。
「お疲れ様でーす! 皆生きてます~?」
バタバタと熱気に包まれる飲み屋で彼が顔を出した途端一気に爽やかな風が吹く。
『あぁ~!救世主====!!!』
『えぇ!塩さんやん!』
『ホンマにありがとう!!!』
『太智君いるとか神じゃない?今日じゅうちゃんもいるし!!!』
『えっ、一気に神メンツになった!』
太智がバイト先の居酒屋に入るや否や次々とスタッフが反応していく。
「あっ、今日柔ちゃんもおるんやね」
『太ちゃん、お疲れ様!来てくれて助かった・・・』
空になった食器を山ほど抱えた彼がか細い声で感謝を伝える。
身長は高いわりに線が細くすぐに倒れそうな彼を太智はニヤニヤしながら”今どこしてんの?俺もそっち手伝うわ”と柔太郎の側に駆け寄る。
”お前筋トレ続けてる?”など茶化しながらあっという間に忙しい時間は過ぎていった。
『そういえば太ちゃんの実習先ってどこ?』
気になっていたが、最近バイトで被ることがなかったため聞けなかった疑問を聞く。
「えー、みるみる学園ってとこ。私立だからめーちゃ広くて綺麗」
『え・・・?』
「え・・・どうしたん?」
『俺、そこ通ってる。あんまり行けてないんだけど・・・』
「えぇ!柔ちゃん大学生とばかり思ってた!」
『いや、大学生の年で間違ってないんだけど、スポーツで怪我してしまってすっごい落ち込んで。
それから学校行けなくなっちゃって。日数足りないから卒業も危ないし・・・家族と話し合って留年したってかんじ。』
今まで知らなかった情報を聞き、太智は心配そうに柔太郎の方を見る。
「もう怪我大丈夫なん?」
『うん。もう大丈夫なんだけど、部活はもう続けられないって言われてやってない。
今は前向きにリハビリの道も面白そうだなーと思って、必死に勉強やり直してる。』
”推薦で進学しようと思ってたから勉強してなくてさー。焦ってるよ~”
と笑う柔太郎の姿に太智のおっせかいが顔を出す。
そして意を決したように伝える。
「柔、学校来いよ。俺一応5教科教えれると思うから。家で勉強するよりいいだろ?
あと、バイト禁止だろ?やってることも秘密にするから。」
太智の真面目な口調に柔太郎は”あぁ、この人には敵わない”と痛感する。
以前よりいつもはおちゃらけているのに、困っているとすぐに駆け寄ってきてくれる太智が大好きだった。
頼りがいのある兄のような、でも年下である自分が守りたくなるような儚い雰囲気も持ち合わせる彼が。
そんな太智に言われては学校に行かざるを得ない。
『わかった。ちゃんと教えてよ、太ちゃん」
「あっ、学校では塩﨑先生だよ?」
ケラケラと笑う彼を隣で見れて幸せだと思う。
今まで憂鬱だった学校がこんなにも待ち遠しいことがあっただろうか。
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