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#ワンナイトラブ
#御曹司
月曜日。
熱もすっかり下がった希海は、昴に手を引かれて保育園へとやって来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
門の前で軽く挨拶を交わす。
「希海くん、元気になってよかったですね」
「ええ、おかげさまで。まだ少し本調子ではないですが、熱も無いので無理をしなければ問題無いかと」
当たり障りのない会話をしながらも、羽衣子はほっと胸を撫で下ろす。
「せんせ!」
希海はすぐに羽衣子へ駆け寄り、そのままぎゅっと抱きついた。
「希海くん、もう痛かったり苦しいとかない?」
「うん!」
満面の笑みで頷くその様子に羽衣子も自然と笑みを浮かべた。
この日はまだ本調子ではない希海を気遣いながら、他の園児たちの様子を見つつ仕事をこなす。
そんな中で昼間、園庭で園児たちと遊んでいた時のことだった。
ふと、背後に誰から見られているような気配を感じた羽衣子は顔を上げて周囲を見回した。
けれど、そこにはいつも通りの光景が広がっているだけ。
「……気のせい、かな」
そう呟いて再び子どもたちの相手に戻る。
けれど、その違和感はその日だけでは終わらなかった。
次の日も、その次の日も同じように、ふとした瞬間に視線を感じる。
振り返っても、誰もいない。
気のせいだと思おうとしても、何度も繰り返されるそれに不安は少しずつ積み重なっていった。
「……羽衣子先生もですか?」
休憩中、他の保育士たちに相談すると、小声でそう返ってくる。
「え……」
「私もなんです」
「私も」
その言葉に羽衣子は思わず息を呑む。
視線を感じていたのは自分だけではなかったらしく、気のせいでも無かったことが証明された。
「変質者とかだったら怖いですよね……」
「みんなで気をつけましょう」
こうして不審者かもしれない視線に気を付けようと、園内で注意喚起がなされ、更には保護者たちにも情報共有されることとなった。
そんな中迎えた土曜日。
土曜日は平日に比べると預けられる園児が少ないこともあり、土曜出勤の保育士は少なめで交代制。
今週は羽衣子と今年入った新米保育士二人と五十代主婦のベテラン保育士の四人が担当だった。
朝、登園して来た園児を迎えていると、その中に見慣れた小さな姿があった。
「せんせ!」
元気な声と共に駆け寄ってくる希海。
「おはよう希海くん。今日も一緒に遊ぼうね」
「うん!」
その言葉に嬉しそうに笑うと、迷いなく羽衣子に抱きつく。
そんな無邪気な希海に羽衣子は思わず頬を緩めた。
「おはようございます、吾妻先生」
「おはようございます、京極さん」
「今日は吾妻先生が担当の日なので希海が朝から園に行くのを張り切っていましたよ」
「そうなんですか?」
「ええ、よほど吾妻先生のことが好きなんだと思います」
「そんな風に言ってもらえて嬉しいです」
「それでは、今日もよろしくお願いします」
「はい、京極さんも、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。では、失礼します」
「パパ、バイバイ!」
希海と共に昴を見送った羽衣子は中へ入っていった。
希海をはじめ、園児たちと過ごすことは苦ではないものの、ここ数日感じている“視線”のことが頭をよぎる。
ましてや今日は平日よりも保育士の数も少ない土曜日とあって、最優先すべきは園児たちの安全確保と保育士同士頷き合い、気の抜けない一日を過ごすこととなった。
園児は大人たちの緊張など知る由もなく、いつも通り無邪気に園庭を走り回っていた。
「せんせ、みてー!」
元気な声と共に、希海が羽衣子の元へ駆け寄ってくる。
「わぁー、すごいね!」
笑顔で応じながらも羽衣子の意識の一部は常に周囲へと向けられていた。
暫くは何事もなく時間が過ぎていき、そろそろ室内へ戻る時間になって保育士たちが園児に声を掛け始めた。
羽衣子も一人の園児を連れて中へ入り、再び園庭へ視線を向けたその時だった。
「……希海くん?」
遊具の奥の柵の付近に立つ希海の姿が目に入る。
外へ身体を向け、じっと何かを見つめている様子に羽衣子は小さく首を傾げた。
(外に犬でもいるのかな……)
この辺りでは、よく散歩中の犬が通るので、それに興味を引かれたのだろうと思いながら羽衣子は希海の元へ歩み寄った。
けれど、近づいて見えた柵の向こう側にいたのは犬ではなく、三、四十代程の見知らぬ男。
その男は羽衣子が近づいてきていることに気づいていないのか、ふいに手を上げると希海に向かってゆっくりと手招きをした。
まるで「おいで」とでも言うように。
希海は首を傾げながらも、ふらりと一歩踏み出して柵の方へと近づこうとしていた。
「希海くん!」
羽衣子の声が鋭く響くと、はっとしたように希海が振り返ったその瞬間、男は慌てたように身を翻してそのまま走り去っていった。
「……っ」
羽衣子はすぐに駆け寄り、希海を強く抱き締める。
「希海くん、今の知っている人?」
出来るだけ落ち着いた声で問いかけると、希海は少し戸惑いながら首を横に振った。
「……しらないよ……」
羽衣子の不安が伝わったのか、希海もまた眉を下げて不安そうな表情を浮かべている。
「そっか、教えてくれてありがとう。中に入ろうね」
すぐに笑顔を作り、安心させるように声を掛けた羽衣子は希海の手を引くと急いで室内へ戻った。
コメント
1件
みぅです🖤 うわ、今回ちょっと怖かった…。希海くんの熱が下がってホッとしたのも束の間、まさか“見知らぬ男”が柵の向こうから手招きしてるとか…ありえない。羽衣子先生が気づいてよかったけど、あの男が何者かすごく気になる…。この不穏な空気、たまらないです。続き、読みたいです…🥀