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次の日の朝。
「おはよう、コーヒー飲む?」
「あ、いや、今日は会議だからもう出るわ」
「そう。あ、今週末は……」
「わかってる、じゃ!」
寝坊気味に起きてきた雅史は、慌てて出勤した。
私と会話をすると、また何か突っ込まれると警戒しているのだろう。
「まぁ、いいか」
それにしても、と考える。
あの仲道京香という子は、何をしたいのだろうか?
この前、遠藤とランチをした時は偶然居合わせただけだろうけど、今度は雅史と関係を持ってその写真を私に送りつけてくるなんて。
その思考回路がわからない。
舞花の披露宴では特に変わった様子はなかったし、今どきの若い子だなくらいしか印象はなかった。
舞花の友達だから、どんな子なのか舞花に訊いてみよう。
朝の家事をしながら、頭の中は雅史と京香のことを考えていた。
もうすぐ10時になる。
今日は木曜日、遠藤にデータを渡しに行く日だ。
遠藤に会って、あのはにかんだような笑顔を見れると思うと、心がほんわかウキウキする。
_____これも、浮気なのかなぁ?
まだ何もないし、これから先も何かある予感はしないけど、気持ちが遠藤に向いているというのは実感している。
成美に言わせれば『推し』らしいけれど、遠藤の存在があることで、雅史の浮気にも取り乱さなくて済んでいると思う。
「あ、時間だ。圭太、おばあちゃんとこ行くよ」
と、ドアを開けた時、外からも同時にドアが開いた。
「え?あ、お母さん、今ちょうど行こうとしてたとこ。来てくれたの?」
「おはよう。来ちゃった」
少し疲れたような顔をした母は、手にボストンバッグを持っていた。
「あ、どこか行くの?それなら圭太は連れていくけど」
「ううん、違うの。ね、二、三日でいいから泊めてくれない?」
「いいわよ、もちろん。圭太も喜ぶし。でもお父さんは?いいの?」
「いいのよ、あの人には私なんかいなくても」
「え?」
突然の母の言葉に、ドキリとする。
「どういうこと?お父さんと何かあったの?」
「今に始まったことじゃないんだけどね。あ、ほら、時間でしょ?帰ってきてから話すわ。雅史さんが帰ってくる前に」
「わかった。バイト先に行って、買い物したらすぐ帰ってくるから、お願いね。お茶とか好きにしてて」
「行ってらっしゃい。さ、圭太ちゃん、ばぁばと遊ぼうね、公園にでも行く?」
_____お母さん、何があったんだろう?もしかして……
この前偶然見かけた、近くのコンビニでの父の様子を思い出す。
_____あれは内緒の誰かとの電話だったとか?
「どうして男ってみんなこんなんなの?!」
独り言が予想より大きくて、慌てて口を押さえて歩いた。
雅史も父も、どうしてそんなに妻以外の女がいいんだろう?
_____私の場合は仕方ないか
だって、雅史とはしたくないのだから。
圭太が生まれてからは、夜は少しでも寝たかったしそういう欲も感じなかった。
胸を揉まれると母乳が吹き出すんだから、ムードも何もないし、隣で寝ている圭太が気になるし。
体が反応しないセックスは、苦痛でしかなかった。
きっとそれは、私が女から母親になってしまったからだろう。
何をおいても圭太を最優先にするから、雅史とのことをおざなりにしてしまう。
それが母親。
どうして雅史は父親にならないのだろうと苛立ちもしたし、雅史の要求に応えられないことを申し訳なく感じたこともあった。
そんなにしたかったら外ですればいい、と本気で考えたけれど。
_____あれ?もしかして?私は雅史のことを圭太の父親としてしか見られなくなった?だから、したくなくなった?
そうだとしても
《ご主人、お借りしてまーす》
バカにしてると思う。
なんのために挑発してきたんだろうか。
雅史が何か言ったのだろうか?
たとえば『好きなのは君だけだよ』とか?
だとしてもそれは浮気の常套句だし、京香がまさか本気にするとは思えない。
「……ふぅっ」
「どうかしましたか?」
思わず漏れたため息に、遠藤が問いかけてきた。
「あ、ごめんなさい、ちょっと考えごとしてて」
「女の人は大変ですからね。女である前に妻で嫁で母で。ご苦労様です」
「いえいえ。そんなふうに言ってもらえるなんて奥様は幸せ……あ、ごめんなさい、つい」
遠藤は望まぬ離婚をしたんだったと思い出した。
「いいんですよ、気にしないでください。これでも上手くいってるんです。これくらいの距離感がいいのかも、です」