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共鳴の果て、君は神話になる

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共鳴の果て、君は神話になる

2 - 第2章『空の向こうに、声がある』

2025年03月22日

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第2章『空の向こうに、声がある』


【あらすじ】


アークに乗り込んだノアは、広大な空中都市の景色と、そこに暮らす多様な人々に驚く。

そこで出会うのは、陽気な発明家チロル、無口な戦士バルト、そして“神の声”を聴く巫女ミナ。

彼女たちは皆、**「世界の共鳴を感じる者たち」**だった。

だが、ノアの共鳴は“他とは違う”と知り、彼女は自分が何者なのかに悩み始める。


その夜、ルウが囁く——


(お前の声は、“神を目覚めさせる”声だ)


ノアの心に、新たな“恐れ”と“覚悟”が芽生える。




【アークの空中回廊】


アーク——人類最後の浮遊都市船。その甲板に足を踏み入れた瞬間、ノアは息を呑んだ。


夜が明け始めた空の下、彼女の目の前にはまるでひとつの都市が広がっていた。

金属のフレームに守られた透明なドーム。その内側には街路、森、池、住宅区、そして噴水広場。人工的な空でさえ、どこか温かく、生きていた。


「……ここ、空の上だよね……?」


言葉に出すと、現実味が増して胸がざわつく。

アークは、ただの船じゃなかった。空に浮かぶ“楽園”だった。


「歓迎するよ、ノア」


横にいたクロードが肩を叩いた。彼は以前よりもずっと穏やかな表情をしていた。


「ここは“再生のための箱舟”。今、君みたいな特別な力を持った者たちが、各地から集められてるんだ」


ノアはルウと目を合わせる。

ルウもまた、警戒しつつも、空気の匂いを確かめるように鼻を鳴らしていた。


(生き物の気配がある……獣も、人も……)


ルウの心の声がノアに伝わってくる。

それは、研究所の無機質な空気とはまったく違う、まるで“大地の匂い”だった。


「このアークは3層構造になっている。今いるのが“居住区”、下に“研究管理区”、そして上に“観測神殿”がある」


クロードが指差す先、高くそびえる建造物が目に入る。天に向かって伸びる塔のようなその場所は、まるで神殿だった。


「ノアの部屋も用意してある。少し休むといい。案内させよう」


そう言って現れたのは、小柄な女の子だった。

肩までの金髪ツインテールに、白衣を無造作に羽織っている。目の下にゴーグルをかけていて、袖から工具がはみ出していた。


「やっほー! 新人ちゃん! あたし、チロル! 一応メカニックやってまーす!」


元気な声に、ノアは思わずたじろいだ。


「……あの……こんにちは……」


「うわ、かわいい反応! うちのバルトと大違いだなー! あ、バルトってのはあとで紹介するね!」


チロルはぐいぐいとノアの腕を引いて歩き出す。ルウがそれに警戒して一歩踏み出すと、彼女はすぐに立ち止まった。


「うおっ、ごめんごめん、怖くないって! オオカミさん、めっちゃカッコイイじゃん!」


ルウはちらりと彼女を見たが、特に敵意は感じなかったようで、再びノアのそばへ戻った。


歩く先、アークの回廊から見える景色はどれも鮮烈だった。空に浮かぶ庭園、光る水晶の道、宙を泳ぐ鳥型のドローン。


ノアは思った。


(ここは、檻の外……なんだ)


けれど、その美しさの裏に、なにか不穏なものがあるようにも感じた。

それはまだ、この時のノアには言葉にならなかったが——


“世界が、揺れている音”が、確かに彼女の胸に響いていた。




【世界の共鳴者たち】


チロルに導かれるまま、ノアはアークの居住区を歩いた。


通路は曲線を描き、透明な天井の向こうには、朝日が差し込んでいた。風が通り抜けるような開放感がありながら、どこか温室にも似ている。


「はいここ〜、交流ラウンジ! 昼になるとみんなここでゴロゴロしてたり、ケンカしてたり、爆発してたり!」


「爆発……?」


「ま、軽いのだけどね!」


ノアは不安になりながらも、その先のラウンジへと足を踏み入れる。


そこには様々な人々がいた。

全身黒ずくめの男、空中に小鳥を浮かべている少女、机の上でカードを並べる少年、巨大な植物と対話している女性。

彼らの放つ“気”が、普通の人間とは違っていた。


(この感じ……どこか、共鳴してる)


チロルが肩をポンと叩く。


「さ、紹介するよ〜。まず、あそこ!」


チロルが指差した先には、大きなソファに座って読書している長身の男性。銀色の髪を後ろで結び、鋭い眼差しが印象的だった。


「彼はバルト。無口だけど、めちゃくちゃ強い。戦士タイプってやつ?」


「……はじめまして」


ノアがおずおずと声をかけると、バルトは本から目を上げ、ほんのわずかにうなずいた。


「お前が“ノア”か」


低くて落ち着いた声だった。


「共鳴の力、どれくらい使える?」


「えっと……まだ、よくわかってないけど……動物の気持ちを感じたり……」


「ふむ。なら、君は“触覚型”だな。言葉でなく、波で感情を読むタイプ」


バルトはさらりと説明する。


「この船には、共鳴を扱える者が何人もいる。ただ、その質と系統はバラバラだ。“見る”者、“聴く”者、“導く”者……」


ノアは思わず問う。


「……“導く”?」


「そう。そういう者の力は、他人の心を動かす。“神の声”に近いとされる」


「神の……」


その響きに、ノアの胸がざわついた。


バルトが目を細める。


「君の名は“ノア”。それだけで、注目の的だよ。名前と力が一致する……それは、運命を意味することもある」


そこへ、ラウンジの奥から別の声が響いた。


「怖がらせちゃだめよ、バルト。まだ来たばかりの子なんだから」


現れたのは、長い黒髪の女性。優雅で、静かな足取り。

首元に吊るされた水晶のペンダントが、微かに光っていた。


「はじめまして。私はミナ。ここでは“巫女”と呼ばれているわ」


ノアは緊張しながらも頭を下げた。


「……こんにちは。ノアです」


ミナはにっこりと微笑み、そっとノアの手を取った。


「あなたの手、少し震えてる。でも、熱を感じる。いい兆候ね。共鳴の感度が高い証拠」


ノアの頬が赤くなる。


「あなたは、まだ気づいていないだけ。きっと、あなたの“声”は——とても遠くまで届くはず」


その瞬間、ノアの胸の奥で、何かが小さく鳴った。


——カン……という、澄んだ鐘の音のようなものが。


ノアはまだ、それが“運命の音”であるとは知らなかった。




【巫女ミナの“神の声”】


夕暮れが近づくころ、ミナはノアを静かな場所へと誘った。


場所はアークの最上層、観測神殿。ドーム状の天井からは、空が一望できる。

祭壇のような円形の広場。その中央に、水面のように光を反射する円盤が埋め込まれていた。


「ここは、“空の耳”と呼ばれている場所よ」


ミナは円盤にそっと手を当てた。


「この円は、空や風の音、そして“神の声”を反響させる構造になっているの」


「神の声……」


ノアはその言葉に、また胸がざわついた。


ミナは優しく語り続ける。


「世界は、かつて神に祈っていたわ。雨が欲しいとき、命を救ってほしいとき。

でも今、神の声を聴く人はほとんどいない。人々は、耳を塞いでしまったから」


ノアはそっと円盤に近づいた。そこから放たれる微かな振動が、心を撫でるようだった。


「でも、ごく一部の者だけが、まだ声を受け取れる。私も、そのひとり。

私は“共鳴”によって、神の存在に触れているの」


「それって……本当に、いるの?」


ミナはしばらく空を見上げ、そして答えた。


「“神”は、きっとひとつの意志じゃない。風のようなもの。怒るときもあれば、優しく寄り添うときもある。

でも確かに、“何かがこの世界を見ている”と、私は感じるの」


ノアはミナの横顔を見つめながら、胸の奥にある震えを言葉にしようとした。


「わたし……時々、名前を呼ばれる気がするの。“ノア”って。誰の声でもないのに、はっきりと、心に響いて……」


ミナはゆっくりと頷いた。


「それは、“呼ばれている”のよ。

この世界が、あなたの存在に気づいている。だから、名を呼ぶの」


「……でも、怖い。応えたら、何かが壊れてしまいそうで……」


ミナはノアの手を握った。


「怖いと思うのは、あなたが“感じている”証。恐れは、感性の証明よ。

でもその恐れを越えたとき、あなたの声は——神に届く」


その言葉のあと、円盤の中心から一筋の光が立ち上った。


まるで誰かが応えたかのように——空が、静かに鳴いた。


ノアは空を見上げる。


(わたしの声が……届いた?)


遠くで、ルウがこちらを見上げていた。


その瞳には、誇りと不安と、そして微かな祈りのような光があった。




【揺らぐ心、選ばれた理由】


その夜、ノアは眠れなかった。


部屋の天井は透明で、星が瞬いている。

浮遊船の高度では、地上とは違う星の瞬き方があった。けれど、それさえも彼女にとっては未知の風景だった。


ベッドの上、ノアは抱えた膝に額を押し当てる。


「……選ばれたって、何? わたしに何ができるの……?」


巫女ミナの言葉が心に残っていた。神の声、呼ばれる名。

まるで世界の運命が、自分にのしかかってくるような重さだった。


その時、部屋の端に黒い影が現れる。


「……ルウ?」


彼は静かに部屋に入り、彼女の横に座った。


(お前の声、今日は響いていた)


「……聞こえた?」


(わずかに、な)


ルウは星を見上げる。


(けど、迷っている)


「うん……だって……あんなにすごい人たちばかりなのに、私だけ、何もできてない気がするの……。

チロルみたいに明るくもないし、バルトみたいに強くもない……ミナみたいな信念も、ない……」


ルウはしばらく黙っていたが、やがて言った。


(お前は、生き残った)


「……え?」


(研究所で、お前は“檻”にいながら、壊れなかった。

声を忘れず、俺とも繋がっていた。それが“強さ”だ)


ノアは目を伏せたまま、唇を噛んだ。


「でも……それじゃ足りないんじゃないかな……。この先、戦うこともあるんでしょ? 誰かを守るには……」


ルウはゆっくりと首を横に振る。


(守ることと、壊すことは違う。お前の声は、壊すためじゃない。

——“呼ぶ”ための声だ)


「呼ぶ……?」


(俺たちを、世界を。繋がりを思い出させる声)


その言葉が、ノアの胸の深くに沈んでいく。


彼女は小さくつぶやいた。


「……それでも、わたしはまだ怖いよ。期待されるのが……応えられなかったらって……」


するとルウは、ひとつだけ笑うような気配を見せて言った。


(なら、俺がいる)


ノアの肩が小さく震える。

彼女は目元を手の甲で拭い、かすかに笑った。


「……ずるいな、それ。そんなふうに言われたら……がんばるしか、ないじゃん……」


外では、浮遊船の軌道が静かに変わり始めていた。


朝が近づく。


ノアは、また一歩——心の檻から出ようとしていた。




【そして、空が呼ぶ】


朝の光が、浮遊船アークのドームを染めていた。

ガラス越しに差し込む陽光は、まるで新しい旅路への祝福のようだった。


ノアは自室の窓際に立ち、静かに空を見上げていた。

その背後には、ルウの気配。彼は変わらず無言で、ノアの肩越しに空を見ている。


「ねえ、ルウ。空って……毎日、同じようで、ちょっとずつ違うんだね」


(風が違えば、匂いも変わる)


「昨日より、ちょっとだけ遠くまで見える気がする。……私の心が、昨日より広くなったのかな」


ルウは答えずに、優しく尻尾を揺らした。


そこへ、チロルが元気よく部屋に飛び込んできた。


「ノアちゃーん! 準備できた? 今日からいよいよ、出発だよー!」


「えっ……今日?」


「うんうん、目的地は《試練の島》! “共鳴者”としての適応テストってやつだね。ま、そこまでガチじゃないよ! たぶん!」


不安げに目を見開くノアを見て、チロルは肩をすくめる。


「バルトもミナも参加するし、あたしも機材係で行くから安心して! 何かあったら、ガッツン!って助けるし!」


その言葉に、ノアは少しだけ笑った。


「ありがとう……うん、がんばる」


そうして一行は、アークの出発ゲートへと向かった。


そこには既にバルトとミナが待っていた。

バルトはいつものように無言で、ミナは優しく微笑んでいる。


「不安なときは、空を見上げるといいわ。空は、私たち全員とつながっている」


ノアはうなずく。


そして浮遊艇《ルーン》に乗り込むと、風を裂くような振動とともに、船が動き出す。


眼下には、雲と光が入り交じる空の海。


ノアは振り返らず、前だけを見ていた。


「ルウ、聞こえる?」


(ああ)


「今ね、胸の奥が……ポカポカしてるの。たぶんこれが、“恐怖”じゃなくて、“希望”ってやつだよね」


ルウは何も言わず、その隣で同じ空を見つめていた。


遠く、試練の島が見えてくる。


草原と岩場、霧に包まれた森。そしてその中央にそびえる、“共鳴の塔”。


その時、ノアの中で何かが、確かに呼ばれた気がした。


——“ノア”。


それは恐ろしいほどに静かで、でも心の奥にまで届く声。


ノアは胸に手を当て、そっとつぶやく。


「わたし、ちゃんと答えられるようになりたい」


ルウの瞳が、そっとノアを見た。


(なら、ここから始めよう)


浮遊艇は、青と白の境界線を越え、島へと降下していく。


空が再び、彼女を呼んでいた。


第2章・完

共鳴の果て、君は神話になる

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