第3章 『試練の島、共鳴の塔』
【あらすじ】
ノアたちは《試練の島》に降り立つ。そこは自然と人工が融合した、かつて神を模した儀式の地。
参加者たちは、それぞれに与えられた「共鳴課題」に挑むことになる。
だが、ノアの課題はただ一つ——「共鳴の塔の声を聴け」。
ほかの誰にも聞こえない“叫び”が、ノアの心を激しく揺さぶる。
そして、島に秘められた真実——**この世界の“崩壊”と“再起動”**に関わる選択が、ノアに迫る。
“選ばれた者”としての意味。
“声”の持つ本当の力。
ノアは、逃げずに向き合うことを決意する。
できたよっ!
こちらが第1話 第3章【セクション1:試練の島への着陸】の本文だよ!
いよいよ“共鳴の塔”という核心へ足を踏み入れる前の、静かな緊張とわくわくが詰まった導入になってる!
【試練の島への着陸】
空を裂くようにして、浮遊艇《ルーン》が霧の層を突き抜けると、視界の先に《試練の島》が現れた。
島は、雲の上に浮かぶ大地のようだった。
一面に広がる緑の草原、岩肌を露出させた山脈、中心にはひときわ目を引く白い塔——それが《共鳴の塔》だった。
「わあ……」
ノアは思わず声を漏らした。
塔は、天を目指して真っ直ぐに伸びていた。人工のものなのに、どこか自然の一部のようでもある。
呼吸するように揺らめくその存在に、ノアの胸が静かに反応する。
(……あれが、呼んでいる……)
浮遊艇が島の端の着陸場に接地すると、チロルが勢いよく飛び降りた。
「よっし、いよいよ冒険開始って感じだねー!」
バルトは無言のまま警戒を怠らず、周囲の様子を窺っている。
ミナは静かに風の匂いを嗅ぎ取るように目を閉じ、手を胸に当てていた。
「この島……眠っている“何か”がいるわね。気を引き締めて」
ノアはルウの背に手を置いた。
「……怖い?」
(……いいや。けど、懐かしい匂いがする)
「懐かしい……?」
(昔、俺たちの声がここにあった。きっと)
その意味を理解する前に、クロードの声が飛ぶ。
「皆、集合!」
島の中央に設営された仮設ブリーフィングルームで、今回の“試練”の概要が語られた。
「各人に与えられる課題は違う。君たちはそれぞれ、自分の共鳴力と向き合い、その本質を問われることになる。
塔の内部はまだ不明点が多く、君たちの反応によって構造も変わる可能性がある」
ミナが補足する。
「この島そのものが、古代の“共鳴技術”によって作られた可能性が高いの。
つまり、ここは“試す”ための場所。心を、力を、声を——」
ノアはその言葉に小さくうなずいた。
そして、彼女の前にだけ、黒い水晶のような端末が現れる。
クロードが説明する。
「ノアの課題は一つ——《共鳴の塔の声を聴く》」
「声……を、聴く……?」
「塔は、古代の“神の器”だった可能性がある。
その中に残された記憶、意志、祈り——それにノアがどこまで触れられるか。試してほしい」
ノアは緊張した面持ちで塔を見つめる。
その奥深くから、またあの声が響いてきた気がした。
——“ノア”
(……また、呼ばれた)
ルウがそっとノアの隣に並ぶ。
(応えなくてもいい。けど、お前が行くなら、俺は共に行く)
ノアは拳を握りしめた。
「ううん……応える。怖いけど、逃げたくない」
風が吹いた。
それは、確かに“歓迎”のようでもあり、“試練”のようでもあった。
ノアの旅は、またひとつ深い扉を開けようとしていた。
【共鳴の塔と課題の予兆】
共鳴の塔は、静寂の中にあった。
島の中心にそびえ立つそれは、真っ白な石でできていた。装飾もなく、無骨なまでにシンプルな構造。
けれど、塔の表面は微かに脈打っていた。まるで生きているかのように。
「ここが、私の試練……」
ノアは一歩ずつ塔へ近づいていく。
他の参加者たちは、それぞれ別の地点へ向かっていた。洞窟、湖、風の谷。
皆、自分に課された“共鳴課題”に挑む準備をしている。
「ノアちゃん、これ、持っていって!」
チロルが彼女に機械仕掛けの小型端末を手渡した。
「塔の中は電波が通じないけど、これなら“共鳴波”で通信できるかも! 不安になったら、声出して!」
「……ありがとう。がんばってみる」
チロルは照れくさそうに笑った。
「うん! ノアちゃんの“声”、あたし、好きだよ!」
ノアは少し驚いて、そして小さく笑った。
「……ありがと」
塔の入り口には、黒い縁取りの扉があった。ノアが手を近づけると、自動で音もなく開いた。
中は、驚くほど静かだった。
音が吸い込まれるような無音の空間。壁には模様もなく、ただ白く滑らかな石が続いている。
ルウが後ろからそっとついてくる。
(……この中、外より“音”が澄んでる)
「音?」
(そう、“心の音”)
ノアは頷いて、さらに奥へと歩を進めた。
塔の中心には、広いホールがあった。
中央には台座、その上には水晶のような球体が浮かんでいた。周囲には何もない。ただ、その一点だけが異質に輝いていた。
(あれ……呼んでる)
ノアが手を伸ばすと、水晶が反応し、ゆっくりと回転を始めた。
その瞬間——
「——なぜ、お前は応えようとする?」
空間全体に声が響いた。男でも女でもない、感情のない“存在の声”。
ノアは息を呑んだ。
「……あなたが、塔の声?」
「問いに答えよ。なぜ、お前は“声”を持つ」
ノアは戸惑いながらも、胸に手を当てた。
「……それしか、持っていないから……」
「恐れずに、語れ」
「わたしは……人と話すのが怖かった。でも、ルウが……わたしの声を聞いてくれた。だから……誰かに、届いてほしいと思ったの」
静寂の中、水晶が青く淡く光る。
「ならば、ここより奥へ進め」
扉が一つ、ゆっくりと開かれた。
ノアは深呼吸し、ルウを振り返る。
「行こう。まだ、何があるかわからないけど……ちゃんと聞きたい。“この塔が抱えている声”を」
ルウは小さくうなずいた。
こうしてノアは、共鳴の塔の“奥”へと足を踏み入れた。
その足音は、塔の内側へと深く深く、響いていった。
【孤独な共鳴】
塔の奥は、予想以上に静かで広かった。
進んでも進んでも、同じような白い石の壁と床が続く。
道は曲がりくねり、ときに上昇し、ときに下降する。まるで、生き物の体内を進んでいるかのようだった。
「……どこまで続いてるんだろ」
ノアは足を止め、振り返った。
ルウが静かにうなずく。
(この空間……外界から切り離されてる。まるで、“夢”の中だ)
「夢……?」
(お前の心の奥に、響く音がする。塔は、それに“合わせてる”)
ノアは胸に手を当てた。
そのとき、不意に空間が歪んだ。
景色が——変わる。
目の前には、あの“檻”があった。
研究所。ノアが閉じ込められていた、無機質な部屋。
「……やめて……ここは、もう……!」
ノアは目を背ける。
だが、幻は消えない。いや——幻ではなかった。
その中に、かつての自分がいた。
小さなベッドの上で、怯えた目をしている少女。
声も出せず、ただ怯え、壁に背を向けていた。
(お前は、ここに置いてきた)
ルウの声が、静かに響いた。
(“恐れ”を)
ノアはゆっくりと歩み寄った。
過去の自分が、こちらを見た。
「こわい……また閉じ込められる……また誰にも、届かなくなる……」
震える声。
それは、いまもノアの中にある“声”だった。
「……ごめんね。見ないようにしてた。
わたし、本当はまだ怖い。応えたら、裏切られそうで……信じても、壊れそうで……」
ノアはひざをつき、過去の自分に手を差し伸べた。
「でも、それでも……もう、閉じ込めたくないの。
一緒に、行こう。わたしと、今のわたしと——声を出すんだ」
少女のノアは、しばらく黙っていた。
やがて——そっと、その手を取った。
光が、広がった。
研究所の幻影が溶けていき、再び塔の通路が戻ってくる。
ノアの手の中には、かすかに暖かい“記憶の残光”があった。
(……よくやったな)
ルウが呟いた。
ノアは小さく笑った。
「……これで、やっと次に進める気がする」
そのとき、塔の奥で——誰かの歌声が響いた。
懐かしくて、悲しくて、あたたかい旋律。
それはきっと、塔が“本当の声”を聴かせようとしている証だった。
【塔の声と呼応する力】
塔の奥は、かつてないほど静かだった。
だがその静寂は、ただの無音ではない。
空気の中に満ちる“意志”のようなものが、ノアの肌にまとわりついていた。
進むたびに、床の模様が光を帯びて変化していく。
それはまるで、彼女の存在に呼応しているかのようだった。
(感じるか?)
ルウの声に、ノアは小さく頷いた。
「……何かが、話しかけてる……言葉じゃなくて……感情の波……」
彼女が指先をかざすと、前方の壁に紋様が浮かび上がった。
それは——かつて世界を統べていた、旧時代の言語だった。
「……読める気がする」
不思議と意味がわかる。
それは“知っている”のではなく、“思い出す”感覚に近かった。
『——ここは記憶の場所。
神の記録と、消えた声の残響が眠る塔。』
ノアは無意識に口の中で反芻する。
「……記憶……神の……」
その瞬間、塔全体が微かに震えた。
壁が割れ、中から光に包まれた空間が現れる。
そこには、いくつもの“声の記録”が浮かんでいた。
笑い声、叫び声、祈り、嘆き。
それぞれが小さな光の粒となって、宙を漂っていた。
「これは……人の声……?」
ノアがそっと手を伸ばすと、ひとつの粒が彼女の指先に触れた。
——「もういいの、これ以上、誰かを失いたくないの」
それは、どこかの誰かの“祈り”だった。
知らない声なのに、涙が溢れそうになるほど切実だった。
(お前の“共鳴”が、記憶と繋がった)
ルウが言う。
(この塔は、“過去に消えた声”を保管していた。
けれど、聞き手を失った声は、ただ彷徨い続けていた)
ノアは周囲を見渡す。
(これが……わたしの試練?)
そのとき、塔の最奥から、再び“存在の声”が響いた。
「——ならば応えよ、ノア。
お前の声は、何を呼ぶ?」
ノアは静かに目を閉じた。
「わたしは、過去を癒したい。
傷ついた声を、忘れられた祈りを、また誰かに届けたい。
わたしは……そのために、ここにいる」
言葉を口にした瞬間、塔が白く輝いた。
光がノアを包む。
それは祝福でも、啓示でもない。——“共鳴”だった。
全ての光の粒が、いまだけは彼女の声に反応していた。
(ノア……お前の声が、“塔”と繋がった)
ルウがそっと言った。
その瞬間、塔の心臓部が静かに開かれる。
次の扉。
ノアに“選択”を問う扉が、いま——開いた。
【選ばれる者の答え】
塔の最奥に広がっていたのは、天空に浮かぶような空間だった。
床は鏡のように光を反射し、上下の感覚を曖昧にさせる。
天井には星のような光点が瞬き、空間全体が脈動していた。
ノアは静かに足を踏み出した。
中央には、浮かぶ石台。その上に、一冊の書が載っていた。
「……これは?」
(“契約の記録”だ。過去にこの塔に来た者たちが残した、誓いの書)
ルウの声に、ノアはページをめくる。
そこには、数えきれない“声”が刻まれていた。
祈り、叫び、誓い、別れ——いずれも、その人の“答え”だった。
そのとき、またあの存在の声が響く。
「——ノア。お前の“声”は、共鳴の記録に届いた。
今ここに、“意志”を問う。
お前は、これから何を選び、何を残す?」
ノアはページを閉じ、胸に手を当てる。
思い返すのは、仲間たちの笑顔。
チロルの元気な声。バルトの静かな強さ。ミナの穏やかな信念。
そして、ルウと交わした約束。
——「呼ぶための声」
ノアは目を開いた。
「私は、“忘れられた声”を残したい。
世界の片隅で消えていく祈りや想いを、誰かに手渡すための橋になりたい」
「それが、お前の“答え”か?」
ノアはうなずく。
「はい。私は、応えるだけじゃなく、“つなぐ”人になりたい」
その瞬間、空間が大きく揺れた。
塔の中心から、金色の光があふれ出す。
それはノアの体を包み、彼女の胸元に紋章のような印を刻んだ。
(……共鳴の証)
ルウが静かに言った。
(お前は、塔に“選ばれた”)
ノアはゆっくりと息を吐き、視線を上げた。
塔の天井が割れ、空が見えた。
アークの浮遊都市、仲間たちのいる空、そして——まだ見ぬ未来。
「……行こう、ルウ。
今度は、わたしの声で、誰かを呼びにいく」
風が吹いた。
その風は、塔から外の世界へと吹き抜けた。
ノアの心と、声と、光とを乗せて——。
試練の島の空に、新たな“共鳴の光”が昇った。
それは、ひとつの“答え”が世界に届いた証だった。
第3章・完
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