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ち び
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旅館の“感想大会”で大いに盛り上がっていた。
料理のこれが良かったとか、お茶室のここがすごかったとか、温泉は結局ふたりで星を眺めた大浴場の露天風呂が最高だっただとか、そんな楽しい話で持ち切りだ。
「じゅう見て! もうちょっとで着くみたいやで!」
ナビの画面を指差しながら、しゅんが楽しそうに声を弾ませる。
「今日これだけ天気がいいし、湖もすごく綺麗に見えるんじゃない?」
「おん! さっきスマホで調べたんやけどな、ちょうど紅葉もめちゃくちゃ綺麗に見える時期らしいで! 最高やんな!!」
「まじで? ほんと最高のタイミングだったね!」
「せやなっ!」
やがて視界が開け、目的地の駐車場が見えてきた。
「あ、あそこちゃう?」
駐車場には十数台の乗用車と、大型バスも停まっている。
車を降りて一歩踏み出した瞬間、木々の隙間からチラリとのぞいた思った以上の絶妙な景色に、僕の胸は一気に高鳴った。
「ねぇ! すごくない!? しゅん、早く行こうよ!!」
「ふふっ。ほんま分かりやすくテンション上がるなぁ」
「いいから、おちょくってないで行こっ!!」
少し恥ずかしくて早歩きになる僕を、しゅんが笑いながら追いかけてくる。
観光の案内板の前に到着すると、僕はそこにあった一枚のパンフレットを手に取った。
「あ!見てこれ!『1時間で満喫コース』だって! 今の俺らにぴったり!」
「ほんまや! ちょうどええな、これで行こうや!」
「まずは、あの大きな橋を渡るんだって! すごい迫力!」
目の前に現れた立派な橋を見上げて僕が声を上げると、彼はパンフレットの文字を覗き込みながら、ニヤリと意地悪に笑った。
「これ、北海道最古の鉄橋やって。じゅうが渡ったら、重みでボキッと崩れるんちゃうん?」
「ちょ! やめてよ!! ほら見て、めっちゃ丈夫そうだし!」
「わからんでー? でもこれ、昔は本物の鉄道が走ってた線路の跡らしいで」
「え、そうなの?」
時折、彼が嬉しそうに挟んでくるそんな豆知識を聞きながら、僕たちは一歩一歩、橋を進んでいく。
少し歩みを進めるごとに、遮るもののなくなった視界の先に、美しい湖がその姿を現し始めた。
「ねぇ、しゅん……! 湖、めっちゃ綺麗な青じゃん!!」
「お、これが噂の『青い湖』ってやつやな?」
「えーー、想像以上に綺麗……!!!」
「水がほんまに透明やもんなぁ。これだけ青空の日に来れて、マジで良かったわ」
「てか見て!! 紅葉もめっちゃきれい!」
黄色や紅に鮮やかに染まった木々が、遮るもののない秋の陽光に照らされ、静かな湖の水面に反射して美しく揺れている。
あまりの美しさに息を呑む。
緑色のレトロな手すりにそっと手を掛けながら、僕はその万華鏡のような光景に完全に目を奪われて立ち尽くしてしまった。
橋を渡りきると、そこには芝生が広がる大きな広場と楽しそうな公園があった。
遠くで子どもたちが元気いっぱいに走り回る姿が見える。
「なぁ! じゅう、こっち!! 少し水際まで下りられるらしいで!」
「わっ、ちょっと、待ってよ~」
彼は僕の手のひらをぎゅっと掴むと、少年のように無邪気に笑って僕を引っ張っていく。
僕はその広い背中の後ろを、繋いだ手を離さないようにしっかりとついて行った。
水辺へと下りていくと、足元には大きめの丸い石がたくさん転がっていて、そのすぐ奥に透き通った水面が優しく揺れていた。
風や水の流れに合わせて、きらきらと光の破片が踊っている。
「ねぇもうちょっと近くまで行ってみよ?」
「ふふっ 靴、濡れへんようにな〜」
靴が濡れてしまわないギリギリのところまで、ふたりで足元を確かめながら進む。
間近で見る水は驚くほどに透明で、水底に沈む小石の模様までがはっきりと見えた。
「綺麗やなぁ……」
彼がぽつりと呟いた。
その声に引かれて彼の方へ目線を移すと、彼は繋いだ僕の手にそっと指を絡めながら、真っ直ぐに前を見つめていた。
彼の見つめる視線の先へ、僕も同じように目を向ける。
「……、……っ」
思わず、言葉を失った。
向こう岸にそびえ立つ雄大な山々にはうっすらと白い雲がかかっていて、その隙間からまるで祝福の光のように幾筋もの太陽の光が水面へと差し込んでいたのだ。
そしてその神々しい風景のすべてが、鏡のように美しい水面に反転して映し出されている。
その美しさは、現実のものとは思えないほど神聖で、圧倒的だった。
――そして、その圧倒的な光のなかに佇み、真っ直ぐに景色を見つめている彼の横顔も、息をのむほどに美しくて。
僕はどうしても今の彼の姿を残しておきたくて、ポケットからスマホを取り出し、そっとカメラのレンズを彼に向け、その一瞬を静かに写真に収めた。
カシャ、と小さなシャッター音が静かな水辺に響く。
しゅんが嬉しそうに振り返るのを少し照れくさく思いながら、僕はその場にそっとしゃがみ込み、指先で優しく冷たい水面に触れてみた。
僕の指は透明な水のなかで、驚くほど透き通って綺麗に見えた。
to be continued……
コメント
3件
さっき前の話で続きが楽しみとコメントしたばかりだったので本当にこんなに早く続きが見られ幸せです🥰早く2人が付き合える事を願います‼️主様のペースでこれからも頑張ってください‼️今回のお話も最高でした‼️