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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第76話 〚間に合った顔〛
――海翔視点
ドアを開けた瞬間、
一番最初に見たのは——
澪の顔だった。
……分かった。
一目で。
(……間に合った)
笑ってないわけじゃない。
泣いているわけでもない。
でも、
ほんの少しだけ
肩が強張っていて、
目が、逃げ場を探すみたいに
揺れていた。
あの表情は、
知っている。
「大丈夫」って言えるけど、
「平気」じゃないときの顔。
「ただいま」
そう言いながら、
俺は自然に
澪と真壁の間に立つ。
距離を詰めるでもなく、
遮るでもなく。
でも、
確実に“間”。
澪の視線が、
一瞬だけ
俺に向いた。
ほんの一瞬。
それだけで、
胸の奥が
ぎゅっと締まった。
(……長かったんだな)
風呂は、
正直どうでもよかった。
廊下で、
何度も
嫌な予感がしていた。
早く戻るべきか。
戻らなくていいのか。
考えて、
考えて。
結果は、
今、目の前にある。
真壁は、
スマホを伏せて
こちらを見た。
何か言いたそうで、
何も言わない。
俺は、
それに構わず
澪に声をかける。
「……疲れてない?」
「うん。大丈夫」
返事は、
ちゃんとしてる。
でも、
その“ちゃんと”が、
逆に分かりやすい。
えまが、
ほっとした顔で
澪の隣に寄る。
その様子を見て、
確信した。
(……やっぱりだ)
何も起きていない。
でも、
“何かが起きそうだった”。
それだけで、
十分すぎる。
俺は、
澪から
視線を外さないまま、
さりげなく言う。
「そろそろ、
布団敷こうか」
提案の形をした、
合図。
えまがすぐに頷く。
「そうだね」
空気が、
少し動いた。
真壁は、
一瞬だけ
不満そうな顔をした。
でも、
何も言えない。
言わせない。
それが、
俺の役目だ。
澪が、
小さく息を吐いた。
誰にも聞こえないくらい。
でも、
俺には分かった。
(……耐えてた)
間に合った。
本当に、
ギリギリで。
俺は、
心の中で
もう一度決める。
——今夜は、
絶対に
一瞬も油断しない。
澪が、
“何も起きなかった夜”を
ちゃんと迎えられるように。
それだけでいい。
それだけで、
いい。