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「緒方先生、突然すみません」
「いいよ、いいよ。今日はもう誰も来ないから。何かあった?」
今日の予約は6時で終了だと返信をくれた緒方先生を、生徒さんの着替え時間も考えて6時半ごろ訪ねた。
「先生に聞きたいことが出来たので、いいですか?」
「いいよ、いいよ。トレーニング日を待たずに急ぎなんだろ?どうした?」
「あ…ごめんなさい…自分のトレーニング日はすっかり頭から抜けてました…」
「猪突猛進」
「ってほどではないんですけど…昨日からのクラブダンスとか…いろいろ頭が忙しくってですね…」
「その忙しい頭でまた何か考えたんだ?」
「…先生は先生になるための資格って取得されてますか?」
「必要ないんだ。必須ではないけど、宣伝効果があると考えて取ったよ。サイサイ、先生になるの?」
「分からないんですけど、その選択肢もありだと思い始めていて…」
「ダンス講師も資格必須じゃないから今すぐにでも出来るよ。サイサイは世界大会出場とかの経歴が実績として宣伝になるんだから」
「それはそうなんでしょうけど、ちょっとイメージしてみたんです。自分が教えてもらっていた時のことを思い出して…」
「うん」
「国内のどの大会にも出るようなレベルになって、プロのような、すごい経歴の先生に教えてもらうようになったんです。10歳くらいでした」
「今のサイサイが教えるのと同じような経歴なんだろうね」
「はい。でもトニー、先生の名前です…トニーが初心者を教えているのを見たことがないんですよね。だから出来る気がしない…」
「そういうことか。ダンスの技術じゃないところだよな。例えば、ボクの持っている資格にはJSPO-ATという、安全性と安心性を確保して、パフォーマンスの回復や向上をサポートできる人材を認定する資格があるよ。スポーツをする際の外傷と障害の予防、コンディショニングやリコンディショニング、安全性と健康管理、ケガをした人を医療資格者へ引き継ぐまでの救急対応…こういう知識を持つことはどのスポーツの講師にも役立つよね?そういう知識がサイサイの出来る気がしない、を覆してくれるかもしれないよ?」
緒方先生はスポーツ選手とよく会われるので、他にもコーチング講習などがあることを教えてくれた。
「心理学的な本を読むことだけでもプラスになるかもしれないよね、子ども相手なら特に。サイサイは、きっと自分がダンスする方が楽だろうけど、楽じゃない道を選ぶのがパワーのある人間だよね」
そう笑ってから
「極端に言えば、サイサイはこれまで自分のダンスをてっぺんに持っていくことだけを見てた人間。だから他の何もかも、まだまだ吸収出来るし吸収するべき。ダンス以外の不足部分が教える自信のなさに繋がるから。さっき言ったけど、ちょっと本を読むだけでも新しい価値のある知識になると思うよ。ボクとこうして喋っているだけでも、サイサイには未知の世界がある。もちろんボクにもね。だからたくさんの人と会って話すだけでも、そこから感じることがプラスになる。時間、大丈夫?」
と時計を見た。
「あ、もう行かなくちゃ」
7時25分…
「大丈夫、5分もかからない。気をつけて」
「ありがとうございました。いろいろ考えながら動いてみます」
「うん。ボクも何か気づいたら言うようにする」
「ありがとうございます。いってきます」
Tシャツとレギンスの上に服を着てるからすぐにフロアに立てるけど、一応ジムからクラブまで走って到着。
植木さんに挨拶しながら服を脱いで、靴を履き替えマイクをつけると
「そのTシャツ、どうした?羅依か?」
植木さんが私に聞いてきた。
コメント
2件
緒方先生の話はとてもわかりやすく、そして気分を上げてくれて、何気にサポートしてくれて、決して恩着せがましくないの。 うんうん!私も気になる!植木さんその血Tシャツなにか羅依に関係してるの?
猪突猛進型の才花ちゃん、又何かひらめき💡ましたね~😆 緒方先生、頼りになるぅ⤴️⤴️⤴️ 『そのTシャツ』?? 羅依の?って分かるって事は⁉️ 意味深😁