コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝食をとり終わったあと、私たちは大聖堂に向かうことにした。
時間的には少し早いけど、大聖堂に着くころにはちょうど良い時間になるだろうし、もしかしたら今日中に工房の引き渡しをしてくれるかもしれないし。
大聖堂に着くと残念ながら大司祭様やレオノーラさんは不在だったが、代理の人が応対してくれた。
昨日伝えたばかりなのに来るのが早いですね、とは言われてしまったものの……午後なら引き渡しが可能ということで、話を進めてもらえた。
そんな感じで、私たちは昼食後に改めて大聖堂に向かうことになった。
「午後、ついにアイナさんの工房が!」
大聖堂から出ると、エミリアさんが興奮した口調で言った。
「朝早くに来た甲斐がありましたね。
これでまた明日とか明後日とか言われたら、しばらくそわそわしちゃいますし……」
「それにしてもアイナ様、ついにご自身の工房を持つだなんて……私はとても嬉しいです!」
「工房っていっても、錬金術はあんまりやらなそうだけどね……。宿屋でもできるくらいだから……」
宿屋でできないもの……例えば強い臭いが出るものとか、危険なものとかは挑戦できるようになるけど、それ以外は特に変わらなそうかな?
それにそういったものを作るのであれば、少し街から離れれば普通に作れるわけで――
……そう考えると、錬金術師ギルドで断った3つの依頼も、実は引き受けることができたなぁ……。
宿屋でばかり錬金術をやっていたから、その発想は今まで全然、浮かんでこなかった……。
「でもレオノーラ様から聞いた話によれば、お店のスペースと、居住スペースもあるそうなんですよ。
大きさはそんなでも無いらしいですけど」
「え、住めるんですか?
でも家事を始めると、他の時間が無くなっちゃいますから――」
家事は一人暮らしでやっていたのと、あとは実家を出る前に少し手伝いでやっていたくらいだ。
「――うーん、さすがに三人分の家事は難しいかなぁ」
「「え?」」
「……え? ど、どうしましたか?」
「えーっと、ルークさんは置いておいて、わたしも一緒に暮らすんですか?」
エミリアさんが、不思議そうな顔で聞いてくる。
「だって、王都にはまだ滞在する予定ですし……。
エミリアさんは、引き続き私のパーティにいるわけですよね?」
「確かに、そう言われてしまえばそうなんですけど……」
「……ところでエミリアさん。
何で私は置いておかれているのでしょうか……」
「ルークさんがアイナさんの側にいなくてどうするんですか。
アイナさんが引っ越すなら、ルークさんもそこに引っ越すものでしょう?」
「確かに、そう言われてしまえばそうなんですが……」
「……というわけで、引っ越すなら三人でいきましょうね。
狭かったら、引き続き宿屋で過ごしましょう。食事も楽ですし」
「ちなみに、家事は全部アイナさんがやるつもりでしたか?」
「え? そうなったら、そうなんじゃないですか?
まぁ掃除とかは手伝ってもらうかもしれませんけど」
「……アイナさんって、結構面倒見が良いタイプだったんですね」
「ええ。どう思っていたんですか」
「案外、均等に割り振るタイプかと思っていました」
「いや、そりゃ兄弟姉妹ならそうかもしれませんけど……お二人にはお世話になっていますし」
「アイナさんが言いますか」
「アイナ様が言いますか」
「ぐぬ、そこをハモりますか。……でも、まぁ実際はお互い様かもしれませんね。
ああ、それでですね。さすがに家事を一人でやるのは大変そうなので、どうしようかなと」
「均等にやればいいのでは……?」
「何かが違うんですよ、私の中で!」
「であるなら……というかこっちが普通だと思うのですが、使用人を雇ってはいかがですか?」
「しようにん?
……メイドさん、みたいな感じの?」
「そうです、そうです。アイナさんはS-ランクの錬金術師、しかも王様から工房をもらえるほどの実力者なんです。
そんな人が自分で家事だなんて、使用人界隈が黙っていませんよ!」
「ええ、何でですか……」
「雇用をください、ということです」
「おおう、現実的」
何とも納得感のある答えだ。
そう言われてしまえば、もうそのようにしか考えることができない。
「貴族や富豪が自分のことを全部やっていると、貧しい方まで仕事がまわっていきません。
アイナ様のクラスになれば、それこそ10人や20人――」
「いやいや、さすがにそんな人数は入らないでしょ。
工房にくっついている程度の居住スペースなんだし」
「……残念です」
ルークは言葉通り、残念そうな顔を見せた。
使用人の人数はステータスかもしれないけど、個人的にそういうのはなぁ……。
「であれば、居住スペースは居住スペースとして、新しく豪邸を買っちゃいましょう!」
「エミリアさん、発想が大味ですね……」
「大味は大味で好きですよ!」
「あ、今は実際の味の話ではありませんので」
「はっ、失礼しました……」
「でも戸建てでしょうから、何かしらで雇うのは良いかもしれませんね。
工房とお店のスペースを含めて、掃除をしてもらう……とか」
「そうですね。とりあえず居住スペースの大きさも分からないので、これは午後のお楽しみにとっておきましょう」
「……そうしますと、午後の約束までは時間がありますね。昼食をとるにもまだ早いですし――
アイナ様、何かご予定はありますか?」
予定は特に無かったけど、依頼もキリの良いところまでやったし、出来たところまで納品するのも良いかな?
「特には無いけど、錬金術師ギルドには今日のどこかで行きたいかも」
「ふむ……。午後はどうなるか分かりませんし、今のうちに行ってしまいますか?」
「それだと助かるかな。エミリアさんも良いですか?」
「ププピップ!」
「言うと思いました!」
満場の一致をもって、私たちは錬金術師ギルドに向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさああああん! いらっしゃいませえええええ!」
錬金術師ギルドに入ると、いつも通りテレーゼさんの声が響き渡った。
周囲の目はやはりこちらに集中するが、何だかもう諦めたというか、慣れてきたというか。
「こんにちは、今日もお元気ですね」
「はい! 元気と迅速な仕事が売りなので!」
2つ目は初耳だけど、1つ目は間違いない。
「ダグラスさんをお願いしても良いですか?」
「……くぅ!
最近アイナさんから、主任に取り次ぐ仕事しかもらえていない気がします……!」
「そんなことないですよ、この前は白兎堂を教えて頂きましたし――
あっ!」
「えっ?」
「……テレーゼさん?
まさかあんなにも可愛らしい服のお店だなんて、聞いていませんでしたけど……!?」
テレーゼさんの教えてくれた服屋に行ったところ、普通の服屋をイメージしていたのに、ロリータファッションの服屋だったのだ。
バーバラさんの厚意で普通の服を作ってもらえることにはなったものの、そうでなければ無駄足というか、ふりふりの服を作る羽目になっただろう。
「大丈夫です、アイナさんには似合うと思いますよ!
ほら、さすがに仕事場には着てきませんが私も――」
「……ダグラスさんをお願いします」
「――はひっ!?
……しょ、少々お待ちくださいっ!!」
いつもより低めのトーンの声で改めてお願いすると、テレーゼさんは速やかにダグラスさんを呼びに行ってくれた。
なるほど、あのスピードは迅速な仕事といっても過言では無さそうだ。
「アイナさん、可愛らしい服……って、何ですか?」
「え? ああ、フリルがふりふりしてる感じの服なんですけど……」
「作ったんですか? わー、見てみたいですー」
「いやいや。さすがに自分では似合わないと思ったんで、作ってませんよ。
それにまだ、普通の服を2着頼んできただけです。あとはぬいぐるみと」
「ぬいぐるみですか? やっぱりベッドの横とかには置きたいですよね、分かります!」
……すまない、エミリアさん。
そのぬいぐるみは2メートルもあるからベッドの横には置けないんだ……。
いや、ベッドの横の床になら置けはするか。ちょっと意味が違ってきそうだけど……。
「ふりふりの服はお見せできませんけど、ぬいぐるみはできあがったらお見せしますね」
「はい、楽しみにしています!」
そんな話をしていると、テレーゼさんがダグラスさんの背中を押すようにして、急いでこちらに連れてきた。
うん、迅速な仕事だ。さすが、売りにするだけはあるなぁ。