テラーノベル
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トモエはヒミコの指示に心底震え上がった。自分がまだ処女だという事は言いにくかったし、それ以前に闇バイトに関わり合うなど、ついこの前まで想像もしていなかった。だが、ヒミコはあっけらかんとした口調で言った。
「あんたは一応話を聞いて、すぐに『やっぱりやめておきます』とか言うて逃げればよろしい。潜入するんはイオンだけや」
トモエはほっとしつつも湧いて来た疑問をヒミコにぶつけてみた。
「じゃあ、どうして二人で? それにどうしてイオンさんなんですか?」
ヒミコは感情のこもらない口調で答えた。
「ウチとマユキとトワノは、あのアサミという女に顔を見られとる。トモエはうちらの後ろにおったさかい、顔は見られてへんやろ。ま、あの女がウチらの顔を覚えとるとは思えんけど、念のためにな。そうなると残るのはウルハ、ナミネ、イオンしかおらん」
ウルハがニヤニヤ笑いながらトモエに言った。
「オレは男装の力仕事担当だぜ。美人局に志願するのは不向きだ」
ナミネは決まり悪そうな顔で言った。
「あたしは見ての通りロリキャラだからね。相手の男がロリコンとは限らないし」
イオンが得意そうに笑いながら言った。
「その点、ボクはこの中で一番グラマーだからね。一応自信あるよ」
ヒミコがトモエに向かってまた言った。
「イオンを選んだのはそういう理由や。そしてイオンとの連絡係が必要になる。前にも言うたように、裏の仕事の連絡では電話もメールも使えん。直に会ってやり取りする必要がある。一緒に連絡して来てビビッて抜けた、イオンの友達という設定にしとけば、イオンとあんたが会ってんの見ても、向こうは警戒せんやろ。これがトモエも応募せえ言う理由や」
トモエは今度こそ心底ほっとして言った。
「そういう事ですか。でもイオンさんと会うだけなら、そこまで警戒する必要があるんですか?」
ヒミコは相変わらず能面のような無表情な顔で答えた。
「美人局仕掛けて企業秘密を分捕ろうなんて事する連中なら、ただのチンピラやない。闇バイトの話に乗った直後からイオンには尾行と監視が付く可能性が高い。トモエ、あんたもそのつもりで動くんや」
トワノが身を乗り出して、トモエとイオンにスマホを差し出し、トモエに顔を向けて言った。
「相手とのやり取りはこれを使って。ペーパーカンパ二ー名義の使い捨てのスマホ。テレグラムのアプリもインストールしてあるよ」
その場でさっそく、トモエとイオンはSNS上の闇バイトのカウントにダイレクトメッセージを送った。興味があるから友人と一緒に話を聞きたいと書き込んだ。
その場の全員でスマホの画面を見ていると、五分としないうちに返信が来た。予想通り、テレグラムにログインして指定されたアカウントに連絡を取るように指示された。
トモエとイオンがそのアカウントに連絡を入れると、また五分ほどで返事が来た。そのメッセージにはこう書かれていた。
「バイトの面接をしますので、都合のいい日時を知らせてください」
イオンが二人一緒に行っていいかどうかと質問を書き込むと、すぐに「その方がこちらも都合がいい」と返事が来た。
トワノがトモエの横に来て耳打ちし、トモエは言われた通りに返信を書き込んだ。日時は翌日午後三時。すると地図が添付ファイルで送られて来た。それを開くと、東京都港区の海沿いの倉庫街の場所が指定されていた。
イオンが承知した旨を書き込み、二人はアプリを閉じた。ただそれだけのやり取りだったが、トモエは汗びっしょりになっていた。
一部始終を見ていたヒミコが険しい目つきになって言った。
「妙やな。闇バイトの勧誘にしてはおかしい」
トモエがぴくッと体を震わせてヒミコに訊いた。
「あたし、何か失敗しました?」
ヒミコは首を横に振って答えた。
「そうやない。闇バイトでは、実行役、今回はあんたとイオンやな、その実行役と指示役は犯行当日まで顔は合わせんはずや。当日初めて、下から二番目ぐらいの指示役と会って何をするかを告げられる。そんで犯行後は使い捨て。それが普通や。事前に面接をする闇バイトなんて聞いた事ないわ」
トモエはイオンの顔を心配そうに見ながらまた訊いた。
「イオンさん、大丈夫なんでしょうか?」
ヒミコは落ち着いた口調で言った。
「これも前に言うたやろ。イオンはブラジリアン柔術の達人やと。並みの男の五人や十人、簡単にのしてしまうわ。その点は心配ない。おそらく、美人局の釣り餌にできる女かどうか、事前に確認するいう事やろ。これはアタリかもしれんで。トモエ、あんたは特に用心しなはれ」
コメント
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おお、第32話!こんなにロジカルな潜入準備、めっちゃ好みだわ🔥 トモエがビビってるのをヒミコがドライに解説するところとか、全員のスキルと役割をちゃんと噛み合わせてるところがガチで刺さる。特に最後の「面接っておかしい」ってヒミコが違和感覚えるシーン、一気に不穏になってゾクゾクした。イオンの柔術実力がいつ炸裂するか、次が待ちきれない。