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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私達は本拠地教会の会議室で交易のために、桟橋一つと周囲の土地を得るため商人ギルド『蒼き怪鳥』対策を練っていました。
「お嬢。一番厄介な点は、相手が『蒼き怪鳥』だってことだな」
ベルが意見してくれます。
「なにか問題が?ベル」
「マフィアとつるんで悪どいことをやってる。俺達裏の人間なら誰でも知ってることだが、表向きは健全な商人ギルドだ。帝都でも評判が良いらしい。それをいきなり叩き潰しでもしたら、俺らの評判もがた落ちだ。下手すりゃ政府が動くぞ?」
「むっ」
「表での評価も大切なことです。まして、手広く商売をやるつもりなら尚更ですよ、シャーリィ」
ベルとシスターの仰有る通りですね。『暁』が有名になるのは良いのですが、それが悪名ばかりだと評判も悪くなりますし下手をすれば『ターラン商会』との繋がりも消えてしまいます。政府に目をつけられるのも困りますね。
「『蒼き怪鳥』の不正悪行の証拠を掴み、言い逃れが出来ない状態を生み出す必要があります。これまでとは違いますよ、シャーリィ」
「俺もその辺りは専門外だからな、あんまり手伝えない」
ううむ、これまでの相手は評判最悪の外道共でしたが、『蒼き怪鳥』は表向きの評判は良いと。
確かにそれを武力で叩き潰すのは愚策ですし、実行すれば『暁』の評判は地に落ちます。
「それでは、内部調査が必要になりますね。ラメルさんを頼るしか……」
しかし既にラメルさんには背後のマフィア調査を依頼しています。運が良ければ不正などの証拠も手に入るかもしれませんが、それを期待して待つのは時間の無駄なような気がします。
「シャーリィちゃん、良いかい?」
「はい?」
おっ、エレノアさんだ。
「私はバカだから、難しい話は分かんないけどねぇ。そいつらが表に出せないようなことしてる証拠が要るんだろう?」
「はい、そうです」
「なら、簡単だ。なあ、シャーリィちゃん。最後に一仕事させておくれよ」
「最後とは?」
むしろ今から頑張って頂きたいのですが。
「エレノア、まさか『蒼き怪鳥』の船を襲うと?」
シスターが気付いたみたいです。え?
「その通りさ。船には品物はもちろん顧客リストなんかも絶対に積み込まれてるんだ」
なるほど。
「それを確保しちまえば、動かぬ証拠って奴になるんじゃないかい?」
「やれるのか?エレノア。うちがやったと知られたら最悪だぞ」
「バカ正直に『暁』の旗を掲げるつもりはないよ。もちろん『海の大蛇』の旗もね。先日うちらに喧嘩吹っ掛けてきた海賊が居てね。返り討ちにしてやったんだが、それを知ってるのは私だけさ」
「無名な海賊なら壊滅しても知られることはありませんからね」
シスターが補足してくれます。
「つまり、エレノアさんはもう此の世に存在しない海賊の旗を掲げて、『蒼き怪鳥』の商船を襲うつもりなんですね?」
「そうだよ、シャーリィちゃん。ついでに、前言ったろ?大きな船が欲しいって」
「はい、聞いています」
「『蒼き怪鳥』の船は、軍の払い下げだ。ちょっと古い型だけど、フリゲートなんだよねぇ」
ほほう?
「エレノアさん、それが上手くいったら、『蒼き怪鳥』を潰せて出費なしで船が手に入ると?」
「その通りさ」
おおっ、元海賊を傘下に加えたことで選択肢が増えました!
「まっ、全部が上手くいくとは思わないけどね。下手に調べるより手っ取り早いだろ?」
「だがよ、エレノア。大丈夫なのか?『蒼き怪鳥』だってバカじゃねぇ。商船にだって備えはあるだろ?」
「それをビビってちゃ海賊なんてやってられないよ、ベルモンド。それに、この辺りをここ一年で一番荒らし回ってたのは私ら『海の大蛇』だよ。それが壊滅したってのは、シャーリィちゃんが直接港に乗り付けて証明してる」
「…まさかそこまで考えてたのか?お嬢」
「買い被りすぎです。単なる偶然ですよ」
本当にね。
「ですが、その偶然が選択肢を増やしました。誇るべきですよ、シャーリィ」
「ありがとうございます、シスター」
シスターに誉められました!
「それで、許可してくれるかい?」
「もちろんです」
ここ数日エレノアさんは港の酒場なんかに顔を出して、充分な数の船員を雇ったのだとか。つまり、いつでもいけると。
「ありがとよ。んじゃ、私はしばらく離れる。上手いこと奴らの商船を襲えるように待ち伏せしなきゃいけないからね」
「分かりました。私も同行したいのですが」
「止めときな、慣れない内に船に長く乗るのはお勧めしない。任せときな」
「むぅ」
「お嬢様、問題がございます。エレノア殿の策が上手く行ったとして、その証拠を何処から見付けたか追求される可能性がございます」
セレスティンが懸念を伝えてくれます。
「その辺りはお任せください。エレノアさん達に危ない橋を渡らせた分はしっかりと報いますよ」
あくまでも穏便に、要は『蒼き怪鳥』に海運事業から手を引かせれば良いのです。やり様はいくらでもあります。証拠さえ手に入れば、後は私が頑張る番ですからね。今回はあくまでも穏便に済ませたいのです。後々のためにもね。
会議が終わり、皆が解散した後のことです。
「お嬢様」
セレスティンが声をかけてきました。
「何でしょう?セレスティン」
「先ほどの方針決定から、お嬢様は『蒼き怪鳥』と接触されるおつもりだと愚見致します。そこで、我が愚策をご提案させていただきたく」
「もちろん、提案は大歓迎です」
「では……アーキハクトの名を使われては如何かと愚考致します。此度に限らず、以後もずっとです」
「アーキハクトの名を?」
暗黒街に来て五年、私はリスクを避けるために姓を名乗らないようにしていました。この街では珍しい事でもありませんし。それを名乗れと?
「『暁』の名を使っても門前払いとなる可能性がございます。しかしながらアーキハクトの名となれば別です」
「ですが、五年前に伯爵家は…」
「この二年調査した結果、アーキハクト伯爵家は断絶されておりません。ルドルフ様が当主代行として盛り立てておられるのです」
「叔父様が?」
ルドルフ叔父様は、お父様の弟様です。アーキハクト伯爵家に婿入りしたお父様に代わり辺境の子爵家の領地を治めていらっしゃいました。
「では、まさか叔父様が?」
「それも可能な限り調査致しましたが、あり得ますまい。何よりルドルフ様のお人柄はお嬢様も御存知の筈。無論確実とは言えませぬが」
「はい」
ルドルフ叔父様は質実剛健なお方で、陰謀策略の類いを殊更毛嫌いされていました。何よりお父様とご兄弟の仲も良く、私やレイミも可愛がって頂いていましたから。
とは言え、リスクもありますから接触はしませんが。
「故にアーキハクト伯爵家は健在。そのご令嬢ともなれば『蒼き怪鳥』代表とも容易く会えるかと」
「確かに、まだ無名な『暁』の名を出すよりも…ですが、リスクも高いのでは?『暁』の名が広がれば私のことも…」
あの夜に関わった者からすれば、私の生存なんて目障り以外何物でもありませんからね。
「左様。ルドルフ様の件もございます。しかしながら、同時に下手人共の行動を誘発することも出来ましょう」
「何らかのアクションを待ち構えると?」
「左様でございます。リスクはございますが、何の手がかりもない現状の打開策となり得るのではと」
リスクも高いですが、情報が得られる可能性もある…うーん。
「悩みます」
「それも致し方ないかと。されど、今一つお嬢様にとって最大の利点がございます」
「何ですか?」
「お嬢様の名が知れ渡れば……レイミお嬢様からの接触もあり得るかと」
ー!!!!!!
「決めました!これから私はアーキハクトの姓を名乗ることにします!!異論は認めませんっ!」
レイミ!そうです!我が愛しの、世界一いや宇宙一可愛い妹!反論は極刑です!
あの夜別れてしまいましたが、確かにあの娘は脱出した筈!もちろんこれまでも調査は進めていますが、彼方から接触してくる可能性もありましたね!
「流石はお嬢様、即断ですな」
「レイミのためならば、です。ただリスクが高いのも事実なので、備えをする必要があります。今まで以上に。もう大切なものを失いたくないので」
「御意」
レイミのためならばいくらでもリスクを背負いますとも。姉バカ?結構。まあ、もちろんそれ以外の理由もありますが。
多少暴走しつつも、シャーリィは新しい敵へと向き合うのだった。