テラーノベル
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「大きい声で言わないで」
つい冷たい声がでてしまったが、美鈴は気にしなかった。
「きっと、今度のイギリス大使館用だよね? はい、これ」
振り返らない私の背中に、なにか柔らかいものを入れると、パタパタと走って行った。
「美鈴?」
「あげる!」
振り返った時にはもう居なくて、残念なようなほっとしたような。
弱い自分が情けない。
でも、背中に入れられていたのは、桜色のシュシュ。青や緑、黄色などの色鮮やかな星屑のチェーンがぶら下がっている、可愛いシュシュ。
買ってくれたのか、持っていた奴なのか分からないけど、――洋服に合いそうだ。
「ありがとう」
そうちゃんと顔を見てお礼が言いたいけれど、勇気が出なかった。
明日。
また会える。
複雑な感情が頭の中には渦巻いていて、マーブル状にぐるぐると混ざり合い答えなんて出ないような底なし沼が私に迫って来るのに。
彼と会えると思う私の心は、桜の花が飛び舞うように嬉しかった。
賭けの為だけど、――あんな素敵な服が着れて、本当にお姫様になったかのような勘違いをしてしまうから。
だから。
「大使館まで、幹太さんに送っていただく事になりましたから」
母の独断なんて少しも動揺しないんだから。
なんで幹太さんなのか分からないけど。
「あと、着ていく着物も用意しましたから」
そんな、勝手なこと言われても、何を言われても、今は平気。
何もかも決められて、放り出されることにもう諦めを感じていた。
ただ、それにもう尽き従うつもりは毛頭ない。
にっこり笑って、頷いて、でも私はもう感情を持ち始めている。
――あの人が贈ってくれた服を着るのだと。
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篠原愛紀