「あっ、目黒くん!お疲れ様です!新曲聴きました、かっこいいです〜」
穏やかな口調、ふわふわの敵意ゼロの笑顔でうちのメンバーより薄めのピンクの髪の彼は久しぶりに会ったことを感じさせない距離感で話しかけてくれた。
「藤澤さん、ありがとうございます···藤澤さんはフェスとかお忙しそうですね、暑いけど体調大丈夫ですか?」
彼の活躍ぶりは凄くてこんなにふわふわなのにキーボードを弾いている時は男らしくて色気のある大人の男、といった感じでそのギャップを感じてドキドキしてしまう。
「うわぁ、ありがとう。元気だよ、こう見えて体力あるの···それより目黒くんは今年は体調崩してない?この前はタイに行ってたって見たよ」
「わ、ありがとうございます。タイって意外と日本より涼しいんですよ···今年はなんとか元気です」
良かったぁ、と言ってその人はカバンからのど飴を取り出して俺にくれる。
「これ美味しいの、元貴が美味しいってよく欲しがるから僕いつも持ってて」
にこにこと笑う藤澤さんから飴を受け取る。たぶん大森さんは藤澤さんがくれるから、この飴が好きなんじゃないかなんて思いながら口に入れると甘すぎないフルーツの味が広がって確かに美味しい。
「飴食べてる姿もかっこいいね、さすがアイドル···」
じぃ、とその可愛い顔で近づいて見つめてくるから思わず飴を飲み込むところだった。危ない危ない···この人は本当に天然の人たらしだと思う。
「お返しに···良かったらそのタイのお土産皆に渡してて···良かったらどうぞ」
ドライマンゴーだけど、好きかな?個包装になったそれを差し出すと嬉しそうに受け取ってくれた。
「ありがとう、嬉しい!あとで大切にいただくね···タイで何かした?観光とか···」
「タイで撮影だったけどトゥクトゥクに乗ったりおっきな魚釣りましたよ、こんなにおっきいやつ!」
「えぇ?!そんなに?すごいねぇ、食べられるの?トゥクトゥク乗りたいなぁ···」
「食べられないです···けど本当におっきくて写真いっぱい撮ったんですよ、あの、その···良かったら写真送りたいんで···連絡」
連絡先とか交換してもらえませんか?
そう言いかけたところに「あれっ」
と通る声が響く。この声は···。
「あれぇ、元貴?どうしたの?」
「どうしたの?じゃないのよ。涼ちゃんが遅いから探しに来たの。迷子になったのかと思って心配したんだから···っと、目黒さんお久しぶりです。すみません、うちの藤澤がご迷惑おかけしてませんか? 」
礼儀正しく頭を下げてけどさりげなく藤澤さんの隣にぴたりとくっついて腕をつかんでいる。
「お久しぶりです···いえ、お話していただけで···」
「そうだよ!迷惑なんてかけてないんだから···あ、けどお土産貰っちゃった···えへへ」
にこにこと俺が渡したお土産を見せている藤澤さんにもう涼ちゃんたら、と注意しながらもその人はやっぱりぴったりと隣にくっついて···うちのグループも距離感は近いメンバーはいるけど、ここまでではない気がする···。
にこやかな笑顔からは想像出来ないがその行動からはこれ以上近寄らせないといった圧を感じる。
「あ、写真見たいな、おっきい魚さん」
そんな圧をものともせず、本人は興味津々と言った感じで俺に近づいてくる。撮った写真を見せてあげるとわぁ、と喜んで更に俺にくっつくほどの距離まで顔を寄せた。
「おっきいのは2m位あるらしくて、これはまだまだ普通サイズらしいんです···」
「2m···僕よりおっきいね!目黒くんのところのラウールくんくらいかな?彼もおっきいもんねぇ、けど目黒くんも背高くて···かっこいいもんね」
なんだか褒められて嬉しいんですけど。直球でかっこいとたくさん褒めてくれるなんて···ちょっと調子に乗りそうだ。
「涼ちゃん?俺、198センチあるからね」
ぐいっと藤澤さんの腕を引っ張ってどう見ても俺より小さい大森さんを前にとう反応していいか困る。
「もぉ、目黒くん困ってるでしょ。はいはい、元貴もカッコいいからね〜」
いつものこと、と言った感じでスルーされて大森さんは難しい顔をしている、と、そこに遅れてギタリストがやってきた。
「2人ともおーそーい!なんで涼ちゃん探しに行って元貴まで帰ってこないの!···あ、目黒さん!すみません、失礼しました」
そしてこちらも綺麗に頭を下げてくれるとぴったりと藤澤さんの空いている方へ立ってくっついている。
もしかしてテレビでは大森さんが真ん中だけど、普段は藤澤さんがセンターなのか···?
「だって涼ちゃんがご迷惑かけてたんだもの、謝らなくちゃ」
「もぅ!迷惑かけてませんっ!目黒さん、写真もお土産もありがとうございました。まだ残暑厳しいので、体調には気をつけてね」
「···藤澤さんこそ。またゆっくりお話したいです」
この2人に睨まれている状況で連絡先を聞く勇気はなくて、最後の足掻きでそう伝える。
「ありがとう、僕も!また話しようね」
「ありがとうございます、その時はぜひ私たちもご一緒させてくださいね」
にこにこ可愛い天使の笑顔とその両隣には俺たちを忘れんじゃないぞとにこやかに笑う2人がいる。
もしかしてこうやって藤澤さんをいつも守って連絡先交換するのをブロックしているだろうか、なんてことが頭をよぎる···。
「はい···、じゃあまた。お話できて良かった」
「またね、目黒くん!」
ばいばーい、と手を振る彼を大森さんがほらいくよ、と手を引いて若井さんが涼ちゃん早くしないと、と背中にそっと手を添えて帰っていく。
これは気軽に話をするのもなかなか難しそう、どうやったらもっと仲良くなれるのかと考えていると後ろからうちのピンクの彼にポンポンと背中叩かれた。
「おっちー!蓮、あの人は手強そうだぞ〜?たぶんナイトの2人にお前めちゃくちゃ敵視されてるから!」
「···見てたの?」
「にゃは、佐久間さんにはぜーんぶお見通しよ!素直にあきらめな〜」
けらけらと笑う佐久間くんを睨んでみるけどその通りかもしれない。
「はぁ···残念だけど佐久間くんの言う通りかも」
「そう落ち込むなよ!俺が慰めてやるからさぁ、俺だってあの人とおんなじピンクだし!なぁ、蓮」
「ありがとう、佐久間」
「いや俺、先輩な!!」
下から睨む佐久間くんの頭をポンポンして、遅れるぞって手を引いてくれるままに控え室に戻ることにした。
佐久間くんにはそういったものの、やっぱりそうそうこの気持ちは諦めきれずにある。俺はわりと一途で重たい男だという自覚もあるから。
なんとか阿部ちゃんが次に食事にいくなんてことがあったら俺も交ぜてもらおうか、なんて思いながら彼の笑顔とカッコいいと言われた事を思い出して、とりあえず今日のところはそれを糧にまた頑張ろうと仕事モードに切り替えた。
次はもっとその笑顔がみたい、と思いながら。
コメント
9件
2人の牽制がめちゃくちゃ可愛かったです〜💕 ありがとうございました💕
初コメ失礼します! 涼ちゃんが守られてる?のもいいけど大森さん守られver.も見てみたい🫣友達いないって言ってる割に色んな人と関係あってびっくり🫢
人誑しの💛ちゃんと牽制しまくる2人が好きです〜🤭💕 私、某歌番組のあのシーンを何回もリピしてます❣️笑 もちろん2人の表情に注目して👀笑