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十九
ペナルティ・エリアのライン上で、敵5番がボール・キープする。
「モンドラゴン、フリー!」神白はとっさに叫んだ。左後ろからモンドラゴンが猛然と駆けてきている。
5番、前を見たまま踵で落とした。モンドラゴン、ぐっと右足を踏み込んでキック。誰からのプレッシャーもなく、どフリーでのシュートだった。
刹那、レオンが足を出した。わずかにボールを掠め、コースが変わった。
神白は跳んだ。なんとか右手指先に当てた。直後にゴールポストに当たり、跳ね返りで転がっていく。
試合も残り十分弱となった。ルアレの二点目以降、ヴァルサはやられっぱなしだった。オルフィノの天才に皆、完全に萎縮しており、攻守とも自信なさげなプレーばかりだった。
零れ球はオルフィノが拾った。近くにいたレオンと6番が寄せる。
「二人がかりか。ならこうだね!」オルフィノは両足の間にボールを置いた。すぐにぐっと膝を曲げ、両足で踏み切った。
オルフィノはボールとともにジャンプした。レオンと6番の間を通過。即座に左足でボールに触り、ドリブルへと移行する。
「くっ!」レオンは強引に振り返り、オルフィノを追った。
(来る!)神白が警戒を強めた。するとレオンはスライディングした。だが。
オルフィノが転けた。レオンの足が脛に掛かっていた。ピピー! ホイッスルが鳴り、主審がレオンに近づいてきた。
主審はごそごそと胸を漁った。(やめろ!)神白は念じるが、無情にもカードは出された。色は、赤。
その瞬間、レオンの表情が凍り付いた。数秒ののちに沈んだ表情になり、レオンは腕のキャプテン・マークを外した。ゆっくりした足取りで、神白へと歩み寄っていく。
「イツキ、頼んだ」静謐な、だが信頼の籠もった声を神白に掛け、レオンはキャプテン・マークを渡してきた。
神白は小さく深呼吸して「任せろ」と、力強く意思表示をした。
するとレオンは寂しげに笑い、コートの外へと歩き去って行った。
一点ビハインドでただでさえ苦しいヴァルサは、残り時間をエース抜きの十人で戦うという苦境に陥ってしまった。
二十
「フリーキックは絶対に止める。で、その後だ。俺、今までより前に上がるよ」
レオンへのカード提示の直後、暁に駆け寄った神白はきっぱりと決意を口にした。
「は?」暁は呆気に取られた面持ちになった。
神白はそれ以上の返事を待たず、ゴールへと戻っていった。到着した神白が振り向くと、モンドラゴンが地面にボールを置いていた。
「李、もう少し寄れ! 外巻きのシュートのほうが怖い!」
視線の先ヴァルサのメンバーが作った人の壁へと、神白は指示を飛ばす。ゴール前では、両チームの選手がポジション争いを始めている。
モンドラゴンが助走を取った。流麗なフォームで右足を振り抜く。
ボールが蹴られた。内回転のシュートが迫る。
(良いコースだ! けど!)読んでいた神白は左上に跳んだ。隅を狙ったコントロール・シュートだが、取れないボールではなかった。
神白は両手でキャッチした。滑らかに着地し、すばやく前方に目を向ける。ヴァルサの攻撃陣は皆、敵に付かれている。
(速攻はきついか。なら!)神白は決断し、数歩前に行った。右サイドに開いた5番に下手投げで転がす。
5番はトラップした。前を見るが、出すところがない様子だった。
神白は右方に走っていった。守備ラインと並行位置まで至ると、5番からパスが来た。
ぴたりと止めた神白は、するすると前にドリブルを始めた。すぐに9番が寄せてくる。
9番を充分に引きつけて、神白は左斜め前の6番に出した。6番は反転してマーカーを躱し、前方へと浮き球を送る。
天馬が受け取った。しかしまたしても、モンドラゴンが立ちはだかる。