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第93話 〚心臓が示す未来〛(澪)
夜。
自分の部屋で、澪はベッドに座っていた。
カーテン越しに聞こえる、夏の虫の声。
スマホは机の上に伏せてある。
静かなのに、
胸の奥だけが、落ち着かなかった。
(……また)
どくん。
心臓が、強く鳴る。
頭は、痛くない。
視界も、歪まない。
でも――
(これ、予知……?)
澪は、胸に手を当てた。
前みたいに、
勝手に映像が流れてくるわけじゃない。
代わりに、
「選択肢」みたいな感覚が浮かぶ。
◆
――もし、明日。
海翔の隣を歩いたら。
仲間たちと笑って帰ったら。
胸の痛みは、
すっと軽くなる。
――もし、明日。
一人で帰ろうとしたら。
誰にも頼らなかったら。
胸が、
締めつけられる。
映像はない。
言葉もない。
ただ、
心臓が答えを知っている。
(……未来が、一本じゃなくなってる)
澪は、はっとする。
これまでの予知は、
「起こる未来」を見せてきた。
でも今は違う。
(どれを選ぶかで、変わる)
それを、
心臓が教えている。
◆
澪は、ゆっくり息を吸った。
(怖い……)
未来を知ることより、
未来を「選ぶ」ことの方が、
ずっと怖い。
間違えたらどうしよう。
誰かを傷つけたらどうしよう。
――でも。
思い出す。
手を差し伸べてくれた海翔。
黙って隣にいたえま達。
遠くから見守る玲央。
動き出した大人たち。
(……一人じゃない)
それだけで、
胸の痛みが、少し和らいだ。
◆
スマホが震える。
海翔からのメッセージ。
《無理してない?
明日、一緒に行こう》
画面を見た瞬間。
どくん。
今度は、
さっきよりも、はっきりした鼓動。
(……これだ)
澪は、指を止めずに返信する。
《うん。
一緒に行きたい》
送信。
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
(未来は……怖いけど)
(選べるなら)
◆
その夜、
澪は初めて思った。
予知は、
“警告”じゃない。
未来を決めるための、道しるべなんだと。
心臓が示す方へ、
人と繋がる選択をする。
それが、
今の澪の答えだった。
――でも。
心臓は、
まだ小さく、警告のように鳴っている。
(……近いうちに)
大きな分かれ道が、
必ず来る。
澪は目を閉じて、
その鼓動を、逃さないように聴いていた。