深夜、一日のスケジュールをこなし、仕事のパートナーである彼を送り届けた私は半ば無理矢理部屋へと連れ込まれ、ベッドに押し倒されてしまう。
「ッあ、やぁっ……!」
彼はすぐに私の上に跨ると、両腕を力強く押さえつけて唇を塞いだと思ったら今度は耳たぶや首筋に舌を這わせてきた。
「……ん、ふ……ぁ、……ッ」
擽ったさと恥ずかしさで声を上げるも、その声は余計彼を煽るだけ。
「今日はお前のせいで危うく現場に遅刻するとこだったんだぞ? これはその罰だ。アンタの言い分なんて聞きたくねぇな」
力を緩めるどころか、耳元でそう囁くように言うと、今度は耳たぶを甘噛みされる。
「ひゃぁっ!?」
痛みよりも驚きで声を上げ、何が何だか分からない状態で戸惑う私をよそに、彼は私の身体から力が抜けているのを良いことに、素早く私のシャツのボタンを外していき、淡いピンクのブラジャーが露になっていた。
「ったく、いい歳した女が相変わらず幼稚な下着付けやがって。もっとこうそそるような、色っぽいの付けろよな」
なんて文句を言いつつもも、彼は下着の上から指で胸をなぞり、
「ゃ、やめ……て、……」
身を捩りながら抵抗する私の反応を楽しんでいるようだった。
私と彼は恋人――ではなく、あくまでと仕事でのパートナー。
私、南田 莉世は超売れっ子芸能人である彼――渋谷 雪蛍の専属マネージャーだ。
彼のマネージャーになったのは、今から数ヶ月前の事。
「私が、渋谷 雪蛍のマネージャーですか?」
朝、会社に着くなり社長直々に呼び出された私は突然の話に驚き、思わずそう聞き返した。
幼い頃から芸能界に憧れを抱いていた私は幼少期に劇団に入っていたもののこれといって秀でた才能もなく、周りの仲間がどんどんデビューを果たす横で自分には向いてないと悟り、中学へ上がる前に芸能界への夢を諦めた。
けれど、高校生になって将来を考えるにあたり、運動部のマネージャーをやっていて人のお世話をするのが好きという事や、自分が芸能人になるのではなくて、裏方として芸能界の担い手の一人になりたいという思いが芽生え、芸能マネージャーを志そうと決意した。
それからマスコミ学やマスメディア学などのメディアに関して学べる学科のある大学へ進学。
そしてその後、縁があってSBTNエンターテインメントという超大手芸能プロダクションに入社する事が出来た私は、優秀な先輩マネージャーに付いて仕事のイロハを学んでいた。
入社して約一年半、ようやく担当を付けてもらえるのかもしれないという期待を胸に膨らませながら社長室へやって来た私だったけれど、思いもよらぬ事態に頭の中は真っ白になっていた。
「南田くん、君の仕事振りはとても素晴らしいという噂は聞いている。だから当初は今度デビューする新人アイドルのマネージャーをと思っていたのだが、近々雪蛍のマネージャーが降りたいと話していてな……優秀な君に、是非雪蛍のマネージャーを頼みたいと思ったんだよ」
渋谷 雪蛍は今目の前にいる社長のお孫さんで、事務所一の稼ぎ頭だ。
「し、仕事振りを褒めていただけた事はとても光栄ですが、私なんかが彼のマネージャーなんて……」
この話、私のような専属マネジメント経験の無い新人には勿体ない話だと思うけれど、それ以上に初めての担当が超売れっ子芸能人だなんて、正直荷が重すぎる。
「不安に思う気持ちも分かる。だが、これも経験だと思って……是非やってみてはくれないかね?」
荷が重すぎるけれど、社長直々にお願いされては断れない。
「その……力不足かもしれませんが、精一杯やらせていただきます」
不安はあったのだけれど、このチャンスを逃したら勿体ないと思った私は、考えた末に社長の申し出を受ける事にした。
それからというもの、慣れない仕事に追われ失敗も沢山したけれど、その度助けてくれたのは他でもない彼、雪蛍くんだ。
マネージャー仲間の間では正直あまりいい評判を聞かなかった彼だけど全くそんな事はなくて、寧ろ私は彼のおかげで仕事に慣れていく事が出来て感謝すらしていた。
でも、今から約ひと月程前を境に、彼は変わってしまった。
というより、優しかった彼の方が偽りの姿で、今こうして私の反応を楽しんでいる彼が――本来の姿だったのかもしれない。
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