「さようなら。愛してるよ、スカビオサ」
アイビーはそう言うと、少し体をふるわせてまた奥へ行く。
そんな君を放っておく馬鹿がどこにいる?むしろ助けてくれと言っているように見える。
アイビーの足取りは波に邪魔されて少し重かったが、僕の足取りは逆に軽かった。
アイビーの髪の毛が風に揺れる、はらりと、肩から一束落ちる。
その瞬間、僕は僕より一回り小さいアイビーの背中に飛びつく。
「君を離すわけがない」
「っ、スカビオサ」
僕の体重がアイビーによりかかって、一緒に海へドボンと堕ちる。
まるでいつか食べた飴玉のような雫が、飛沫となって飛ぶのが分かった。
海の水って、塩が入っているんだっけ、塩っぱいし、目に染みる。
まぁ、アイビーと一緒の空間にいると考えればそんなことどうってことないけれど。
「ぷはっ、スカッ、スカビオサッ……はっ、はぁ」
「ふあっ……さっむ……ふぅ」
歯をガチガチ鳴らせて震えるアイビーと、まだ余裕のある僕。
この間とはまるで反対だ。
「スカビオサ……しなっ死なないでっ……ひっひとりっ……やっだ……うっ」
涙を流しながら、僕に訴えるアイビー。
頬を濡らす水滴が海水なのか、それともアイビーから流れた体液なのか、分からなかった。
「……まだ、ここは浅い。出る?今ならまだ間に合う」
「あっ……うっ……」
こくり、とアイビーがかすかに首を揺らしたのを見て、僕はアイビーを姫抱きにして陸へ上がる。
アイビーの体は揺れてこそいたものの、人並みの体温なんて感じなかった。
それから、村の奴らに見つからないうちに牢へ戻った。
「……君って人は、本当に自分勝手だな」
「……ふっぅ、ふえぇ?」
まるでこの前とは別人のように弱っているアイビー、その表情は初めて見たかも。
今日くらい、僕にリードさせてよね。
「責任取るって約束、忘れたの」
僕はムスッ、と頬に少し空気を入れて彼女を睨んでみせる。
「ぁ……ご、め……」
「なら、僕への反省として、今日は僕にリードさせて?」
「っ!!?」
少し深い接物をしてみせた。
どうだ、僕だってこのくらいできるんだぞ。
ししっと歯を見せて笑ってみる。
「スッ、スカビオサ……!?」
「ははっ、いいねその顔」
林檎のように赤いアイビーの顔を見れて、僕は満足だよ。
コメント
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語彙力少し分けてくれ...
君は神だよ……
またまた···才能あるなぁ···尊敬···