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#💛💜
愛日
1
阿部は今、ラウールと一緒に買い出しに来ていた。
向井のカフェで使うもの、足りなくなった事務所の備品、お茶やお菓子類。宮舘が使っている食材は、本人が自分の目で選びたいというのでそれ以外のものを持ち回りで担当しているが、普段からあまり依頼に赴かない阿部とラウールが担うことが多い。
💚「ボールペン、テープ、紅茶……うん、全部そろってるね」
🤍「もー、みんなここぞとばかりに頼むんだからー」
💚「でも今日は車使えたから良かったよね」
🤍「もー僕、疲れたよー」
💚「あともうちょっとだから、頑張って」
両手いっぱいの荷物を二人とも持っていて、結構な重さになっている。
近くの駐車場に停めてある車に向かうと、車のバックドアを開けてそこに荷物を置いた。
🤍「あー、もう動けなーい」
💚「お疲れ、ラウ。戻ったら康二のカフェで何か飲ませてもらおう」
🤍「さんせーい!」
くたくただよー、と荷物を置いた傍に座り込んでしまった。
しょうがないなと思いながら、視線を彷徨わせた時だった。駐車場内で、何人もの子どもたちがマイクロバスに向かって歩いているのが見えた。先頭にいるのはライオンの被り物をしている人で、その後ろにいる子ども達は楽しそう。
その中で、ポロっと子どもの一人が物を落とした事に気付いた。
💚「あ。ラウごめん、ちょっと待ってて」
🤍「どうしたの?」
💚「落とし物、届けてくる!」
すぐに走り出して、落ちていた小さなぬいぐるみのキーホルダーを手に持ち、マイクロバスに乗り込んでしまった子どもを追いかけて、阿部もバスに乗り込んだ。
💚「すみません! これ、落とし、て……」
中に入って見えたのは、ライオンの被り物をしている人物が持っている拳銃。突然の阿部の声に驚いたらしいライオンがその拳銃を阿部に向け、その瞬間に拳銃を持っている相手の右手を左の掌底で押して軌道をずらして拳銃を落とさせ、そのままライオンの右腕を捻り上げて床に組み伏せた。
普段はあまり表に出ることがなく、使う機会もないけれど、阿部だって特務調査局の一員なのだからこのくらいはできる。
このまま警察に通報すればいいかな、と思った時だった。
背中に押し付けられた硬い感触。
「ゆっくり、そいつから離れろ」
背後から聞こえる低い男の声。まだ、仲間がいたらしい。
「誰かー! 誘拐よー!」
年配の女性の叫び声が遠くから聞こえる。
「チッ。さっさと出せ」
苛立ったような背後の男の号令で、バスのドアが閉まって発車した。
阿部がキーホルダーを拾ってバスの方に向かったのを、車の後ろから覗き見ているラウール。
🤍「相変わらず優しいな、阿部ちゃん」
落としたのを見かけたからと言って、バスの中まで届けてあげる人など、阿部くらいではないだろうか。ラウールも拾いはするけれど、声をかけるだけで中までは行かないだろうなと思っている。
ラウールは派手な見た目と違って人見知りということもあるのだけれど。
そうして眺めていると。
「誰かー! 誘拐よー!」
そんな、年配の女性の叫び声が聞こえてきた。
🤍「えっ、誘拐?!」
驚いて車から飛び降りると、辺りを見回して声を発したであろう女性を見る。そのぽっちゃり体系の女性が走って向かっている先は、阿部が乗ったマイクロバス。
🤍「ん……えっ?! 誘拐って、あのバス!?」
慌ててバスの方に向かおうとしたのだけれど、バスはドアを閉めて走り去ってしまった。
🤍「追いかけなきゃ! って、僕、運転できないんだった! で、電話!」
スマホを落としそうになりながら取り出して、履歴の一番上にあった電話番号にかける。
🖤『もしもし? ラウール?』
🤍「めめ! 大変! 阿部ちゃんが誘拐されちゃった!!」
🖤『……はあっ?!』
動き出したバスの車内で、自分の背中に銃口が当てられているのが分かり、組み伏せていたライオンからゆっくりと離れる。自分だけが撃たれるならまだしも、軌道がズレたり貫通して子ども達に当たるのは避けたいから、従うしかない。
すると、立ち上がったライオンがこちらを見ながら肩と首を回し、阿部の胸倉を掴んだかと思うと床に投げ飛ばされた。
床に叩きつけられる阿部。子どもたちから、悲鳴が上がる。
💚「っ」
「さっきのお返しだよ。おら、奥行け!」
二の腕を掴まれて無理やり立たされると、後部座席の、二列側の窓際に座らされた。
両手首を掴まれると、結束バンドで一纏めに拘束され、それから前の座席の手すりにもう一本の結束バンドを使って括り付けられる。
💚「一体、何が目的なの?」
「静かにしてろ!」
ライオンが持っていた拳銃で首筋を殴られ、壁にもたれかかる。
目を閉じたまま、阿部は電脳空間に入った。
運転ができないラウールは移動もできず、大慌てで走って来た目黒と合流する。
🖤「ちょっと、阿部ちゃんがっ、誘拐って、なに……!」
🤍「この人から事情は聞いたよ。さっきの話、もう一回してもらっていいですか?」
「あ、はい」
女性が話してくれたのは、今日は動物園に行くのにバスを手配していて、その準備をしていたら、被り物をした人たちが子ども達を迎えに来て、動物園だから子ども達を喜ばせる為だと思っていたそう。
けれど、その後に迎えに来たという人たちが現れて、誘拐だと気付いたのだという。
🖤「で、何で、阿部ちゃんが?」
🤍「落とし物をした子がいて、届けに行ったんだよ。そしたら、阿部ちゃんも乗ったままバスが出ちゃって。めめ、どうしよう」
🖤「とにかく、そのバスの行方を追わなきゃ。ラウール、ナンバー憶えてる?」
🤍「うん! 今、調べて……」
スマホが震えて着信を知らせる。
🤍「えっ、阿部ちゃん!? もしもし!」
💚『ラウ。今、電脳空間から連絡してる』
🤍「電脳空間って、大丈夫なの?」
💚『殴られて気絶したフリしてるよ。異能封じは使ってないみたい。時間がないから、手短に話すね。犯人は二人。ライオンの被り物をした男と、パンダの被り物をした男。声しかわからなかったけど、多分二人とも若い。運転手は犯人側かそうじゃないのか分からなかった。ライオンとパンダは拳銃を持ってて、子どもたちは拘束されてない。スマホも取られてないから、俺の位置情報をラウのスマホに送っておくね』
🖤「阿部ちゃん、無茶しないで。すぐ助けに行くから」
💚『うん。でも、子ども達の安全が優先で。いざとなったら、俺も異能使うから』
🖤「阿部ちゃん」
💚『あ、そろそろ戻るね。あんまり中の状況がわかんないのも困るから。またね』
ブツッと切られた電話。
しばし、二人で眺めている。
🖤「またねって……」
🤍「緊張感ないなぁ、もう。とりあえず、位置情報だけあれば追えるね。めめ、運転よろしくー」
🖤「わかったよ。でも俺、運転に集中するから話はできないよ」
🤍「それも分かってるって! いざ、阿部ちゃん救出へ、しゅっぱーつ!」
🖤「ラウールだって緊張感ないじゃん」
🤍「阿部ちゃんが何も焦ってなかったから、大丈夫かなって。異能封じ使ってないってことは、異能のこと警戒してないわけじゃん? だったら平気だよ」
🖤「なるほどね。まあ、とにかく急ぐよ」
目を開ける。
隣にいた筈のライオンはいなくなっていて、椅子の背もたれが高いから前の状況がイマイチわからない。
手首の結束バンドを外そうと捻ってみるけれど、硬く留められていて外れない。
衝撃を加えれば外れるのは知っているのに、括り付けられているからどうすることもできない。
現状、ラウールたちに伝えたこと以上の情報はないので、ただバスに揺られている。
先頭の方で男達が話している声が聞こえた。
💚(誰かと話してる? 電話?)
それはつまり他にも仲間がいるということで、今ここにいないということは別のところで何か別の目的の為に動いている可能性がある。
けれど、会話の内容までは聞き取れない。
もう、出発してから30分くらいは走っているだろうか。
窓はカーテンが閉められているから外の状況がわからないけれど、車が大通りから細い道に入ったように速度が遅くなった。
そして、ゆっくりとどこかに入り込む。
するとライオンが阿部の方に近づいて来て、持っていた布で目隠しをされた。この先、何か見てはいけないものがあるという事だろうか。
「変な真似したら、ガキ共撃つからな。大人しくしてろ」
バチンと結束バンドが切られる。拘束が解けたのかと思ったけれど、手首に感じている圧は消えていないから、手すりに繋いでいた方が切られたのだろう。
目隠しをされていて見えない状態で制圧するのはリスクが高すぎる。それこそ、周りにいる子ども達が撃たれては意味がない。少し緩んだ手首の結束バンドを持って引っ張られ、転ばないようにしながらバスから降ろされた。
ここが目的地なのかと思ったけれど、「こっち乗れ」と言われたから、再び車に乗り込むのが分かった。だから、上に引っ張られるのに合わせて足を上げる。なんとか転ばないで乗った車は、先ほどよりも小さな車だと思う。
その車の、天井近くの手すりに今度は括り付けられ、ライオンが運転席の方に向かったのが分かった。
先ほどまでの運転手はどうしたのだろうか?
けれど、ライオンが運転手を務めるというのなら、今ならいけるかもしれない。
目隠しもされているから、目の色が変わってもバレにくいだろうと、阿部は電脳空間へと入った。
その頃、車で阿部の乗ったバスを追っていた目黒とラウール。ずっとスマホを見ていたラウールが「あっ」と声を上げた。
🤍「バス、停まった」
🖤「どこ?」
🤍「藤山倉庫ってとこ」
🖤「じゃあ、そこが目的地?」
🤍「んー、どうだろ。誘拐するにしてはさ、近くない? すぐバレちゃいそう」
🖤「確かに。そんな複雑なルートも走ってないし」
🤍「俺たちの車から10分くらいの距離だから、追いつけちゃうね」
🖤「ならいいんだけど……」
少し、苛立っているような目黒。当の本人である阿部が焦っていない分、余裕はあるのだろうけれど、誘拐されているという事実にモヤモヤとしているのだろう。
🤍「めめ、落ち着きなよ。今回はさ、阿部ちゃんは巻き込まれただけで標的じゃないんだから」
🖤「いやでも、そっちの方が危なくない? 銃持ってんなら、撃たれる可能性だってあるし」
🤍「そうだけど。いざとなったら異能使うとも言ってたしさ。阿部ちゃんの電気の異能なら、何とかできそうだし」
🖤「……動ければの話だろ。銃付きつけられたり、子ども達を盾にされたり……そういう場合、阿部ちゃんは間違いなく自分の命より子ども達をとるよ……そういう人だから」
🤍「確かにね。無茶をしないわけない、か……あ! また動いた」
🖤「え」
🤍「さっき向かってた方じゃない。今度はね、西に向かってる。めめ、次の信号、左に行ける?」
🖤「わかった」
案外、すぐに車が発進している。何かを待っていたのか、他に仲間がいて合流したのか、それとも―――。
そんなことを考えていると、再びラウールのスマホが着信を知らせる。
🤍「あ、また阿部ちゃんだ! 阿部ちゃん、どうしたの?」
💚『ラウ、めめ。車が何台かに分かれた。バスじゃないと思う。バンっぽい車かな。俺、目隠しされてるからどんな車に乗ったかわからなくて……』
🤍「目隠しって……何か見られたくないってこと?」
💚『そうも思ったんだけどさ、俺の動きを制限する為かも』
🤍「ん? 何で?」
💚『いや、バスに乗ってすぐに犯人の一人を制圧しちゃったんだよね。それで警戒されちゃったかなーって』
🤍「もー、何やってんのー」
💚『だってさ、銃持ってるんだよ? 一人だよ? 倒せそうなら倒すでしょ。ラウだってめめだって、異能使わなくても強いし』
🤍「まあねー。異能者相手じゃなかったら、僕もやっちゃうかも」
💚『まあ、結局は後ろからもう一人が来てダメだったんだけどね。あ、でさ。さっきバスが停まったとこに、誰か向かえる?』
🤍「行けると思うよ。今は僕とめめで阿部ちゃんのこと追ってるけど、事務所には人いるし。何か気になる事でもあった?」
💚『バスの中で電話してたからもう一人、犯人がいるんだと思う。それに、犯人の目的がわかるようなものが残されてたらなって思って』
🤍「わかった。調査してみるね」
🖤「阿部ちゃん。俺らはずっと追いかけてるから、無理しないでいいからね」
💚『ありがと。頼りにしてるよ!』
ブツリと通話が途切れて、画面を見つめる。
🤍「めめ、ケータイ貸して」
🖤「ん。そこに置いてあるから使って」
運転席と助手席の間にある物入れに刺さっている黒いスマホを手に取り、ラウールのスマホを、ナビの横のエアコン口に取り付けているスマホホルダーにセットして目黒が阿部の位置を把握できるようにすると、ラウールは深澤に電話をかけた。
💜『もしもし? めめ?』
🤍「ぶっぶー。ラウールでしたー!」
💜『あれ? ラウ? ん? なんでめめと一緒? 阿部ちゃんと買い出しじゃなかったっけ?』
🤍「ふっかさん、落ち着いて聞いてね。阿部ちゃん、誘拐事件に巻き込まれちゃって」
💜『ぅえっ!? 誘拐!? 阿部ちゃんが?!』
🤍「だから、巻き込まれたの。で、僕とめめで後を追ってるんだけど、正直、犯人の目的とか分かってないんだよ」
💜『う、うん』
🤍「それでね、乗ってたバスから乗り換えた倉庫があるんだけど、乗り捨てたバスに何かヒントがないか探ってほしいんだ」
💜『ああ、うん、わかった』
🤍「それと、誘拐されたのは子ども達で、同じ小学校のクラスメイトなんだって。普通の小学校の子たちみたいなんだけど。詳細はチャットで送っておくね」
💜『頼んだ。俺と舘さんで、その子たちについても調べとく』
🤍「阿部ちゃんの話だと、実行犯は若い男二人と、運転手、それと別の所にもいるみたいで電話してたって」
💜『それだけ情報あれば十分かな。めめ、ラウ、危険だけどよろしく』
🖤「はい」
🤍「阿部ちゃんは絶対守るから、こっちのことは任せて!」
そう言って通話を切る。
🤍「めめ、阿部ちゃんの車、追えてる?」
🖤「大丈夫。さっきの乗り換えで少し近づいたから、5分くらい離れたとこにいるよ。都心から離れて、山の方に向かってるみたい」
🤍「山かぁ……なんか、それらしい要求とかなさそうだったし、何が目的なんだろ……」
🖤「とにかく、追ってるのはバレたくない。今の距離感のまま行くよ」
車の視界に入ってしまえば警戒されてしまう。阿部のスマホの電源が切られたり捨てられたりしなければ、追い続ける事ができる。
このまま、何もなければいいのだが。
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