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空
腹で倒れていた私を助けてくれた恩人でもある。
私が彼女に抱いた第一印象はそのくらい良いものだった。
「あのー、ここどこなのか教えてもらえたりしますか? あとこの世界について何か知ってたら教えて欲しいんですけど・・・・・・」
私は不安になりながらもそう聞いてみた。すると彼女は少し考えた後にこう言った。
「ここは私の家だよ。君は異世界から来たんだよね? 実は私もその異世界に行ってみたいと思っていてね。ちょっと君の世界のことを聞かせてくれないか?」
どうやら彼女の好奇心を刺激してしまったようだ。これはまずいことになったかもしれない。
「えっとですね・・・・・・そのぉ・・・・・・なんていうか・・・・・・」
彼女が興味津々といった様子でこちらを見つめてくる。しかし、こんなことを正直に言ってもいいものだろうか? 信じてくれるのかすらわからないというのに。それに、仮に信じてもらったとしても、そこから先はどうなる? 元居た場所に帰る方法を教えてもらうとして、それだって簡単じゃないはずだ。下手すれば一生帰れないということも有り得るだろう。そもそも帰してくれるかも怪しいものだ。
私は迷った末に正直に打ち明けることにした。もちろん元の世界のことや、どうしてここに来たかを。
そして全てを話し終えた後、彼女は一言こういった。
「よし、じゃあ行こう!」
「はい?」
思わず聞き返してしまう。一体どういうことなのだろう? 行くってどこに? まさかまた森の奥深くとか?
「えっと、何に行くんですか?」
恐る恐る聞いてみると、彼女はあっさりと答えを口にした。
「君の世界に決まってるじゃないか。面白そうなところだし、一度行ってみたいなと思っていたんだよ。それで、もし良かったら連れていってくれないかな?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
こうして私は、彼女のことをひととおり知ることができたわけである。
その日は朝から雨だった。空を見上げると灰色一色の世界が広がっている。今にも泣き出しそうな雲行きだったが、私は傘を持って出かけることにした。
駅に着くころになって降り始めた小糠のような雨はすぐに大粒に変わり、アスファルトの色を変えていく。電車に乗っている間に降り始めなくてよかったと思いながら、窓の向こうに広がる景色を見るともなしに眺めていた。
私が住んでいる街は海に面している。最寄り駅を出てしばらく歩くと大きな橋を渡ることになるのだが、このあたりでは一番高い場所であり、そこから見える海の光景はとても美しい。晴れていれば遠くまで広がる太平洋が見えるはずなのだが、この日はあいにくの曇天模様のため薄暗い色をした海面しか見えなかった。
しかし、それでもなお、私は少しだけ嬉しかった。なぜならば、この時間帯なら誰もいないはずだからである。私の住むアパートは海岸沿いにあるため、夕方になるとすぐに暗くなってしまう。そのため、夕焼けを見たことがないという人も多いらしい。私自身も同じことで、子供の頃からずっと気になっていたのだ。いつか見てみたいと思っていた風景が今日やっと見られたことに感動していた。しかもそれが自分の部屋の中から見られるなんて最高である。こんな経験ができただけでもこのバイトをして良かったと思う。それに何よりもあの人と出会えたことが一番嬉しいことだ。
***
それは一ヶ月前のこと。その日は雨が降っていてとても寒かった。天気予報では午後からは晴れるということだったのだが、なかなか天気はよくならずにいた。そして、とうとう雪まで降り始めた。今日はバイトがあったのだが、こんな日に仕事に行く気にもなれず私は家でごろごろしていた。
すると電話が鳴る。誰かと思って受話器を取ると、「あー、もしもし」という声が聞こえてきた。知らない人の声だったので一瞬戸惑ったが、すぐに思い当たる節があることに気づく。
「あの、もしや先日の電話の方ですか?」
そう言うと相手は「ああ!」と思い出したように言った。
「うん、覚えてるかな?」
「もちろんですよ。それで何か用だったんですか?」
私が聞くと、相手は少し間を置いてこう切り出してきた。
「実はさ、僕今度結婚することになったんだよね」
「えっそうなんですか? おめでとうございます!」
私は嬉しくなって思わず大きな声で言ってしまう。しかし彼はなぜか暗い調子のまま続ける。
「それで結婚式をするんだけど、そこで余興を頼めないかと思ってさ」
「余興?」
予想していなかった依頼に、私はつい聞き返してしまう。
「ほら、僕は君のことを覚えていたけど、君は僕のことを覚えていなかったでしょう? それに名前だって違うし」
「それはそうだけど、私は貴方のこと忘れたことなんて一度もなかったわ!」
「そうなんだ、ありがとう。じゃあこれからはずっとそばにいるよ」
「嬉しいけれど、それなら私と一緒にいてくれないかしら? 貴方がいないと寂しいもの」
「もちろんだよ。今度こそ絶対に離さないから」
「本当に約束してくれる? もし破ったら許さないわよ」
「大丈夫、僕は嘘つかない主義なんだ。だから安心してくれて構わないよ」
彼は優しく微笑む。その笑顔を見て彼女は思わず涙を流す。
そして二人は抱きしめ合い、互いの温もりを感じ合う。
この瞬間が永遠に続けば良いのに
そんな想いを抱きながら、幸せに包まれた時間を噛み締めていた。しかし、それは一瞬にして崩れ去る。その日、わたしは家族と一緒に遊園地に来ていた。ジェットコースターに乗り込んだまでは良かったのだが、急降下中にシートベルトが外れてしまったのだ。当然そのまま落下していく訳である。
(あー…….死んだわ、コレ)
人生を諦めた瞬間だった。地面が迫ってくる中、衝撃に備えて身構えるもいつまで経ってもその時が訪れなかった。不思議に思って目を開けると、そこは見知らぬ世界。
――異世界召喚されていた。