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まことしやかに囁かれ始めた噂。‐19時30分の電車に乗ると呪われる。
2組の沙莉ちゃんっていたよね?あの子、呪い殺されたらしいよ。
梨花ちゃんが隣にいたんだって。
白い手型が付けられたら、3日以内に殺されるんだって。
知ってる!隣のクラスの子、首に手形がついてたんでしょ?
そうそう!2日後に急に体が燃えたんだって。
ちがうちがう。体が真っ二つになったんだよ。
嘘だぁ。骨が全部折れたって二組の男子が言ってたよ。
全部嘘だ。嘘。ウソ。うそ。
皆、ウソつき…。
将来看護師になるんだって勉強をがんばっていた。生まれつき足の不自由な妹の莉奈みたいに、一生懸命生きてる子の力になるんだって、笑っていた。
優しくて、強くて、頑張り屋の沙莉。
私の友達の沙莉は、呪われるような子じゃないよ!
瞼の裏に、血を吐いて痙攣する沙莉が焼き付いて離れない。
原因不明。
そんなの納得できないでしょ?
沙莉のお葬式に行くと、妹の莉奈ちゃんが車椅子を一生懸命押して近づいてきた。
「梨花ちゃん。」
莉奈ちゃんは、大きな目に涙をいっぱい溜めて、一生懸命笑ってくれた。 沙莉によく似た顔で。
「来てくれてありがとう」
「うん…。」
「あのね、梨花ちゃん」
莉奈ちゃんは、真剣な目で私を見つめた。
「お姉ちゃん、呪われてなんかいないよね?」
私は、莉奈ちゃんの目をまっすぐに見つめ返した。
これだけは自信を持って言えるから。
「うん。沙莉は呪われるような人じゃないよ」
「うん…」
莉奈ちゃんの目から涙がこぼれた。
でも…、沙莉は死んじゃった。
私は、もう一度、あの電車に乗るために、準備をした。
塩を持って、お守りを持って。
ママに電車で帰るって言ったら、心配された。それでも、沙莉がどうして殺されたのか知りたかった。
そう。呪いだろうが何だろうが、沙莉は殺されたんだ。何か得体の知れないものに。
握りしめた拳が白くなるほど、強く力を込めた。
どうして沙莉なの?どうして呪いなんていうの?
幽霊だろうが呪いだろうが、殺人だ!許さない。
莉奈ちゃんの気持ちも、私の気持ちも踏みにじって、面白おかしく呪いなんてもので片付けさせたりしないから!
駅に向かって一歩踏み出した時、悟くんが声をかけてきた。
「梨花。お前迎えじゃないの?」
悟くんは、沙莉と私と同じクラスで、生徒会長もしていて、すごく頭のいい男子だ。
でも、偉そうにしないし、すごく優しいし。背はちょっと低めだけど。
黒い大きめのフレームのメガネが、色白の顔と絶妙なコントラストだよね。
沙莉のことも、勝手なこと言うなってバカ笑いする男子を怒ってくれた。
「悟くん。…うん。今日は電車で帰るの」
「止めとけよ。バスで帰ろうぜ?」
「バスって…かなり待たないと…」
「図書館行こうぜ?」
悟くんは、苦笑いした。
「わからないとこあるんだ。教えてよ」
「嘘だぁ。」
私が笑うと、悟くんも笑った。
「嘘じゃないよ。ほら、図書館行くぞ」
本当は、図書館行きたいよ。でも、今図書館行ったら、もう二度と電車に乗る勇気が出ない気がして、首を横に振った。
「ううん。帰る。…電車で」
悟くんは、眉間にしわを寄せて、ちょっと怖い顔をした。
「沙莉のこと?」
真面目に睨まれて、嘘はつけなかった。
「うん。…沙莉が倒れる前に、女の人の話をしてたの。私にはその女の人が分からなかった。でも、沙莉には見えていた。それで、手を…振ったの。その女の人に。そしたら倒れたの」
悟くんは、睨んだまま聞いていた。
「私ね、気絶しちゃったけど、気絶する前に、その女の人を見た気がするの」
「うん。だから?」
「だから…、だから…。」
私は言葉が見つけられなかった。
「その女の人を見つけに行くのか?見つけてどうする?」
「……沙莉を殺した理由を聞くの」
「その女の人が殺したのか?だったら、警察に行くのが先だ」
「…ちがう。その女の人、人じゃないんだと思う」
私はおどけて笑った。
「警察でも、幽霊は逮捕できないよね!」
悟くんは、笑わなかった。
「梨花、今日は止めとけ。」悟くんの声は大人びていた。「今日は、俺と話をしてくれ。」
悟くんは、そう言うと、私の手を引いて、駅とは逆方向に歩き出した。