今夜、リクは少しだけ勇気を振り絞っていた。ショウに、ちゃんと自分の気持ちを伝えようと決めていたのだ。 でも、ショウはいつものように他の客とも笑い合い、リクの視線には気づかないふりをしている。リクの胸は、甘いカシスオレンジとは裏腹に、苦さで締め付けられていた。
「ショウ、ちょっと話したいんだけど」
やっとの思いで声を絞り出すと、ショウは少し驚いたようにリクを見た。
「ん? なんだよ、急に真剣な顔して」
ショウはグラスを拭きながら、リクの隣に肘をついた。その距離が近すぎて、リクの心臓はうるさいくらいに跳ねる。
「俺、ショウのこと…」
言葉が喉に詰まる。ショウは静かにリクを見つめ、軽い笑みを浮かべたまま待っている。
「…好きだ」
やっと吐き出した言葉は、バーの中の喧騒に紛れてしまいそうだった。でも、ショウの目にはちゃんと届いたらしい。
ショウは一瞬、目を細めてリクを見た。そして、ゆっくりと言った。
「リク、悪いな。俺、誰かとちゃんと付き合うってタイプじゃなくてさ」
その言葉は、リクの胸に突き刺さった。ショウらしい、軽くて、でもどこか本気の拒絶。
「ごめんね、じゃなくてさ」リクは震える声で続けた。「俺、ショウと過ごした時間が楽しかったって、ちゃんと覚えておきたいだけなんだ」
ショウの表情が、初めて揺れた。いつも余裕たっぷりの彼の目が、ほんの一瞬、戸惑ったように見えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!