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#片想い
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#キャラ崩壊、口調迷子注意
文スト×ヒロアカ5
「ちけぇよ、離れろや」
「違いますー、僕がデカいだけですー。あっ、中也が小さいだけか。ごめんね〜」
「あ゛?なんだとクソ太宰」
…
(ここで喧嘩しないで欲しい…)
運転手の心の声である。そう、ここは雄英高校から森邸まで送る車の中である。
「まぁ?君は女の子だもんね、ちっちゃくて当然か!あれ?でも前もこれくらいじゃぁなかったかい?男でも女でも中也はチビなんだね〜」
ニヤニヤとした顔で煽ってくる太宰。
「だ・か・ら‼︎俺はまだ成長期なんだよ‼︎これから伸びるんだからあーだのこーだの言うんじゃねぇ‼︎」
「ぷぷぷ、まだ伸びる気だったのかい?諦めなよ。男であんなに毎日牛乳飲んでたのに一七〇センチいかないチビなんだからさ。」
「よし、お前を窓から放り投げる」
(やめてくださいここ高速です‼︎)
運転手の必死の願いが通じたのか、はたまた本気ではなかったのか、怪しいところだが、実際に太宰がこの車から放り出されることはなかった。
「本当この駄犬ってば短気なんだから!君もそう思うよね⁈」
急に話を振られぴくりと肩が動く運転手。
「わっ、私は最低限お話ししないよう言われておりますので…」
流石はポートマフィア、下っ端であっても教育が行き届いている。
(なんで俺がこんな目に〜!!!)
前世を知るものならわかる。“太宰幹部の中原幹部関連の質問には答えるな”。もし問いにに真剣に答えて仕舞えば、その後の命の保証はできない。それで太宰に殺されかけたものが何人いたかとか。否、実はもう息の根がないものもあるかもしれない…。
本人は自覚がなかったようだが、その頃から太宰の中也への独占欲は異常なものなのだ。
『はい』と答えれば『は?君中也のことどんな目で見てるわけ?』と顔面に銃口を突きつけられ、『いいえ』と答えれば『一般常識も理解できない奴なんてここにいる必要ないから』と胸に銃口を突きつけられる。
古参ほど理解しているが故に、ひどく怯えるのだ。
(こんな話もあったよな…)
前世聞いた、ある新人の話だが、
『中原さんって綺麗な顔してますよね』
と言っただけで、
『へぇ』
笑顔の太宰に肩を組まれ、その後三時間に渡り
『どこが?』 『具体的にどこが?』 『何秒見た?』 『なんで見た?』 『何を思った?』
という尋問を受けた。
新人は泣いた。
中也は後日その話を聞いて、
『いや怖ぇよ』
と本気で引いた。
なお太宰本人は、
『僕はただ事実確認をしただけだよ?』
と言っていた。
誰も信じなかった。
「ちゅーや!ちゅーやちゅーやちゅやちゅーや!」
「うっっっぜぇ!!!」
車内に響く怒号。
運転手はもう悟っていた。
(あと何分だ……森邸まであと何分だ……)
目的地までの時間だけを必死に考えることで精神を保っている。
「はー、もうなんで森さんの家なんていかなきゃいけないのさ。探偵社に直行するか中也との新居に帰りたいんだけど。」
「俺との新居なんぞこの世に存在しねえぞ。俺は森邸が住所だかんな。一緒に暮らしてぇなら避けては通れねぇぜ?」
「最悪すぎるんですけど…」
オェっとでも言うような顔で吐き捨てる太宰。
「手前が勝手に言い出したんだろうが。」
中也は呆れたようにため息を吐いた。
「だってさぁ。」
太宰は窓の外を眺めながらぶつぶつ言う。
「なんで君の保護者が森さんなんだい。」
「保護者じゃねぇ。」
「保護者だろ。」
「違ぇ、正確には紅葉の姐さんが俺の保護者だ。」
「あぁそういや前からそんな感じだったよね…」
太宰が腕をよく伸ばして伸びをする。
「お腹すいた〜!今日のご飯なぁに?」
(当たり前のように作ってもらえると思ってるんだな…)
そんな言葉は当然外に出ることはなく、口に固く封印された。いつものように中也が煽りに乗ってきて喧嘩になる…そう思い身構えていたが、
「内緒だ。楽しみにしとけよ?」
ニカっと笑みを浮かべ、そう言いながら人差し指を太宰の唇に当てるのがミラー越しにわかる。
「…ほんとそう言うところがタチ悪いよね。」
「ここは一本取られたって言うとこだろ?」
よく見ると太宰の頰はかすかに赤く色づいていた。
(こんなとこ、見たことない…)
下っ端人生初の光景であった。
「今気にするとこは飯の話じゃねぇよ。昨日説明したとはいえ、今の異能者組織がどうなってるか、首領に会う前におさらいしといたほうがいいんじゃねぇか?」
「僕を誰だと思ってるのさ…まあいいよ、声に出したほうがいいって言うもんね。」
ため息をついたかと思えば、太宰は中也の肩を抱き寄せ、語り始める。
「えーと、現在日本にはポートマフィアと武装探偵社という二組織の政府公認異能組織があり、それらの構成員はもれなく異能特務課の政府公認ヒーローとなる。そんでもって、ポートマフィアは主に暗殺などの裏の仕事を、武装探偵社は護衛などの表の仕事を引き受ける役割分担がされており、世間的には別組織とされている。が、実際は異能組合という一つの組織であり、トップは二組織の長が務めている…ね?完璧でしょ?」
「…合ってる」
苦虫を潰したような顔で中也が答えた。
「なんで悔しそうなのさ!」
「テメェのその頭脳の気色悪さにやられてんだよ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしてくんない?」
「一度しか説明してねぇってのに、なんでそこまで覚えてるんだよ。徹夜で疲れがピークな時に言ったのに。」
「僕の特技じゃぁないか。君が誰よりもわかってるくせに。」
「なーに言ってんだ。あの名探偵に比べちゃあまだまだだろうが。あいつならあの情報だけで今日の夕飯くらい当てられる。」
「やめてよ、乱歩さんは世界一の名探偵なんだから。…って、他の男の名前出さないで。たとえ乱歩さんでも中也の口から出る言葉は全て僕じゃなきゃいけないんだから。」
車の中の空気が変わった。
(なんていうか、さっきよりも黒く濁った感じがする…)
「名探偵と俺がそんな関係じゃねぇってことぐらいわかるだろうが。それに与謝野だっているし。」
そんな空気を全く気にしないかのように当たり前のように言葉を繋ぐ中也。
「男の嫉妬は見苦しぜ?太宰」
中也は、わしゃりと太宰の頭を撫でたかと思えば、そんなことを漏した。
数秒、太宰はポカン…という顔をした。が、すぐに中也の髪をわしゃわしゃと強引に撫でた。
「もうっ!中也ってば、君が僕の狗なんだから立場考えてよ‼︎」
「誰が手前の狗だゴラァ‼︎」
(お願いだから車で喧嘩しないでくれぇ!!!)
浮かんでくるのは首領の顔…
『君確か運転免許証持ってたよね?なら太宰君と中也君のお迎えお願いしてもいい?』
(ニッコニコの顔で言われたのも、今なら理由がわかる…)
ピコンッ
喧嘩の声が響く車内に、通知の音が響いた。
「おっ、国木田からだぜ?そろそろヨコハマに着くってよ。」
「くにきーだ君かい?懐かしいねぇ、彼の死因は私のサボりすぎによるイライラ死だった…」
「バーカ、嘘つくんじゃねぇよ。」
「…つまんないのー。っていうか、なんでくにきーだ君と連絡交換してるわけ?しかも登録名国木田って、仲良くなったの?気軽に連絡を取り合う仲なわけ?」
「ウゼェよ。まぁ、前と違って今は探偵社とウチは共同組織な訳だからな。同僚だし仲もまあまあいいんじゃねぇか?」
中也がそう言った途端、太宰が、体勢を変え中也の顔を近づける。
「…中也ってば本当に学ばないね。さっき言ったばかりじゃん、“他の男の名前を出すな”って。君は僕のもの、僕だけのものなんだから他のやつに尻尾振らないでよ。たとえ国木田君であってもダメ。」
その声は先ほどのふざけた声ではなく、底の深い、黒いものであった。
「…誰が誰に尻尾振ってるって?ふざけてんのか手前。…俺がそんな誰にでも従順なワンちゃんだとでも思ってんのか?」
その言葉に、太宰の瞳にハイライトが戻る。
「…そうだね!君は僕だけに尻尾を振る、僕だけに従順な狗だった!疑ってごめんよ‼︎」
「今俺が言った言葉聞こえてんのか⁈耳狂ってんのか⁈」
「なに?『俺は太宰にしか尻尾を振らない従順なワンコです♡』だって⁇⁇」
「ちげーな脳がいっちまってる」
「ダーリンに向かってそれは非道くない?マイハニー?」
「キッショ」
一刀両断である。
「…話戻すけどさぁ、国木田君とある程度仲良さそうっていうのはわかるんだけど、今のその、異能組合ってそんな仲いいわけ?」
「まぁ、昔と違って全員同僚なわけだし、鏡花の大切な奴らだからな。」
「鏡花ちゃん今は君の妹なんだっけ?」
「俺と一緒で紅葉の姐さんの養子なだけだよ。世界一可愛いけどな。」
「わーシスコンだー」
「シスコンじゃねぇよ!まぁ、前は沢山辛い思いをさせちまったからな。沢山甘やかしてやらねぇと。」
「ふーん」
「最近はナオミとか与謝野呼んで鏡花のファッションショーとかしたりして…」
「一寸待ち給え。」
「なんだよ。」
「『なんだよ』じゃないでしょ?えっ、探偵社の女性陣とそんなに仲良くなってんの⁇⁇今は確かに女性だけど前は男でしょ?そんなラフな感じで仲良いの⁇てか今気づいたけど与謝野先生のこと与謝野って呼び捨てになってない?前は女医だったのに?」
「十五年以上女やってたらそりゃ慣れるわ!てか、与謝野は俺が姐さんとか首領に拾われた時には既にいたからな。姉貴分的なもんだよ。」
「ふーーん」
(そういや中也って、前から女子力が男のくせに超高かったんだった…)
炊事洗濯はもちろん、縫い物もできるし面倒見も抜群に良い。
(なんかつまんないのー)
「僕だけの中也なのに他の人にばかり愛想振り撒いちゃって…。」
「お前は特別だろうが?」
…
「え?今なんて言ったのちゅう…」
キキーッ
言い切る前に森邸に到着した。
「ほら、降りるぞダーリン」
…
(いっ、言ったーーーーーー!!!!運転手になってよかった。中原幹部がダーリンって言ったーーーーー!!!)
恨んでしまった首領には感謝の言葉しかない。
「…中也、愛してる、結婚しよう。籍はいつ入れる?今日?今日にする?」
「知ってか?15歳じゃ籍は入れらんねえんだよ。」
否定はしないんだな…と内心思うも、絶対に顔には出さずに二人を見送った彼(運転手)であった…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
森邸――。
ポートマフィア本部第二施設。
普段から幹部や構成員、関係者が頻繁に出入りするその屋敷は、この日ばかりはいつも以上に賑やかだった。
玄関ホールには料理人たちが腕を振るった豪華な料理が並び、リビングからは笑い声が漏れている。
ポートマフィア。
武装探偵社。
異能特務課。
表では決して同じ場所へ集まることのない三つの組織。
だが裏では『異能組合』という一つの組織。
今日は、その構成員たちが一堂に会していた。
理由はただ一つ。
――太宰治、帰還。
「着いたぞ。」
中也が玄関の扉を開く。
太宰は靴を脱ぎながら辺りを見回した。
懐かしい匂い。
懐かしい空気。
百年。
彼だけが知る時間。
彼だけが抱えてきた歳月。
(……本当に、帰ってきた。)
そう思った瞬間だった。
バァンッ!!
パンッ!!
クラッカーの音が盛大に鳴り響く。
色とりどりの紙吹雪が宙を舞った。
そして。
「「「太宰!!」」」
「「「太宰君!!」」」
「「「太宰さん!!」」」
一斉に声が重なる。
「「「おかえりなさい!!」」」
「…………」
太宰は動けなかった。
目の前には、
笑っている森。とクラッカーをもったエリス。
腕を組む福沢。
相変わらずお菓子を食べている乱歩。
ため息を吐きながらも口元を緩める国木田。
「遅かったじゃぁないか。」
と肩を竦める与謝野。
「久しぶりですね。」
柔らかく笑う谷崎とその隣で手を振るナオミ。
「太宰さん!」
嬉しそうに駆け寄ろうとする賢治。
静かに頭を下げる安吾。
紅葉は優しく微笑み、
鏡花は少し照れ臭そうに視線を逸らしていた。
みんないる、生きて笑っている…
(……嫌だな。こんなの、僕らしくない。)
目元が熱い。鼻の奥が痛い。喉が締め付けられる。
違う。違う違う。
これは疲れているだけだ。徹夜だったから。
そう。それだけ。
自分でそう唱える。
「……」
隣に立っていた中也が、小さく息を吸う。
そして。
誰にも聞こえないくらい。
本当に。
太宰だけに届く声で。
「改めて。」
少し照れ臭そうに。
でも、
優しく笑って。
「おかえり、太宰。」
その一言で。
胸の奥に押し込めていたものが、
音もなく揺れた。
百年前。
もう二度と聞けないと思っていた声。
何度夢に見たか分からない声。
(……ずるいなぁ。)
そんな顔で。
そんな声で。
そんな当たり前みたいに言われたら。
太宰はゆっくり息を吐いた。
涙は流さない。
ここで泣いたら、きっと皆が困る。
だから、いつものようにほんの少し肩を竦めて口元へ笑みを浮かべた。
「ただいま。」
少しだけ声が震えた。
「皆。」
そのたった二文字だけで。
十分だった。
ーーーーー
「さて、主役はこちらに来るべきじゃないのかね?」
森が両手を広げた。
「やーーだーーー。そこ森さんの隣じゃん。だったら紅葉の姐さんの方がマシ。」
「ほぅ?マシ…とはどういうことかえ?童よ…」
「ははは…言葉の綾ってやつですよーーー…国木田君助けて」
棒読みのお手本のような声でそう言った太宰は助けを求めるように国木田を見た。
「当然の報いというものだ。お前はいつもこううんたらうんたら…」
「国木田ストーップ。長い、うるさい、お菓子もってこい。」
「らっ、乱歩さんもう食べ終わったんですか⁈」
カラになった皿を持ちながら、今にも国木田に乗りかかろうとしている乱歩。
「当たり前だ!ほら早く僕のお菓子のおかわり持ってきて‼︎」
「自分で取りにいって下さい‼︎」
「やだね。」
「くにきーだ君ってば〜乱歩さんに逆らうなんて、あと千年は早いよ。」
「お前は黙っていろ!太宰ィィィ‼︎」
「やーーーだーーーーねーーーー」
「この唐変木がーー!!」
大広間に賑やかな声が響く。
森がぱん、と手を叩いた。
「さてさて…賑やかなのもいいけれど、まずは一番大事な話をしようか。」
部屋が少しだけ静かになる。
エリスがくすくす笑いながら森の隣へ腰掛けた。
「勿論太宰君は――」
森が優雅に笑う。
「我がポートマフィアへ所属するということで異論はな…」
「嫌ですけど。」
森の言葉に被せるが如く、太宰は素早い回答をしてみせた。
「なんでさ‼︎しかも言い終わる前に答えるなんて流石に酷すぎないかい⁈」
「だって僕、森さん嫌いだし。」
「ハッキリ言わないで‼︎」
周りにいたものたちは皆こう思っていた。
(((森のライフはもうゼロだ……!)))
「ダザイがそういうのも仕方ないわ。だってリンタロウがいるもの。」
「流石エリス嬢。話が分かりますね〜。」
「そんな!エリスちゃん⁈」
「リンタロウきもい。」
「ガビーン‼︎」
森は胸を押さえ、ふらふらと後ろへ下がる。
「おやまぁ鴎外殿も太宰には一本取られましたなぁ?」
「笑ってる場合じゃない…と思う。」
コロコロと笑う紅葉と、その後ろでヒョコッと顔を出す鏡花。
「それに、僕は友人と約束していますからね…」
太宰の発したその言葉に安吾の瞳が揺らぐ。まだ出会えていない、前世の二人にとって大事な友人…。
「だから、福沢社長。」
体の向きを変え、かつての長の目を見つめる。その表情は先ほどの落ちた声色とは異なり、いつもの胡散臭い笑みであった。
「また、“私”を、武装探偵社の一員として、採用してくれますか?」
一瞬の静寂が、その場を包んだ。
そして、
「太宰治…お前の席はずっと我が社に残ったままだ。」
福沢がそういうと、ポスッという音を出しながら太宰の頭を撫でた。
「改めて、歓迎する。太宰。」
珍しく目を見開き、太宰は、驚いたような表情をした。
そして、
「…ッはい」
そう言って、下を向き、笑った。
「ただし!お前が社に戻ってきたらやることは山ほどあるからな‼︎前世ほとんどの仕事を放り出してきたんだ!今世という今世は真面目に働いてもらう‼︎」
しんみりとした空気を壊すが如く、国木田の溌剌とした声が響く。
「ええ゛〜…君言うタイミング最悪すぎない⁇」
「何を言う⁈ほとんどの仕事を俺や敦の放り投げてきただろうが⁈」
(あいつ探偵社でも最悪じゃねえか)
先ほどから距離をとって様子を見ていた中也は顔を顰めた。思えば、国木田と仲良くなったのも、太宰の悪口…と言う名の愚痴が発端であった。
「しかし、即決とは思わなかったねぇ。ほら、ポートマフィア所属なら、四六時中中也と一緒にいれるじゃないか。」
与謝野の言葉に太宰が答える。
「前世だって組織抜けてからはそんな感じだったじゃないですか。それに、僕と中也は同じ家で暮らすし同じ学校に通うし、同じ部屋で過ごすし…」
「おいおい待て待て、最後のは認めてねえぞ。」
太宰が言い切る前に、中也の声が飛んだ。
「え?だって安吾が言っていたじゃない。資料百三十七枚終わらせるなら森さんに同室にしてもらうって。」
スッ…
目線を外した音がした。
(そういや雄英の教師陣に尋問された日にそんなこと言っていたような…)
中也の頭の片隅に、確かにそんな記憶があった。
「ちゃぁんと記録は残ってるからね。録音も書面もぜーんぶ♡ねっ?安吾!」
憎たらしいほど悪気のないかのような笑みを浮かべる太宰。
「教授眼鏡……‼︎」
ガタッ
メガネのズレる音がする。
「いつのまにか書面にも残しやがった‼︎」
「太宰君があまりにもサボるので、これを条件に出すと、彼は5分で残りの八十六枚の資料を片付けました…なので、中也さんがいない間に…。」
「よーし歯食いしばれ。」
「ストップストップ‼︎」
腕をまくりながら安吾と太宰に近寄ろうとする中也を全力で止める面々。
「ごめん僕もそれ許可しちゃったんだよね。」
「首領⁈」
「太宰君をマフィア側に引き摺り込む材料にする予定だったんだけどさ〜。」
テヘペロっとでもいいそうな顔で中也を見つめる森。
「僕森さんに対して初めて感謝の念を抱いたよ。」
今後一生抱くことはないだろうけどね、と付け足したが。
「鴎外殿?わっちはそんな話、一言も聞いておらんのだがのぉ?」
ゴゴゴゴッと後ろに炎が見える…いや、後ろに見えるのは紅葉の異能力、金色夜叉であろう。それらを身に纏いながら森の方へ歩いてくる紅葉は、まさに夜叉の如くの恐ろしさであった。
「前の生では男であったといえど、今はか弱き乙女であろうが。そんな中也とケダモノと一緒の部屋で過ごさせると言うのかえ?」
「ごっ誤解だよ、紅葉君。だからひとまずそれを仕舞ってもら…」
「言い訳は地獄で聞こうとするかのぉ。」
金色夜叉の薙刀が振り落とされる…前であった。
「あのっ!言っておきますが部屋自体は完全なる別室ですからね⁈」
安吾の声が響く。その声に夜叉の手も止まった。
「そう!その通りだよ坂口君‼︎」
「は??どう言うこと?安吾、同室じゃないって聞いてた話と違うんだけど。」
森と太宰の声が重なった。
「えー、太宰君と中也さんはこの森邸の別館に部屋を置いているため、大きく言えば同室です。しかし、個人の部屋自体は鍵付きで別れていますから、同じ部屋で過ごすわけではありません。」
…
「はぁぁぁぁぁっ!?!?」
太宰の絶叫が屋敷中へ響いた。
「詐欺じゃないか!!」
「詐欺ではありません。」
安吾は淡々と言う。
「だって資料百三十七枚って聞いたから僕頑張ったんだよ!? 死ぬ気で!!」
「実際、終わらせましたよね。」
「終わらせたけど!!」
「条件は『同室』ではなく、『同じ部屋として登録されている別館』です。」
「屁理屈だよ!!」
「法的には問題ありません。」
「法が敵だーーー!!」
太宰は頭を抱えた。
「馬鹿安吾!!」
「誰が馬鹿ですか。」
「中也と一緒の部屋で暮らせると思って頑張った僕の純情返して!!」
「純情という単語がこれほど似合わない人も珍しい。」
与謝野が呆れたように肩を竦める。
「つまり。」
国木田が手帳を開いた。
「太宰、お前の部屋と中原の部屋は同じ建物にある。」
「うん。」
「玄関もリビングも風呂もキッチンも共有。」
「うん!」
「寝室だけ別。」
「…………。」
「以上だ。」
数秒。
太宰は固まった。
そして、
「それもう同棲じゃないか!!!!」
「違ぇよ。」
即座に中也が切り捨てる。
「寝る部屋だけ別なんだからセーフだ。」
「どこが!?」
「全部。」
「じゃあ夜中に中也の部屋行ってもいい?」
「駄目。」
「朝なら?」
「駄目。」
「昼なら?」
「学校だ。」
「夕方。」
「駄目。」
「じゃあいつなら。」
「俺が呼んだ時だけだ。」
「……。」
太宰が固まる。
「……え?」
中也は首を傾げる。
「なんだ。」
「今。」
「ん?」
「今なんて言った?」
「だから。」
中也は不思議そうな顔をした。
「俺が呼んだ時だけ。」
「…………。」
太宰が静止した。安吾が心の中で呟く。
(SRだ。)
前世から付き合いの長い者たちは全員知っている。中也が意識して距離を詰める発言。
それは極めて希少。
しかも本人は分かっていて言っている。
つまり今のは、完全なるサービスである。
「ねぇ、今なんて言ったの?」
「何も見えないし聞こえません。」
「うーん、なんて言うか、別にダメじゃないんだけど子供には教育が悪そうななんて言うか…」
子供組の目と耳は塞がせてもらった。谷崎の弱々しい声だけがその場に残る。
「…やめだやめだ!なんか変な空気になった!あと、今後変なことしでかしたらすぐさまお前は探偵社寮に越してもらうからな‼︎それに、食事は本館で食べるし。」
そう言い中也は目の前の男の首元を掴むもの、返事はない。
「?おい、青鯖何やってんだ?」
覗き込むも、変化がない。
国木田が近寄る。そして…
「放心状態になっている、だと…⁈」
揺さぶっても魂が抜けたような顔をしている。
「あちゃ…やりすぎちまったか。」
中也が頭を掻きながらそう言った。
「まぁこうなるだろうとは思ってたけどね。」
乱歩は最後の一本のラムネを飲み干しそう溢した。
「まぁ、乱歩さんがそう言うなら、きっとそうなんだろうね。」
グビッとワインを飲んだ与謝野が前の二人を見た。
中也の死後の太宰を知る者はこの場に大勢いる。それら全てが今、同じことを思っているだろう。
“よかった”
と。
呪いとも言える遺言だけのために呼吸するようにしていた自殺もやめ、大っ嫌いな仕事も完璧にこなし、いつもニコニコと笑っていた。空虚な笑顔で。
そんな太宰が今、本当の幸せそうな笑顔を浮かべていることが、たまらなく嬉しく、たまらなく安心するのだ。
“おかえり太宰。おかえり中也。”
誰しもが、胸にこの言葉を抱えていた。
コメント
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うわあ、これはもう…冒頭から運転手さんが気の毒で笑った(笑)太宰と中也の掛け合いがテンポよくて、ずっとニヤニヤしちゃいました。特に「ダーリン」発言がまさか現場で聞けるとは…運転手さんの心中、めちゃくちゃ分かります。そしてラストの「おかえり」シーン、太宰が「ただいま」って言うところでグッと来ました。百年前の約束がようやく報われた感じがして、じんわり温かくなりました。森さんの早とちりな同室発言も含めて、愛しくて仕方ない回でした。お疲れさまです!